長野県の南西部、木曽郡の中でも最西端に位置する王滝村。西側は岐阜県と接しており、村の北側には御嶽山があります。富士山や白山と並んで、古くから御岳信仰の山として知られてきた御嶽山には毎年多くの登山客や御嶽教の信者が訪れます。村の面積の97%を森林が占めており、そのうち86%が国有林。伊勢神宮で20年ごとに行われる式年遷宮に使われるほど、良質なひのきの材が採れる王滝村は、昔から林業で栄えてきました。近代以降は知多半島まで水を供給する愛知用水の水源である牧尾ダム、スキー場が建設され、観光業も発展しました。
しかし、コンビニや駅がなく、国道も通っていない村での暮らしは必ずしも便利とは呼べません。年々少子高齢化が進み、現在の人口は約650名。そんな王滝村の自然資源や昔から伝わる暮らしの知恵を活用しながら人とのつながりを創出し、村に新しい動きを生み出しているのが「合同会社Rext滝越(れくすとたきごし、以下Rext滝越)」。村の西側にある滝越地区でのキャンプ場と飲食店の営業のほか、農家民宿や大学生のフィールドワーク支援、海外からのボランティア受け入れなど、事業は多岐に渡ります。
今回募集するのはこの「Rext滝越」のスタッフとなって働く人。日々の業務や村での暮らしについて詳しく伺うため、「Rext滝越」を運営する倉橋孝四郎(くらはしこうしろう)さん、杉野明日香(すぎのあすか)さんのおふたりにお話を聞きました。
その土地の文化や営み、資源を受け継ぎ次世代へつなげていく
「Rext滝越」は2014年に地域おこし協力隊として王滝村にきた倉橋さんが、任期終了後の2018年に立ち上げた会社です。滝越とは長野県の最西端と呼ばれる王滝村の中でも最も西に位置している地域のこと。“Rext”とは、「繰り返す」や「再び」などの意味がある接頭語の「Re」と、「Next」が掛け合わされた造語です。この土地で続いてきた文化や営みを受け継ぎながら、新しい価値観を見い出し、次の世代へつなげていくという思いが込められています。
倉橋さん「協力隊時代から滝越地区のみなさんには本当にお世話になったことや、この地区での事業がきっかけで会社を立ち上げたこともあり、この社名に決めました。」
「Rext滝越」が滝越地区で運営しているのは、手打ちのそばやピザ、川魚の塩焼きなど囲炉裏を囲んで飲食ができる施設「水交園」とキャンプ場の「森きちオートキャンプ場」です。
倉橋さん「『水交園』は村の指定管理物件ですが、担い手不足で一時は村営となったこともあり、協力隊をしていた僕に声がかかって。協力隊の任期後に集落支援員として滝越地区の集落維持を含めて『水交園』とキャンプ場の運営業務についた感じです。それまで、そばを打ったこともなければ、飲食店で働いた経験もありませんでした。ですが、ここのそばを食べにきていた常連のお客さんもたくさんいたので、村のお年寄りに打ち方を習ってなんとかそばメニューを復活させたり。また、小さいお子さんも食べにくるので、現在は子どもたちに人気なピザなども提供したりしながら運営しています。」
「水交園」から車で3分ほどのところにあるのが「森きちオートキャンプ場」。グリーンシーズンには、訪れた家族客が川遊びをしたり、屋外に設置されたテントサウナと川の交互浴を楽しむ人々の姿で賑わいます。もともと国有林だった森の中に佇み、樹齢300年を超える木々や、美しい清流など、手付かずの自然が残っているキャンプ場。長野県の最西端にある王滝村でもさらに奥地に位置しており、必ずしもアクセスが良いとはいえませんが、広報の仕方次第ではさらなる集客を見込める可能性もあります。しかし、倉橋さんたちが大事にするのはあくまで「無理をしない」というスタンスです。
倉橋さん「自分たちが無理をしてまで、『もっと集客していこう』という感じにはあんまりならなくて。お客さんが来ないのであれば、空いた時間で畑をやったり、別の事業に時間を使ったり。続けていくためにも、極力無理をしないということを大切にしています。」
生きる力をつけたかった
王滝村にきてから今年で丸10年になるという倉橋さん。もともとは静岡県御殿場市出身の倉橋さんが、なぜ地域おこし協力隊として王滝村に来ようと思うに至ったのか、そのきっかけを尋ねました。
倉橋さん「王滝村に来る前は、静岡の御殿場で自動車の整備士として勤めたあと、衝突実験の仕事をしていました。その時に東日本大震災が起きて、『これは大変だ』と思って現地まで飛んでいって、現地のボランティア活動に加わりました。この時の体験が自分の人生を見つめ直すきっかけになりました。それまで、車は直せても、火おこしはおろか、チェーンソーも触ったことがありませんでした。いつ何が起こるかわからない世の中で、ポンと外に出されても通用する人間になりたいと思うようになったんです。」
「生きる力をつけたかった」という倉橋さんが、生きる力をつけるためのフィールドとして選んだのが王滝村でした。
倉橋さん「幼少の頃から家族で旅行する時には決まって長野県に来ていたので、昔から漠然と『将来生活するなら長野県がいいな』と思っていたんです。県内で移住先を探していた時に、バイオマスや太陽光などの自然エネルギー源を活用した、地域づくりを推進する『1村1自然エネルギープロジェクト』というものがあることを知りました。当時王滝村もそのプロジェクトを始めるにあたって地域おこし協力隊を募集しており、『面白そうだな』と感じて応募しました。」
コンビニエンスストアや駅がなく、国道も走っていない王滝村での暮らしは、倉橋さん曰く「ハードモードライフ」。日常の暮らしの不便ささえも、ゲーム感覚で楽しめる人には適しているといいます。
倉橋さん「村の暮らしを楽しむ秘訣は、楽しみ方を自分で見つけていくことですね。春は山菜、夏は畑、秋はきのこ、冬は猟があります。人口約650人の村なので、人付き合いも濃くなりがちですが、村には暮らしの楽しみ方を教えてくれる先輩がたくさんいます。」
倉橋さん「僕らは、いつ何がどうなるかわからない不確実な世の中で、その影響を極力少なくさせたいんです。だからこそ自然エネルギーの活用や、畑をやったり、鶏を飼ったり、肉も自分でとれるようにしているわけですが、生活を続けていくためには、収益をつくっていく必要がある。その時、どこかに偏るのではなく、バランスを大事にしています。一見、中途半端なように感じるかもしれませんが、そうやってリスク分散をしています。」
キャンプ場の運営でも「Rext滝越」が無理して集客をしない方法は、特定の事業にリソースを集中させるのを避けるため。収益の柱を多様にしながら会社全体でバランス良く経営をしていくことは、万が一の事態が起きても自分たちの日常を維持していくための、彼らなりの生存戦略のようにも感じます。
この村に必要だと思うことを事業に
2018年夏、「Rext滝越」の立ち上げから約3ヶ月。「森きちオートキャンプ場」、「水交園」の運営を行っていた倉橋さんの毎日に、転機となる出来事が起こります。
倉橋さん「2018年7月の大雨の影響で、王滝川沿いの村道が崩落してしまい、僕らがいた滝越地区が一時孤立してしまう事態が起きました。当時、村に滞在していた外国人観光客2人と一緒にヘリで救助されて。」
しかし、その出来事が思わぬ展開をもたらしました。そのインバウンド客は「グリーンライオン」という数週間程度のボランティアツアーを企画している旅行会社で働いており、日本での提携先を探していたのです。復旧作業を一緒に行ううちに彼らと意気投合した倉橋さんは、提携先となって海外からのボランティアを受け入れる契約を結びました。ところが、契約したはいいものの、語学力に心配があったという倉橋さん。そこで声をかけたのが、南木曽町で地域おこし協力隊をやっていた杉野さんでした。
杉野さん「『グリーンライオン』のボランティアのうち6割くらいが女性でしたが、当時の『Rext滝越』の女性スタッフはゼロ。『私も英語は話せない』と言いながらも、私がいることでできることがあるかもしれないとも思い、対応をしていましたね。このほか、経理業務についても、基礎知識はありつつ特に実際に仕事で使ったことがなかったので、必死に勉強してできるようにしたりとか。基本的に、『Rext滝越』ではできるかどうかよりもやりたいかどうかを重視します。あまり難しく考えず、『やってみれば大抵のことはできる』というマインドでとにかく目の前のことに一生懸命取り組んできたからこそ、いろいろな事業を形にできているのかなと思います。」
当初、ボランティアの受け入れは倉橋さんの自宅と「水交園」の一室を農家民宿にしてやっていました。コロナ禍でインバウンドの旅行客は減少したものの、国内の旅行客が増加してことで段々と手狭になり、クラウドファンディングなどを活用しながら資金を集め、2020年10月に完成したのが、「農家民宿&大衆酒bar常八(以下、常八)」です。宿の運営や、料理は杉野さんが担当しています。
杉野さん「宿でお出しする料理は、基本的にはその時にしかとれない旬の食材を使うようにしています。以前から山菜やきのこ狩りが大好きで、宿の予約が入っていることを口実に、山に入ったり(笑)。また、村に伝わる郷土料理のつくり方を村の人に教わったりしながら実際に宿で提供してみて、お客さんから『ご飯おいしかったよ』と言っていただくのは本当に嬉しいですね。」
出会いに突き動かされるように、自然発生的に事業が立ち上がってきた「Rext滝越」ですが、多様な事業に通底するのは村に対する思いです。
倉橋さん「ふたりとも、地域おこし協力隊の卒業生ということもあって、『地域にとって何が必要だろう』という問いを常に頭の片隅に置きながら事業やプロジェクトをやってきました。そうすることで、最終的に自分たちが住んでいてよかったなと思える村をつくっていきたいと思っています。」
自分たちも含めた誰もが過ごしやすい村を実現するために、事業をつくってきた「Rext滝越」。彼らが立ち上げた拠点は今、海外からのボランティアや旅行客だけでなく、大学生やアーティストなど、あらゆる人が行き交う場となり、村の中にも少しずつ変化が生まれ始めています。
不確実な時代で世界に対して問題提起ができる場所
倉橋さん「うちには太郎(たろう)というアーティストが滞在しています。『常八』ができた時に、薪ストーブに絵を描いてくれる人を探していたところ、ちょうどアーティストインレジデンスの企画で木曽地域を出入りしていた彼と出会って。この出会いがきっかけとなり、その後、王滝村に地域おこし協力隊として移住してくれたんです。」
その太郎さんがきっかけで、名古屋大学の教授たちと一緒に文化人類学的観点から地域の観光のあり方を再定義し、観光の未来を考えるワークショップが実現。さらに、最近では村が長野県立大学と提携して大学生がフィールドワーク場所として王滝村に滞在して学ぶようなプログラムも実施しています。
倉橋さん「長野県立大学とは以前からつながりがあって、当初は学生をインターン生として受け入れるところから始まりました。僕らから『あなたが村長だったら何をするか考えながら過ごしてください』というお題を大学生に出したところ、『学生が集まる拠点があるといいのでは』という提案が出てきました。そのアイデアに王滝村の村長が賛同して下さったことがきっかけで長野県立大学との連携プログラムが始まり、今年で3年目になります。」
学生とは中長期にわたって関係性が構築されていくため、毎年の最終発表では「達成感と同時に寂しさもあり、感慨深くなる」というおふたり。最近は自分の活動の期間が終わっても、先輩の大学生が後輩の伴走役として参加してくれることもあるとか。また、こうしたプロジェクトは村の人たちからも好評だといいます。
倉橋さん「今年度のプログラムのテーマは『自分の好きを解放してみよう』でした。参加した6人の学生がそれぞれに取り組んだプロジェクトを秋の祭典という形で王滝村の人たちを前に発表したところ、村の方に『普段は大学生と話をする機会がないので、自分の息子が大学生と話すことができてすごくよかった』など、とてもポジティブなコメントをいただいて。さらに、何人かの村人たちは大学生の発表からヒントを得て、“ゆる活”という、自分の好きなことを仲間うちで毎週やっていくというプロジェクトをやり始めています。」
自分たちの着想した企画が、最終的に村の人たちに届いてポジティブな変化を生み出すことが、日々のやりがいにもなっているという倉橋さん。多様な人材とつながってプロジェクトを実践するなかで、王滝村だからこそできることも見えてきました。
倉橋さん「常に考えているのは、僕らがやっていることが今の時代の価値観とか、日本とか世界が抱えている問題とどうリンクしているかということです。例えば、オンラインメディアで最新の社会情勢などのマクロな情報をキャッチしつつも、ローカルな新聞からも情報をとる。それらを踏まえてみんなで話し合う機会を設けたり、王滝村の課題解決や会社の方向性を決めたりしています。薪割りや畑で農作物をつくること、空き家の改修など、自分たちで生活インフラを整えていけることは今後さらに重要性が高まっていくと思います。王滝村にいながら、社会に対して問題提起ができたりとか、世界に共通する課題を緩やかにでも解消していくことができるような兆しを感じたり、希望を抱けている時はやっぱりワクワクしますね。」
じっくりコツコツ。暮らしを楽しみ、生きる力を磨いていく
現在「常八」の隣でDIYが始まっているのが、「王滝横丁」のプロジェクト。2024年の4月に完成予定の「Rext滝越」が手がける新たな拠点です。
杉野さん「もともと民宿だった建物なんですが、しばらく空き家になっていたものを『Rext滝越』が買い上げ、大学の連携プログラムに関わる学生たちや、アーティストインレジデンス、お試し移住の方などの中長期の滞在場所やシェアハウスとして活用できるように改修しています。」
新たな事業がどんどん立ち上がっていく「Rext滝越」に参画し、一緒に働く仲間として適している人とは一体どのような人なのでしょうか?
杉野さん「私たちの事業の多くは接客業ですが、薪割りや庭の剪定、畑の管理や寝具の洗濯、部屋の掃除など、接客ではない仕事もかなり多いです。人が好きであることに越したことはないですが、ルーティーン作業も多いため、飽きっぽくなくコツコツ続けられることが大事です。」
「Rext滝越」では多数の事業を少人数で進めていくため、決まった定例はなく、メンバーそれぞれのスケジュールはカレンダーアプリなどで共有しています。手が空いた時間で集まって会議するなど、臨機応変な動き方が主流です。そのため、指示を待つよりも基本的なやり方を掴んだら、自分なりに段取りをすることができる人の方が向いているかもしれません。
「暮らしの中での楽しみも大切にしながら仕事をしている」というおふたり。最近の関心トピックは、オリジナルの甜菜糖とどぶろくづくりだといいます。
倉橋さん「ワインと同じように甜菜糖もテロワールというその土地固有の味があるそうで、王滝村ならではの味が生まれたらおもしろいなと。また、この地域では発酵文化があるのでどぶろくにも注目しています。日本独特のどぶろくをつくって宿の人に振る舞うことができたらいいなと思っています(※)。」
ほかにも、針葉樹の葉から精油オイルをつくるなど、日々の暮らしそのものがまさに実験。新しく入るスタッフの方も、週4日の業務なのでたくさんのことを試しながら、自分の興味のある分野を深めて事業につなげるなども大歓迎です。
杉野さん「やったことがないことなんて、きっとここにきたら山ほどあるから。一個一個やっていけば案外なんとかなりますよ。」
「Rext滝越」チームのスローガンは、「人生をサバイブせよ」。大きな時代の流れを読み解きながら、足元の暮らしの営みや資源を活用し、世界に通じる解決策をこの地域から発信していく。やったことがないことでも挑戦できて、学びながらコツコツと実践していける人、毎日の暮らしを楽しみながら、この不確実な時代を生き抜いていく仲間となるような人との出会いを心待ちにしています。
文:岩井美咲
写真:清家早輝
※ 木曽郡では郡一帯が「どぶろく特区」に指定されており、年間の最低製造数量に関する規定が緩和されている。これにより、少量の「どぶろく」の製造を行う場合においても、製造免許の取得が可能に。特区区域内において農家民宿や農家レストランなど、酒類を自己の営業場において飲用に供する業を併せ営む農業者かつ、自ら所有する製造場で、自ら特区内の農地で生産した米を原料とする「どぶろく」を製造することが要件で、製造したどぶろくを提供することができる
希望者は応募前に個別相談も可能です
応募前に質問や確認したいことがある方は個別相談を受け付けます。
◎企業担当者と応募前に事前に説明や相談を行うことができます。
どんな会社なのか、実際の働き方はどうなるかなど、気になる点をざっくばらんにお話ししましょう。
ご興味がある方は以下よりお申し込みください。
▼個別相談の申し込み・詳細はこちら
募集要項
[ 会社名/屋号 ]
合同会社Rext滝越
[ 募集職種 ]
①キャンプ場管理人
②蕎麦とピザの店のホール及び調理スタッフ
③ゲストハウスやシェアハウスの運営
④海外ボランティアツアーのアテンド ⑤無農薬、有機栽培の畑の農作業
[ 取り組んでほしい業務 ]
キャンプ場の整備からゲストハウスの清掃、畑作業、海外ツアー アテンドや調理まで様々な業務に取り組んでいただきたいです。そ の中からやりたいことや適性を見定め、重点的に業務をしていただく事になります
[ 雇用形態 ]
正社員
[ 給与 ]
月額135,000〜200,000円
[ 勤務地 ]
長野県木曽郡王滝村
[ 勤務時間 ]
週32時間(休憩時間12:00-13:00 or 14:00-15:00) フレックス制
[ 休日休暇 ]
週休3日制(基本は平日)、年末年始、有給休暇
[ 昇給・賞与・待遇・福利厚生 ]
昇給年1回
健康保険
雇用保険
労災保険
厚生年金
住込可
住込光熱費無料
収穫した野菜をシェア
捕獲した猪や鹿の肉のシェア
収穫した野菜やきのこのシェア
テントサウナ使い放題
ファイヤーサイド商品貸出し
薪ストーブのある店舗に住込み
[ 応募要件・求める人材像 ]
<必須要件>
普通自動車免許
<求める人物像>
人との出会いを大切にできる方
人生をsurviveする事に興味関心がある方
料理や英語が好きな人だと嬉しいです
[ 選考プロセス ]
書類選考
↓
面接2回(リモート、現地)
↓
内定
※選考期間は約2週間程度を想定しています
※取得した個人情報は採用目的以外には使用しません。
※不採用理由についての問い合わせにはお答えできかねます。
[ その他 ]
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