
2025年には70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人となり、うち約半数の127万人が「後継者未定」の状況に陥る可能性があるとされる「2025年問題」。
労働不足や、後継者不足による廃業の増加などで課題が深刻化しているなか、長野には「伝統を受け継ぎながらも、変化の時代に向き合い挑戦を止めない」ローカルなアトツギ企業が数多く存在しているー。
一般社団法人ベンチャー型事業承継の定義によると、「アトツギ」とは「先代から受け継いだ価値を、時代に合わせてアップデートすることで、その次の世代に託す時まで、存続にコミットする個人」を指します。
では一体、どんな若手アトツギたちがいるのか。この日、ゲストとして登壇いただいたのは、まちの景色づくりに挑む建設・公共インフラから不動産まで担う株式会社アスピアの百瀬方洋(ももせ・ほうよう)さんと、創業100年超のエレキギター塗装・製造を極める株式会社三泰の古畑裕也(ふるはた・ゆうや)さん。
後継者という枠を超え、伝統を守りながらも時代に合わせて挑戦し続ける「若手アトツギ」の挑戦とその企業で働くことの魅力を届けながら、新しいローカルキャリアの形を提案することを目指し、イベントは11月4日に開催されました。
2社の求人記事:
・建設業界の斜め上を走りたい。見たい景色、住みたいまちをつくり、豊かさを分かち合う企業へ
・エレキギターを守っていく戦い。木と色の可能性に挑み続けるチームと共に色鮮やかな未来を描く
次の豊かさを地域と考えていくための新しいあり方を模索

百瀬さんは、株式会社アスピアの3代目。創業64年の会社を2020年に、父の百瀬方康(ももせ・まさやす、以下方康さん)さんから引き継ぎ、“若手アトツギ”となりました。
これまで学校の校舎やプール、美術館などの公共施設の工事からホテル・別荘、商業施設などの民間工事など、数多くの建物建設に携わってきたアスピア。2024年に社内一丸となってビジョンを刷新し、今は数々の新しい取り組みを始めています。

アスピアが運営する「アスワク」もその一つ。次の豊かさを考えるための企画として、地域内外のゲストを招いて社員・学生・地域の社会人などを対象に学びを開いています。

ちなみに、今回のイベントの開催場所となったASUPIA NEXTは、社屋兼外部の方に開かれたイベントスペース。使われていない時には社食を食べるスペースになったりと、使われ方はさまざまです。建物全体はZEB認証(※)をとっており太陽光でまかなわれており、いざとなったら防災拠点としても活用可能です。

地域の方に知ってもらうためにも、「なるべく場所を知ってもらい、足を運んでもらえたら」という百瀬さん。最近は、社員の方もアスワクの企画設計を自らやり始めたりと、企画の多様性が増していっているそうです。
※ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)認証は、省エネと創エネにより年間の一次エネルギー消費量を実質ゼロにする建築物に対する認証制度のこと
創業から106年。ギターの塗装企業の4代目が挑む「木と色」の可能性

今回ご紹介するもうひとりの若手アトツギは、株式会社三泰・4代目の古畑さん。
社員数としては、15人の少数精鋭部隊ですが、県外からの就職が多いうえ、社員以外にもシルバー人材やA型事業所としての就労メンバー、そしてスキルを活かした副業人材などさまざまな人材が活躍する企業でもあります。今後は海外からの技能実習生の受け入れも予定しており、さらに多様なチームとなっていく予定です。

もともと、漆器店からスタートした三泰ですが、2代目からは需要が高まっていたギター塗装、3代目からは、塗りの技術を高めた「松本渓声塗り」などの新たな事業や商品をつぎつぎと生み出してきた三泰。古畑さんの代からは、それらの技術を掛け合わせ、アートの領域で評価されてきたエレキギターの価値をアパレルや日常生活など別のシーンでも展開していくため、「Stained wood」というバングル、リニューアルし、オーナメントとして楽しめるような「松本渓声塗り」、そしてオリジナルのギターブランド「SANTAI」というラインを開発・展開をし始めています。

お二人が家業を継いだ背景とは
自己紹介・事業紹介を終え、ここからはお二人が「若手アトツギ」となるまでの背景について伺っていきます。
まずは、百瀬さんから。

百瀬さん「小さい時から、父からは『自分の好きなことをやりなさい』と言われて育っていたので、最初から継ぐ気があったわけではなく、好きなことを学ぶために進学して、就職もしました」
転機となったのは、26歳の頃。東京にきた父の方康さんから言われた「継がないか」という一言でした。
百瀬さん「その時は結婚をした半年後くらいのタイミング。今では笑い話ですが、当時妻には『結婚詐欺だ』と言われていました(笑)。僕も大好きな仕事をしていたこともあったので、すぐには決断できなかったのですが、とはいえ、今まで『継がなくていいよ』と言ってくれた親からそう言われると『元気ないのかな』と心配になって。
悩んだり、周囲に相談したりもしましたが、自分がこれまで生きてこれたのはこの会社があったからなので、必要とされるのであれば継ごうかなという思いで決心しました」
一方の古畑さんは、会社の隣に実家があり、幼少期から親族が働いているところを見ながら育ってきたといいます。

古畑さん「祖父や父だけでなく、母もみんな働いているので、もう会社に住んでるみたいな感じ。そのような環境で育ったのでいつかは継ぐんだろうな、という気持ちもありましたし、そういうのもあってずっとチームの運営のあり方をみていたっていうのも今につながっているような気がします」
そんな古畑さんが実際に三泰を継ぐために実家に戻ったのは、25歳くらいの頃でした。
古畑さん「三泰に戻ってくるまでは、短いながらも金融商品を扱う会社に勤めていました。金融商品は、市場次第で価値がいくらでも増減するものだったものに比べて、三泰での商品は価値の積み上げ。三泰ではお客さんの言っていることを理解できれば、いいものを提案できる。そういうところもあってヒアリングを一生懸命するようにしました」
アトツギとして苦労したことは?
気になるのが、アトツギとして経験したリアルな葛藤や苦悩のプロセス。
百瀬さんは「他のアトツギのみなさんにもお話を聞くんですけど、自分は本当に恵まれていて」と語ります。

百瀬さん「申し訳ないくらい、父が会社の状態を調えてくれていたんです。帰ってきて3年間専務をやって、2020年に社長になったんですけど、その日から父はほとんど会社に来ない。だから、父と何か揉めることもないし、『言っていることが違うね』と言われることもない。
最後に言われたのが、『変えられないんだったら、お前がやる意味ないからね』って。『お前がやりたいことやらないんだったら、俺がやる』って言われて。あとは、『つぶすも活かすも好きにしろ』って。それだけです。だから、僕は社員と父に感謝してます」
アスピアの継業ストーリーは百瀬さん自身が「自分もこういう継業をしたい」と思うほどのものだったと続けます。
一方の古畑さんは、「いまでこそ両親と良好な関係だけど、最初は揉めに揉めたよね」と、苦い笑みを浮かべながら自身の継業のプロセスを振り返ります。
古畑さん「今考えたら、事前にちゃんと根回しをしながら入っていければよかったのですが、最初に改善すべき点の方に目がいっちゃった。ちゃんと関係性を大事にしながら進めなければならないところを、スピーディーに進めることを重視してしまって逆に時間をかけてしまったなと。そういう意味では、ものすごく苦労したし、苦労を与えてしまったのは反省点としてありますね」

アトツギとして目指しているもの
もとは公共施設の工事中心だったアスピア。父・方康さんの代でそこから民間工事を増やすことに注力しつつ、現在は売り上げの8割が民間工事、残りの2割が公共工事という割合になっているといいます。また、三井ホームとの提携が始まり、長野県内の代理店業務を行うなど、事業の多角化が進み、不動産事業部も誕生しました。

百瀬さん「僕が代表になってからは一つのテーマとして建設業や不動産業っていう枠からどう超えていくのかを意識していて。地域のみなさんの挑戦ややりがいを一緒につくれたらいいなと思っています。例えば、お店をやりたいという方からの問い合わせを多く頂くのですが、手元に物件がなければ応対ができないですし、ない場合でも一緒に見つけるようなことができないか。
さらに、今は大工の育成もしています。技術がなくなっていってしまう、職人さんがいないよねっていう未来があったのでなんとかそこに貢献できないかということで、2020年くらいから採用を始めて今は5人の大工が働いています」
企業理念の刷新を経てアスピアが現在注力しているのは、まちづくりの分野。企業理念にも入っている「豊かさ」を追求するなかで、出てきたテーマだったそうです。
百瀬さん「まちづくりというと、大きく聞こえるかもしれませんが、豊かさを得て喜びをえて、どうそれをみんなで分かち合えるか、ということもあるので、建設業からどうやって付加価値をつけていくとか、もっと僕らができることってなんだろうと、みんなが考えられるような組織づくりを意識しています」

長く続けてきたエレキギターの塗装というOEM事業は今後も展開しながら、「木と色の可能性に挑戦する」という新しいスローガンを掲げ、独自ブランドを展開している三泰の古畑さん。しかし、ここに至るまでには足掛け7年くらいかかったと振り返ります。
古畑さん「例えば文庫とか硯箱と聞いて、ピンと来る人が減っていたり、昔に比べてライフスタイルが変化している今、当時と同じように販売を続けてもむずかしい。それで、僕らの製品をデザインしてカッコよく売れるものにしてくれるデザイナーを探すことにしました」
デザインが必要だとわかっていても、デザイン領域は多岐にわたります。自分たちが探していたのはそのなかでもプロダクトデザイナーだとわかったのは、しばらく経ってからのこと。古畑さん自らも「デザインを学ばなければ」とデザインスクールに通ったこともあったそうです。
古畑さん「エレキギターを身につけるというのはまだどこもやっていないこと。ギターの塗装だけでなく、メーカーとしての顔となる商品ができたということに喜ぶ一方で、高価格帯なものでもあるため、ローンチするまでは本当に売れるのか、不安もありました。それでも、販売直後にぱっと売れたことで、やっぱりやってよかったなと」
また、新ブランドの開発過程には社員も関わったことで、チームの変容も見られました。企画・開発や、生産など一人ひとりの得意領域が明確になったことで全員で「ものづくりを極める」ことは変わらずに続けながらも、持ちつ持たれつな関係性がより強化されたといいます。
アトツギと共に歩んでいく自分のキャリア

最後に、アスピアと三泰、これから歩んでいく道のりにおいてどんな仲間を必要としているのか、それぞれに質問しました。
百瀬さん「自分の住みたいまちをつくれる仕事だと僕は思っているので、そこに自分の力を割いてみたいという方が入ればぜひ応募してほしいです。企業理念を新しくしてから、『あなたがワクワクすることをこの会社で叶えてください』ということをメッセージとして発信していて。人それぞれワクワクすることは違うと思うのですが、今までなかなか叶えられなかったことがある人でも、もしかしたらできるかもしれないので、一緒にワクワクすることをやっていきたいと思います。仲間のみなさんと一緒に。地域のみなさんと一緒に」
古畑さん「三泰の理念には自己の成長という言葉が入っています。ものづくりを通して上達していくことだったり、日々の業務のなかで改善点が発見できるようになったり。そういう淡々と自分が成長していくことを楽しいと思える人は、もしかしたら三泰とあっているかもしれません。チームにもギターやバイク、何かものと一緒に楽しむという趣味がある人が多い。それぞれに好きなものを持った人が集まって、このチームがだんだんと温かく大きくなっていくといいなと思っています」
先代からのバトンを受けつぎながらも、自ら今の時代に求められる変化を定義し、挑戦の歩みを止めない若手アトツギのお二人。
地域をフィールドに、自分のワクワクを形にしてみたい人。ものづくりの世界で自分の成長に喜びを感じたい人。ぜひ、若手アトツギたちと一緒に次のキャリアを歩んでみませんか?きっと、仲間と一緒だからこそみられるたくさんの景色に出会えるはずです。
文:岩井美咲