
自分の暮らすまちや旅先のまちを歩く。ふと、1つの家が目に入る。郵便受けにはチラシが溜まっているし、庭の手入れもされていないようだ。誰も住んでいないのかな、家の中はどうなっているんだろう。もしも自分がこの家に住んだら、どんな暮らしをするかな……。
そんなふうに、目に止まった空き家を「放っておけない」人に、今回の求人はぴったりかもしれません。
「小さなまちだからこそ、1世帯増えるだけで一気にその集落が変わり、活気が生まれる。空き家に関する事業は、地域活性において重要な役割を担っている手ごたえがあります」
そう語るのは、信濃町役場の定住支援員として空き家事業に携わる池田(いけだ)さん。自然豊かな暮らしを求めて、移住者が増加傾向にある信濃町。空き家バンクなどを通じた空き家活用によって地域活性の機運が見え始めたところですが、町は今、「移住希望者に対して住宅の数が足りない」という大きな課題を抱えています。

今回の募集は、地域おこし協力隊。池田さんや町役場、地域の方と一緒に町内の空き家を掘り起こして流通させ、まちに新たな住人を迎える体制を整える仲間を探しています。
「町内に住む場所が足りない」という大きな課題
最初に訪れたのは、信濃町役場のまちづくり企画係。

まちづくり企画係は、まちづくりの計画策定や移住者の定住促進など、シティプロモーション全般を担う係です。移住・定住者を増やすための取り組みとして、2014年から空き家バンクの運用を始めました。
まずは、信濃町の空き家の現状や課題について教えていただきます。
川口さん「信濃町は、もともと不動産業者が全く興味を持たないようなエリアだったんです。空き家バンクを始めた頃は町内に不動産業者が1社もなく、所有者へのヒアリングから物件の資料づくり、空き家の紹介や案内など細かな業務もすべて役場が担っていました。しばらくはネットでの情報発信もなく、資料は紙ベースのやりとりだったと聞いています」

その後、コロナ禍を経て人々のライフスタイルが大きく変わったことから、自然が豊かな田舎ながらも都市部とのアクセスが良い信濃町は、地方移住の候補として注目が集まるように。転入を希望する人が増え、信濃町で事業を展開する不動産業者も出てきました。役場の窓口にも空き家に関する問い合わせが増えてきたことを受け、2020年からは空き家の情報をデータ化。役場が運営する移住者向けサイトに、「空き家バンク」として情報を掲載するようになりました。
現在、定住支援員として空き家事業全般を担当する池田さんも、コロナ禍に信濃町で空き家を購入してリノベーションし、家族で移住してきた一人です。
池田さん「子どもが生まれるなどのライフイベントも重なり、もっと自然豊かな場所で自分たちのペースで生活を組み立てようと信濃町への移住を考え始めました。しかし、信濃町は賃貸物件が少なく、空き家バンクを見ても、自分たちが希望するような“住める状態”の物件はほとんど掲載されていない。家探しにはとても苦労しましたね。でも、実際にまちを歩いてみると明らかに空き家だろうという物件がたくさんあったんです。自分が空き家事業に関わるようになってからは、当時感じたもどかしさをバネに仕事をしてきました」

現在は、池田さんともう一人の役場職員が専任で定住支援と空き家関連の業務を行っており、空き家の発掘と流通の仕組みは徐々に整いつつあります。しかし「住む場所が足りない」という課題は依然として解消されていません。
川口さん「そもそも町内は、町営住宅なども含めて賃貸住宅がかなり少ないんです。信濃町の行政職員は201名いるのですが、そのうちの半数以上は町外に家を借りて信濃町に通勤しています。仕事はあるのに住む場所がないから人口も税収も増えていかない。本来であれば町に入るはずのお金が、外に出ていく一方になってしまっているのも課題のひとつです」
手放すまでのハードルを下げる丁寧なアプローチが鍵
そうした課題解決の突破口として川口さんたちが期待を寄せているのが、空き家物件の活用です。

池田さん「比較的低価格帯で状態の良い空き家を空き家バンクに掲載したところ、町内の賃貸物件で暮らしていた若いご夫婦や、地域おこし協力隊の隊員がその家を買って転居してくれるケースがいくつもあって。新たに賃貸住宅を増やさなくても、町に眠っている空き家を活用すれば、住まいの選択肢が増えてまちに新しい循環が生まれる。そこに僕たちは期待をしています」
今回の協力隊のミッションは、池田さんたちと協力しながら空き家に関する事業を加速していくこと。空き家の発掘では、町を歩いたり地域住民とコンタクトを取ったりして潜在的な空き家を見つけ、家主とコミュニケーションを取り、彼らの“家を手放す決断”に寄り添います。
その後は物件の流通に向けて、残置物の整理の手伝いや、適宜家の整備・改修を行い、町の不動産業者を紹介したり、空き家バンクに物件を掲載したりして情報を発信。さらに住宅の購入希望者ともコミュニケーションを重ね、移住後の定住サポートまでをしていくのが、おおまかな業務です。


池田さん「実際には人が暮らしておらず、家主が定期的に管理に通っているだけの空き物件は、いくつもあると思います。どうして手放さないかというと、『家じまい』に抵抗のある方が多いから。家族との思い出が詰まっていたり、地域内での関係性や世間体がネックになっていたり。そうした感情の部分にも丁寧にアプローチすることで、家主が家を手放す際のハードルを一つずつ下げていくことが、今回の協力隊の活動の中心になるかなと思っています」

さらに池田さんは、「小さなまちだからこそ、入居者と集落のマッチングが重要になる」といいます。単に「安いから買っておきたい」という投資目的の人や、「別荘として持っておきたい」という定住目的以外の人に家を明け渡してしまうと、結局空き家は空き家のまま。集落に活気が生まれないどころか、近隣住民の空き家活用に対する不信感につながりかねません。
池田さん「逆に地域の中に馴染む住民が入ってくれば、『うちの実家も新しい人に譲ろうかな』と空き家物件の流通はさらに進むはずです。空き家周辺の集落の方とお話をしながら、『こんな方に住んでほしい』という希望まで聞き出し、なるべくそれを叶えるところまで寄り添いたいなと思っています」
モデルケースをつくり、空き家活用の流れを町全体に広げていく
協力隊の任期は3年間。最初の1年は、空き家活用のモデルケースをつくっていきます。
池田さん「すでに物件として流通させられそうな潜在的な空き家が多くあって、声をかけられそうな集落の目星はついているんです。まずはその自治会の方に連絡を取って、集落の今後についてお話し、関係性を築くところから一緒に活動をしていければ」
いきなりまち全体にアプローチをするのではなく、特定の地域に焦点を絞って活動することで流れを掴み、2年目以降で別の集落にも範囲を広げていくイメージです。
川口さん「もちろん、いきなり『あとはよろしくね』とお願いするようなことはありません。自治会や集落の方とおつなぎするなど、役場側でもしっかり活動をサポートする体制を整えています。『この人に任せれば大丈夫』と思ってもらえるような関係性を築くところから、一緒に取り組んでいきましょう」

応募にあたり、宅建士等の不動産に関する資格は必須ではありません。では、どんな人が求められているのかを聞くと、池田さんからは「空き家を資源だと思える人」という答えが返ってきました。
池田さん「僕自身、移住前に信濃町を歩き回っていたときに、空き家らしい家を見かけるたび『もったいないな』と感じたんです。こんなに良いまちに、こんなに良い家々が埋もれている。その状況を『もったいない』と感じられる人なら、自然と地域に馴染んでいけると思います。信濃町の自然や街並み、暮らしが好きで、『この地域に朽ちた家が増えたらいやだな』『おもしろい人がまちに増えたら楽しいな』というモチベーションで、自ら動ける人がいいですね」
もうひとつ大切なのが、地道に手を動かして何かをつくるDIY精神があること。大工仕事などの経験はなくても、空き家に関わるなかで実践の機会はたくさんあり、やる気次第ではリフォームや建築の道に進む可能性もひらけます。


池田さん「理想の暮らしをイメージしながら、自分の生活を自分でつくっていくようなDIYの精神を持った方には向いているんじゃないでしょうか。自分のペースを保ちながら、考えて動ける人がいいですね。信濃町でたくさん遊び、まちでの暮らしを自分のものにしていける方にはぴったりな仕事だと思います」
熱量の高い地域のキーパーソンとタッグを組み、空き家を掘り起こす

総務庁の調査によれば、長野県全域の移住相談は年々増え続けています。「UIJターン就業・創業移住支援事業補助金」の交付や「若者定住促進家賃補助制度」など独自の移住・定住支援を行う信濃町の注目度や需要は、今後も高まっていくことが予想されます。
協力隊を卒業した後も、任期中の経験や地域との関係性をもとにそうしたニーズを捉え、自分次第で地域の仕事をつくっていくことができそうです。
川口さん「たとえば、任期中に宅建士の資格を取りたいという希望があれば、活動費として役場から勉強にかかる費用のサポートができます。卒隊後は不動産屋を開業することもできますし、自分で空き家を買い取って改修し、管理人として賃貸業を始めたり、民泊事業を展開することもできるんじゃないかなと。ほかにも設計やリフォーム、大工仕事、古材や古物のリユースなど、空き家を軸にしたビジネスの可能性は多くあるように思います」
協力隊を卒業し、信濃町で不動産事業を始めた先輩隊員の声も聞いてみましょう。2019年から信濃町の協力隊として活動してきた村松浩介(むらまつ・こうすけ)さんは、池田さんと一緒に信濃町の空き家活用の土台を固めてきた人物です。

協力隊員として農業に関するミッションに取り組んでいた村松さんは、日々の食事や家庭菜園など、「暮らしのなかの農」に目を向け、農家さんと町の人をつなぐイベント「グリーンマーケット」を立ち上げました。次第に、町外から来た参加者に移住の相談を受けるようになり、移住・定住促進に意識が向いてきたタイミングで、役場から「空き家事業をやらないか」と提案された村松さん。
そこでまずは、自分の暮らしている集落の中で空き家を探し始めました。村松さんは、空き家事業で鍵となるのは、地域課題に対する熱量が高い住民の存在だといいます。
村松さん「僕自身、着任のタイミングで空き家を買って、DIYをしながら暮らしていました。近所に、空き家が増えていくことに問題意識を持っている方がいたので、まずはその方とお話して、空き家のオーナーとの間に入ってもらったんです。ゴールデンウィークやお盆などの連休になると、家主の方が草刈りやお墓の手入れに帰ってくるので、そのタイミングで僕を呼んでもらい、一軒ずつ交渉していきました。」
村松さんと池田さんは、そうして空き家事業が始まった頃のことを「すべてが手探りでめちゃくちゃだったけど、とにかく楽しかった」と振り返ります。

池田さん「地域の方と話せば話すほど、状態の良い物件がいくつも出てきたんですよ。まだコロナ禍が長引いていた頃で、『すぐにでも移住したい』という問い合わせも集まっていて。空き家掘り起こしを始めるまでは、その集落では年間1~2軒しか空き家バンクの登録がなかったのに、僕たちが本格的に動き出したら7軒も空き家が見つかって、入居者もすぐに決まりました。そうすると、『あの集落は空き家に若い移住者が入って盛り上がってきたらしい』という噂が近隣へ広がっていく。これを繰り返していけば、自然とまちの中で空き家が活用される流れがつくれるという手ごたえがありました」
村松さん「でもそれは僕らだけの成果ではなくて、課題意識を持っている地域の方が家主や集落の住人にマメに声をかけてくれたから起こったことなんですよ。信濃町の方々は懐が深く、こちらからアプローチすれば受け入れてくれて。本当に、たくさんの方々に優しくしていただきました」
一つの世帯が増えるだけで、まちの未来が変わっていく
その後村松さんは、町が主催している起業塾に参加して「半休不動産」という不動産会社を立ち上げました。協力隊になる前は、「もう不動産の仕事はやりたくない」と思っていた時期もあったという村松さん。信濃町で不動産屋を開業するまでに、一体どんな心情の変化があったのでしょうか。

村松さん「僕が前職で関わっていた都市部での不動産開発の仕事は、扱うは規模が大きすぎて、自分では地域住民や地域との関わりを感じることができませんでした。一方、信濃町で不動産の仕事をしていると、地域住民や地域との関わりを直接感じられる機会が多く、自分の仕事に手ごたえが感じられたんです」
例えば信濃町では、そのまま放っておいたら数年後には崩れてしまうような状態だった家に人が入ることで、家が生まれ変わるだけでなく、新しい入居者によって、その地域に残る獅子舞が途切れずに受け継がれていく可能性もあるのです。

松村さんは、信濃町で空き家事業を担当するようになってから、不動産の仕事が有機的なものに感じられるようになったといいます。
村松さん「自分の仕事の先にある“まちの変化”まで見られるんです。今は、どんな人が地域に住んでくれたら周りの人も安心するのか、住む人たちが幸せに暮らせるのかを考えながら不動産仲介をしています。新しい隊員の方も、まちの人と協力しながら、さらに空き家の活用を推進していってほしいですね。出来ることはサポートしますし、僕や僕の会社をうまく使ってもらえたらうれしいです」

池田さん「僕もこの仕事を通じて、まちが変わる場面を何度も見てきました。最近では、この仕事は地域の重要な部分を支えているという自負もあります。これまでは『家の都合があるから』と放置されていた住宅も『売れないだろう』とあっさり取り壊されていた住宅も、ここ数年で『まずは役場に相談してみようか』という流れが出てきた。この先、さらに良い人やおもしろい人と空き家をつなげていければ、まちの活力がどんどん増していくだろうと期待しています」

そのままにしていたら、朽ちていったり壊されてしまう空き家。手放せずにいる人に寄り添い、その家の扉を開いて風を通し、信濃町での理想の暮らしを描く人たちとつなげていくことで、地域が大きく変わっていく。自分の暮らしも、もっと楽しいものになっていく。
空き家はまちの資産。たったひとつの空き家から広がるまちの未来を、一緒に描ける仲間を待っています。
文 風音
写真 五味貴志
募集要項
[ 会社名/屋号 ]
信濃町
[ 募集職種 ]
地域おこし協力隊(空き家コーディネーター)
[ 取り組んでほしい業務 ]
・空き家の掘り起こし調査に係る活動
地域の空き家の現状を把握するための調査活動(現地確認、所有者とのヒアリング、データベース作成)
空き家施策の立案・実行
・空き家の流通モデルケースの構築に係る活動
特定の地域に焦点を絞り、空き家活用の事例をつくる活動
空き家の残置物整理や改修作業の実施、空き家バンクを通じた流通促進
・その他、地域活性に資する活動
自治会や地域行事への参加
毎月の活動報告書の提出、年間計画及び報告書等の作成
[ 雇用形態 ]
信濃町の会計年度任用職員(年度ごとに再任用判断、最長3年間)
[ 報酬 ]
月額 290,000円
※2年目以降、活動実績に応じて最大50,000円/月の特別報酬あり
[ 勤務地 ]
信濃町役場 総務課 まちづくり企画係(デスク設置予定)
※研修等のため町外での活動あり
[ 勤務時間 ]
8:30~17:15(うち休憩 1 時間)※7.75h/日
(フレックス勤務要相談)
[ 休日休暇 ]
土曜日、日曜日、祝日、年末年始
・イベントや研修等で休日出勤が発生する場合は、別日に振替となります。
・年次有給休暇を利用することができます。
・夏季休暇など年次有給休暇以外の休暇を利用することができます。
[ 昇給・賞与・待遇・福利厚生 ]
・住居
町が借り上げ、家賃を上限4万円まで補助(超過分は自己負担)
光熱水費は自己負担
転居に係る旅費や経費は自己負担
・活動経費
公用車貸与(通勤・日常生活用は自家用車)
パソコン貸与(持ち出し不可)
社会福祉士・精神保健福祉士の資格取得費用の一部補助
活動に必要な消耗品費や研修費は町が負担(予算範囲内)
・社会保険
健康保険(共済保険)
厚生年金保険
雇用保険
非常勤職員等公務災害補償 または 労災保険加入
・副業(兼業)可(ただし町の承認が必要)
・その他
携帯電話・インターネット等の通信費は自己負担
社会福祉士の受講資格取得が活動時間内で可能(短大または4年制大学卒業が条件)
[ 応募要件・求める人材像 ]
<必須要項>
・三大都市圏や条件不利地域以外の都市地域に現在住所がある方
・採用後、信濃町に移住し住民票を異動できる方
・任期終了後も信濃町に居住する意向のある方
・地方公務員法に基づく欠格事由に該当しない方
・普通自動車免許を有する、または取得予定の方
・パソコンの基本操作およびSNSの活用ができる方
<求める人物像>
・地方創生や地域活性化に関心がある方
・空き家を資源と考え、「もったいない」と感じる方
・地域住民や町内事業者と柔軟なコミュニケーションが取れる方
・DIY精神を持ち、地道に取り組める方
・人と接することが好きで、話をしっかり聞ける方
・起業や就業を目指し、町とともに意欲的に取り組む意思がある方
[ 選考プロセス ]
面接エントリー(応募フォームよりエントリー)
↓
カジュアル面談(オンライン)
応募締切:令和7年2月7日(金)
地域情報や業務内容の説明/確認事項・質問のヒアリング
↓
おためし協力隊 現地面談(※応募者多数の場合)
実施予定:令和7年3月14日~16日
[ 応募締め切り ]
面接エントリー応募受付期間
令和7年1月27日(月)~ 令和7年2月7日(金)
[ その他 ]
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