自分の暮らすまちに、新しいお店や施設、公園ができる。学校が改修される。大きなイベントが行われる。まちに新しいなにかが形づくられるその前に、どうやって計画が進められてきたか考えたことはありますか?

そこで暮らす人や、関わる人たちの声を拾わず、建物や空間、枠組みだけがつくられてしまう。そんな事例も世の中にはあるなかで、「対話」を通じて公共空間のあり方やまちの施策を問い直し、再構築している人が長野市にいます。

長野県内を中心に、さまざまな地域のプロジェクトや事業の伴走者として活動する瀧内貫(たきうちとおる)さん。

瀧内さんは、28歳でグラフィックデザイナーとして独立して以来、ウェブサイトや書籍、空間のデザインから始まり、コミュニティデザイン、プロジェクトマネジメントと、どんどん活動領域を拡げてきました。現在関わるプロジェクトは20件以上。教育、地域福祉、行政施策の立案、創業支援など、分野を横断しながら地域課題の解決に向き合っています。

さまざまな地域をぐるぐると回りながら、まだ明確な言葉になっていない「困りごと」や「叶えたいこと」を拾い上げることからプロジェクトが始まっていくという瀧内さん。

今回の求人では、瀧内さんとチームを組み、プロジェクトを受け継いでいくプロジェクトマネージャーと、事務・経理全般をサポートするバックオフィスマネージャーを募集します。

新緑が眩しい季節、まるで秘密基地のような瀧内さんの事務所でお話を聞きました。

社会に対する提案をし、自ら仕事をつくり出す

瀧内さんが事務所を構えるのは、長野県長野市。県庁所在地である長野市は、県内の経済や教育、医療の中心地。また、長野駅からは新幹線が通っており、東京まで約1時間半で行くことが出来るため、都心からのアクセスも良好です。

県内で最も人口が多い中核都市でありながら、約1,400年の歴史を持つ善光寺をはじめとする文化財が残り、毎年多くの観光客で賑わう

また、近年は古い建物をリノベーションしたお店や拠点が増えたり、UターンやIターンで若い人たちが移住してきたりと、盛り上がりを見せています。

瀧内さん「僕は大阪生まれ、長野育ちなんです。父は京都と白馬で建築設計事務所を立ち上げて設計の仕事をしていたのですが、ちょうどスノーリゾート開発ブームの時期で。僕はその時期に幼少期から中学までを長野で過ごしました。」

「当時から、白馬村の観光PRを見ては『もっとこうした方がいい』と母に話しているような子どもでしたね(笑)」と振り返る瀧内さん

瀧内さんは、その後、長野工業高等専門学校の環境都市工学科へ進学。卒業後は、安曇野にある測量設計事務所へ。さらに、ランドスケープデザインを中心に手掛けるデザイン事務所、食品会社の情報システム部門とキャリアチェンジを経て、グラフィックデザイナーとして独立しました。

瀧内さん「28歳で独立したので、若手と違って徹夜をしてがむしゃらに働く体力がなく、量をこなす稼ぎ方はできない。生き延びるためには差別化が必要でした。そこで、ただ受注した仕事を受けるだけではなく、事業全体のブランディングやディレクションまで担当したり、自分から社会に対する提案をして仕事をつくり出していくようになりました。そうしていくうちに、次第にまちづくりの要素がのあるプロジェクトに関わることが増えていったんです。」

現在は、実際にプロジェクトが動き出す前の段階から地域に入り込み、プロジェクト全体のディレクションやファシリテーションを手がけている瀧内さん。こうした働き方をするきっかけとなったプロジェクトがあるといいます。

どんなプロジェクトもまずは「聞く」ことから

2012年に始まった長野市・篠ノ井(しののい)のまちの暮らしを考える「Clasino Project(クラシノプロジェクト)」。そこで、瀧内さんは外部ディレクターとしてプロジェクト全体の企画設計やエリアリノベーションを監修。また、学生が場づくりに参加する仕組みの構築にも取り組みました。

「Clasino Project」内のプロジェクトとして企画した「しののい まちの教室」では、半年間にわたって、まちや暮らしについて学ぶ授業を開催した。みんなの声を集約させていくスキルはこの現場で鍛えられたと振り返る

瀧内さん「たまたま、篠ノ井で土地を持て余している地主さんに出会って。『どうしたらこの土地を活用できるか』という相談に、『こんなことしたら面白いんじゃないですか』とあれこれ提案したら、そのまま自分が現場に入ることになったんです。ディレクションの面白さに気がついたのはこの頃からですね。」

瀧内さんのファシリテーションデビューは、「コミュニティデザイン」の著者、山崎亮さんの長野県でのプロジェクト。ローカルのファシリテーター募集に自ら手を上げた

ディレクションとは、プロジェクトの進む方向性を決めていくこと。また、ファシリテーションとは、グループや組織が共通の目的や課題を理解し、目的を達成するための計画の設計をサポートすること。どちらも、参加者の様々な意見や考えを公平に扱い、中立の立場を保ちながらプロジェクトを進めていくことが必要です。

長野県飯綱町では、旧三水第二小学校、旧牟礼西小学校を活用して新たな町のにぎわいの場所を創出する事業に主に取り組む「カンマッセいいづな」のビジョン策定に携わった

瀧内さんは、実際にワークショップや企画を進めていく前に、まずは関係者全員の話を聞くことを徹底しています。一人あたり1〜2時間ほど、プロジェクトによっては50人以上の関係者に話を聞くこともあるそうです。

たとえば、長野県の最南西部の根羽村では、役場と協働し、総合計画策定へと続けていくために、役場職員が村民全員にインタビューを実施。その結果から「この村でこれからも楽しく暮らしていくためには?」をテーマにワークショップを開催しました。

全村民インタビューは、コロナ禍を挟み、約2年かけて346世帯498名(全世帯の84.4%)に実施された。移住して間もない役場職員と村民が触れ合い、関係性を深めることにもつながったという

瀧内さん「どの地域や、どんな分野のプロジェクトでも、まずはとにかく聞くことから。一見遠回りのように見えるけれど、結局は一番の近道だと思っています。その土地で暮らす人や、関わっている人たちの顔がわからない状態で、『みんなでこのまちが良くなる方法を考えましょう』と言ったって、表面上の話し合いしかできず、本当に価値のある対話には結びつきません。まだ言葉になっていない地域の課題や、みんなの叶えたいことを構造化してから、プロジェクトを進めていきます。」

「本当に全体がうまくいく」ための立体的なディレクションとは

現在、瀧内さんが関わっているプロジェクトの一つが、令和10年の長野県伊那市の伊那北高等学校と伊那弥生々丘高等学校の併合に向けた「伊那新校(仮称)再編実施基本計画策定支援業務(現在は基本設計が終わり、実施設計業務中)」です。

長野県教育委員会がビジョンを打ち立てたNSD(長野県スクールデザイン)プロジェクト(※)の具体的な施策の一つでもある本プロジェクトは、新校での学びに必要な施設整備や、地域と大学、研究機関等と協働した探究の授業を企画し、よりよい学びの場をつくることを目指すものです。瀧内さんは、その中で対話のワークショップを運営しています。

地域の人、先生たち、生徒たちとターゲット別でワークショップをする場合もあれば、それぞれの立場の人たちを混ぜた場を設けることも

瀧内さん「新しく学校をつくるとなると、学校長や一部の関係者だけと話して計画が進んでしまうケースもあります。実際、それだけでも校舎は完成してしまう。そうではなくて、生徒たちはもちろん、その学校で働くことになるだろう先生たち、さらには学びを支える地域の人たちと一緒になって話をしていく。どんな学校ができたらみんなのためになるか、どう使いこなしていけるのか、そのためにはどんな活動ができるかという、ハード面とソフト面のための対話の場を設計していくのが僕の仕事です。」

「対話の場を設計する」とはどういうことでしょうか。

瀧内さん「対話には、ある程度スキルが必要だと思います。日本では対話に慣れていない人も多いため、相反する意見をいう人を嫌いになってしまったりすることも。でも、目の前の課題の構造化がちゃんとできれば、相手のことを否定しなくて済むし、『じゃあどうしていこうか』と、未来に向けた前向きな話し合いができるようになります。」

ワークショップでは、ただみんなの意見を発散させるだけでなく、場に出てきた声を取捨選択したり組み合わせたりすることで発展させ、集約していくことが必要

瀧内さん「例えば、校舎の色や形の希望を聞いてしまうと、個人の趣味や主観の話になってしまう。それでは対話になりません。まずは『学校でどんな過ごし方をしたいか』、『今地域に何が必要か』といった意見が発散していく話題を投げかける。それから、どんな順番で話題を振って、さらなる問いを投げかけるのかを考え、その場に出た意見を集約させていく。それが対話に必要な場の設計です。」

そうして、ワークショップを通じて出てきた声を丁寧に集約し、実現するために建築・設計チームに渡すまでが、瀧内さんたちの役割。そこから先の、実際の校舎のデザインや仕様を詰めて形にしていくのは、建築や設計を担当するプロフェッショナルの仕事となります。

瀧内さんはさらに、そこから派生して、「地域の人と連携した校外学習をしたらどうだろう」「そのためには、教育に携わる大人たちの勉強の場も必要だよね」など、他の高校も含めた教育の現場を地域全体で支えていくための組織づくりに関わることも。

瀧内さん「これは完全におせっかいなんだけどね(笑)。僕は自分のホームページには『立体的なディレクションを得意とする』と書いているのですが、それは受注している業務だけではなくて、その周辺に必要なことの整理や、イベントの企画、組織づくりを重ね合わせて進めていく。本当に全体がうまくいくような仕組みづくりを常に心がけています。」

ほかにも、新潟県・十日町の「大地の芸術祭」では、「地域カフェのつくりかた」というトークイベントの企画に参加。全国で地域に根ざしたカフェをつくる方々と対話のトークイベントを行い、自身がディレクション・ブックデザインを手がけて書籍化まで行った

※これからの時代にふさわしい学習空間について、様々な有識者と多角的な検討を行ってきた長野県教育委員会が、2020年8月に「長野県スクールデザイン2020」を提案。NSD(長野県スクールデザイン)プロジェクトとは、この提案を実装するものとしてスタートした。

目の前の人に興味を持ち、次々やってくる新しいプロジェクトにワクワクできるか

今回の求人では、瀧内さんの右腕としてプロジェクトを自ら主導していくことのできるプロジェクトマネージャーを募集します。瀧内さんは、これまでもプロジェクトペースでさまざまな外部の人たちと協働してきましたが、プロジェクトの主導権自体を渡そうとするのは今回が初めて。募集の背景を尋ねました。

「ファシリテーターが忖度されてはいけない」と語る瀧内さん。年齢や経験を重ねるにつれて、プロジェクトとの関わり方も変化してきたという

瀧内さん「僕は今年で46歳になるんですが、この歳になると、自分のポジションがどうしても『アドバイザー』的になってきてしまうんです。『本当はこう思っているけれど、アドバイザーの前では言えない』と忖度されてしまう危険性もある。それでは、現場の正直な声が拾えません。もうそろそろ、ファシリテーションの仕事は次の世代に託していかないといけないと感じるようになって。」

では、プロジェクトマネージャーにはどんな人が向いているのでしょうか。

瀧内さん「まずは『人』に興味があることが一番大事ですね。関わる人の数が多いですし、どれも誰かとの対話があってこそ生まれるプロジェクトばかりなので。『この人はどんな人なんだろう』、『何を考えていて、何がしたいんだろう』と、目の前の相手のことを知りたいと思える人は、向いていると思います。」

長野県立大学大学院ソーシャル・イノベーション研究科長の大室悦賀教授の研究について、長野県内各地のキーパーソンを呼んで共有する会「大室先生の頭の中」の様子。これからの社会変革を考える県内のネットワーキング構築を狙った

また、「次々と新しい何かを始めることが苦痛ではない人」であることも重要だと瀧内さんはいいます。

瀧内さん「僕が関わっているプロジェクトはとにかくジャンルも地域も幅が広いですし、やっと一つのプロジェクトを完走したと思ったらすぐに次の新しいことが始まる。それを『よし、また新しいことが始まったぞ』とワクワクできる人なら、楽しく働けるんじゃないかな。」

デザイン、教育、編集など、さまざまな書籍が並ぶ事務所の本棚からは、プロジェクトの多様さがうかがい知れる

瀧内さんの関わるプロジェクトは、長野県を中心に広範囲に及ぶため、北部担当、南部担当などエリアごとにプロジェクトを担当し、分野を横断して動くことも可能だそう。もしくは、教育系のプロジェクトを担当したい、建築関係に携わりたいなど、分野を絞ってエリアを横断する関わり方も。その人の得意な分野やスキルを活かせるようにプロジェクトを渡していきたいと瀧内さんは考えています。

瀧内さん「例えば、20〜30代前半くらいの、今後独立してやっていきたいフリーランスだとぴったりかもしれない。自分で仕事を取る営業力はまだなかったとしても、週3日くらいはプロジェクトにコミットしてもらって、僕と働きながら、仕事を覚えて盗みながらやっていくイメージです。」

対話を通じて地域に橋を架けていく

また、今回は合わせて経理・事務作業を担うバックオフィスマネージャーも募集します。バックオフィスマネージャーには、日々淡々と同じことをこなせる事務・経理の実務能力が求められます。ですが、単に「事務方の仕事をする人」というよりは、「営業事務的な動きができる人」を求めているといいます。

瀧内さんの運営する会社をはじめ、9社の共同オフィスとなっている事務所。ここがイベントの会場となることも。通うだけでもいい刺激が受けられそうだ

瀧内さん「文字通り、オフィスの整備から郵便物の管理、各種書類の作成、資料の準備などの事務作業、経理処理を全て任せられる人。できれば、営業周りのサポートとして提案書や報告書の作成まで任せられたらうれしいです。プロジェクトの全貌を理解した上で、書面に落とし込む能力が必要になるので、僕が携わっているプロジェクトに興味関心を持てる人がいいですね。」

バックオフィスマネージャーの業務量は、週に1〜2日だけ事務所に通えばこなせるボリューム感。郵便物や紙の書類の管理が必要なため、長野市の事務所まで通える方が対象になります。

事務所の中に建っている小屋は、瀧内さんが企画し、ダブルローカルの著者でもあるデザインユニット「gift_」が気軽に移動できるように設計したもの。長野県産の木材を活用しており、ポップアップショップや対話の場として活用している

瀧内さん「イメージとしては、本当はガンガン外に出て働きたいけれど、子育て中や休職中で制約がある人などが、次に向けて動く前のステップとしてうちを使ってくれるのがちょうどいいのかなと。」

携わるプロジェクトの数が増え、関わる地域も広がり続けていることから、自分の限界が会社の限界になっていることを感じているという瀧内さん。今回の募集で、業務の一部を人に手渡していくことで、チームとして動ける領域を広げようとしています。

瀧内さん「プロジェクトベースでの業務委託や、外部人材によるサポートだけでは、僕の限界がチームの限界になってしまう。適材適所にそれぞれが得意なことを担当できる体制にして、プロジェクトを回していきたいなと。僕1人で社会に対して働きかけるより、チームで同じ方向に向かっていった方が、社会に対してより大きなインパクトを与えられると思うんです。」

構想を形にできるディレクションと、状況を整理し構造化するファシリテーションの能力を備え、さまざまなプレイヤーや地域に根差す人たちと対話を重ねる。地域や分野を横断し、橋を架けていく。瀧内さんは、そんな自身の働き方を「ローカルコーディネーター」と呼んでいます。

すでに数多くの地域やプロジェクトに携わりながらも、瀧内さんはここからさらにエリアやプロジェクトの幅を広げていこうとしています

瀧内さん「僕の仕事は、よく『まちづくり』といわれますが、実はまちづくりをしているつもりはあんまりなくて。いろいろな人がやりたいことを叶えるために、対話を通じて足りないピースの形を明らかにして、隙間を埋めている感覚ですね。こうしたコーディネート能力を持つ人が社会に増えれば、僕らの仕事はなくなっていくし、本来はそうあるべきなんです。」

一つのものごとを進めるために、役割分担をして業務が細分化していけばいくほど、そこにはどうしても認識のズレや隙間が生まれていきます。その隙間を、対話で埋めていったり、橋を架けていったり。地域で何かをつくる、何かを進めていく上で、どんな方向に向かっていけばみんなが幸せになれるのか。そのための伴走をするローカルコーディネーターという仕事。

ローカルコーディネーターがいなくても、地域に関わる一人ひとりが自分たちの手によって未来をつくっていく。そんな日がやってくる日まで、瀧内さんたちの活動は続きます。まずは、自分の興味関心のある分野や、関わり続けたい地域から。瀧内さんと一緒に、地域に入り込んでみませんか。

文 風音
写真 丸田平

募集要項

[ 会社名/屋号 ]

鳥とうたう合同会社

[ 募集職種 ]

①プロジェクトマネージャー
②バックオフィスマネージャー

[ 取り組んでほしい業務 ]

①プロジェクトマネージャー:担当プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメント、ファシリテーション等ディレクション全般のサポート
②バックオフィスマネージャー:経理・事務作業のほか、行政等への提案書や報告書作成業務

[ 雇用形態 ]

業務委託(リモートワーク可能)

[ 給与 ]

業務委託のためミッションと稼働時間とスキルに応じて相談の上決定します。(日給換算15,000円〜)

[ 勤務地 ]

長野県長野市南県町644-8 県ビル2F
※基本的にリモートワークでご対応いただき、必要なタイミングで現地訪問・打ち合わせなどを実施します

[ 勤務時間 ]

業務委託のため規定しません

[ 休日休暇 ]

業務委託のため規定しません

[ 昇給・賞与・待遇・福利厚生 ]

業務に必要な出張や商談のための交通費やその他経費等は負担します

[ 応募要件・求める人材像 ]

・これからの子どもたちのために社会を変えていきたいと考えている人
・他人に興味を持てる人
・次々と新しい何かを始めること、考え続けることが苦痛ではない人

[ 選考プロセス ]


書類選考

面接2回程度(リモート、現地)

内定

[ その他 ]
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瀧内貫プロフィールページ

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