“「(自分は)これがやりたいんだ」という他の主語、
自分ではない主人公を尊重できるのが何より大切です。
「この取り組みは未来につながっている」と、希望を持って信じられる仲間を探しています。”
JR佐久平駅から車で17分。佐久市の生涯学習センター「野沢会館」の2階にあるのが、佐久市市民活動サポートセンター、通称「さくさぽ」です。今回の求人では、佐久地域でまちの人たちの活動を支え、広げ、つなげるスタッフを募集しています。
センター長の粟津知佳子さん、スタッフの上野亮太さんにお話をお伺いしました。
「支える」「つなぐ」「広める」を通じて地域に踏み込む黒子役
さくさぽのヴィジョンは、「出会って、学んで、コラボして、参加の力で佐久の未来を創ろう!」。2019年からは、長野市に拠点を置く特定非営利活動法人(NPO法人)長野県NPOセンターが佐久市から受託し、運営を行っています。
粟津さん「さくさぽを運営するNPO法人長野県NPOセンターは、NPO法ができた翌年、1999年に設立した団体で、長野県で初めてNPO法人として登録された歴史ある団体です。市民活動やボランティアにようやく法人格が与えられることになり、きちんと事業主体として社会から信用される活動をしていこうということで、設立当初からずっと、NPOなど市民活動のサポートを行なっています。」
NPOは「Non-Profit Organization」の略で、利益を目的としないさまざまな組織を含む言葉です。日本では、1998年に「特定非営利活動法人(NPO法人)制度」が施行されたことで自由度が増し、社団法人や財団法人、社会福祉法人以外の小さな活動団体でも、株式会社や合同会社と同じ法人格を持って事業ができるようになりました。
「NPOセンターは、企業版の商工会のような存在」と話す粟津さん。法人を設立するにはどういった手続きが必要か、資金調達の方法や、より良い組織経営に向けた取り組みなど、気持ちに寄り添い、支援をするのが役割です。
一方でさくさぽは、今年10周年を迎える佐久地域の市民活動を支える機関。
粟津さん「アイデアを出し合って発想の幅が広がるとか、それぞれの人が持っている人脈がつながってかけ算で広がっていくようなことを、佐久地域でどんどん増やしていきたい、というのがさくさぽのミッションです。例えば、貧困家庭の子どもたちを救う支援がしたい、高齢者の居場所づくりをしたいなど、やりたい気持ちがあって始まる活動を、一歩引いた立場で見る。自分が主役ではなく、常に誰かの脇役としている必要があります。」
支援の対象はNPO法人にとどまらず、さまざまな人の「やってみたい」という声が集まってきます。
粟津さん「市民活動サポートセンターの位置付けは、「第二次 佐久市協働のまちづくり計画」という市の計画にも定義されています。協働って、例えば、行政と民間、民間のなかでも企業とNPO、教育機関と市民活動など、さまざまな主体が得意分野を活かして共通の目的の実現のために動いていくことを指す言葉ですが、さくさぽは、そうして生まれる協働の力を、まちづくりに活かすための中核的な機関とされています。」
こうした拠点を設けているのは、東信地域では佐久市だけ。社会福祉協議会のボランティアセンターなどが窓口を兼ねている自治体もあるそうですが、もっと自分たちから踏み込んで協働の力を生み出していこう、という市の想いが根本にあります。
さくさぽのキーワードは、「支える」「つなぐ」「広める」の3つ。
粟津さん「学びの機会として情報発信や組織運営に関する講座を企画したり、相談に乗ったりするのが“支える”活動です。“広める”活動は、佐久市にある活動の紹介や協働の事例、どんなメリットがあるのかなどを機関誌やネットで伝える活動ですね。“つなぐ”活動は、リアルな出会いの機会が大事だと思っています。“こういう人知らない?”とか“空き店舗を探している”とか、場所、もの、人、活動、お金、すべてひっくるめてつなぐお手伝いをしています。」
例えば2021年は、NHKの大河ドラマ『晴天を衝け』をきっかけに、ひとつの協働事例が生まれました。
粟津さん「佐久市は渋沢栄一の第二のふるさとだという話を受け、“佐久の魅力をより知ってもらうための講演会を開きたい”と、個人の方が相談にいらっしゃったんです。佐久市の内山という地域には、渋沢栄一が詠んだという漢詩の石碑があり、歴史を調べている団体や、地域の良さを伝える活動をしている団体、藍染に詳しい団体などがありました。そうした団体にさくさぽから声をかけ、顔合わせの機会をつくることにしたんです。」
話をした結果、多くの共感が集まり、有志が集まって新たに団体を設立。佐久商工会議所や、機材ボランティアなど多くの協力を経て、2度の講演会が実施されました。
粟津さん「協働の中核的機関と言っても、協働はあくまで手段であって、目的ではないんです。やりたいと思う人がいないのに協働という形だけをつくり上げるのは、誰も幸せにならないので目指していません。誰かのやりたい思いにパズルのピースを組み合わせていくようなイメージで、形にならずに止まるのもたくさんあるし、それはそれでいいと思っています。あくまで出会う、つなぐっていう黒子の部分が私たちですね。」
「さくさぽが取り組んでくれる」「進めてくれる」となってしまうと、協働をつくるのは難しい。どんなときも主語は誰なのか、誰の取り組みなのか、目的が何かを間違えないように進めていく必要があるといいます。
また、さくさぽではこうしたサポートやコーディネートのほか、自分たちが主語になる自主事業も行なっています。例えば、佐久地域を丸ごとキャンパスに見立てて、学生が地域活動に触れる「地域まるごとキャンパス」。地域との関わりが減ってしまう高校生や大学生を対象にした企画で、ただ単に体験をするのではなく、学生たちが考えて参画できるような10種のプログラムを組み立てているのだそう。
粟津さん「つながりのあるNPOや企業に声をかけ、学生と一緒に、イベントや商品の企画をするなど、さまざまな活動に挑戦してもらいました。参加した学生からは、“まちについて知らないことが多く、活動を通じて魅力を感じられた”という感想が寄せられたり、受け入れ団体からは“学生の斬新なアイデアに学ぶことが多く、今後も一緒に取り組みたい”という声が届いたりしました。」
粟津さん「サポートやコーディネートをメインで行いつつ、自主事業の企画など主体的なところがあるのも私たちの特徴だと思います。地域まるごとキャンパスの受け入れ団体は、さくさぽの登録団体だったり、利用者だったり、オーバーラップする部分はたくさんあるので、明確な線引きが難しい時もあります。市民活動に関することならどんなこともチームワークで乗り切る、そんなイメージを持ってもらえたらいいかなと思います。」
経験をもとに個々を受け止め、一瞬の可能性を見出す
常勤スタッフの上野さんは、自身がさくさぽに相談に来ていたところを誘われたのが、勤めるきっかけでした。
上野さん「もともと佐久市出身で、今も市内に住んでいます。NPOという法人格に興味があって調べていたら、ここが出てきたんですね。自分のやりたいことを相談していたら、いつの間にかスタッフになっていました(笑)。」
粟津さん「巻き込まれた感じでしたよね。初めは兼業だったのが、気づいたら常勤になっていて。」
上野さん「タイミングだったんだと思います。市民活動という言葉に全く馴染みのないまま入ったので、最初は何をしているのかわからないことだらけでした。佐久市が設置しているのも知らなかったので、歓迎会に市役所のみなさんが来たときには相当びっくりしました。段々と組織を知って、形態を知って今に至っています。」
これまでは販売や接客をする仕事に就いてきたという上野さん。転職して業界は大きく変わりましたが、対話を通して何かを解決していくスタンスは変わりません。
上野さん「一番近いなと思うのは、楽器店の仕事です。楽器店のスタッフって、接客販売以外にも楽器教室とかを企画するんですね。演奏が上手くなりたいとか、バンドを組みたいとか、いろんな人の“やりたい”をコーディネートして実現させていく。動機が個々にあって、活動が生まれてくる感じは似ているなと思います。」
一方で、近い業界にいたのが、民間の助成財団で助成金を出す仕事をしていた粟津さんです。さくさぽで働きはじめたのは3年前。東信地域に移住してきたのがきっかけになりました。
粟津さん「センターを運営していく上で、スタッフの半数以上は佐久市民が務めるように、という決まりがあるんですね。1年目は特に、ただの施設管理ではなく相談対応やイベント企画までできる人材を地域で探す、というのが大きな課題でした。たまたま運よく私を含めて2人、中間支援やNPOに関する仕事をしてきたスタッフが入りましたが、それは住居や子育ての環境など、スムーズな受け入れ体制が地域にあったことも大きな要素だと思います。」
今までもさまざまな団体と付き合ってきましたが、それらは全て期間の決められた助成事業でのこと。腰を据え、団体の悩みやペースに合わせて一緒に寄り添える地域の支援機関には、漠然と興味を持っていたといいます。
粟津さん「さくさぽで資金調達の講座をしたときの反応が印象的でした。発達障がいを持つ子どもたちの親同士をつなぐ活動を続けている団体の方が参加されていたんですが、途中、すごく表情が明るくなったんです。”今までやっていたことは間違っていなかったと思えた”と感想をくださって。」
上野さん「何かがヒントになったんでしょうね。持っていきようのない思いを受け止めて可能性を見出すというか。行き詰まっている目先がちょっと変わったりとか、”こうすればいいのか”と気づいてもらったりとか、反応を見るとよかったなと思いますね。」
粟津さん「基本的に市民活動をしている人たちって、すごく孤独だと思うんです。特にリーダーは、メンバーに苦労を共有できないまま黙々と資料や書類をつくっていたりする。そうした孤独や悩みが全て解決するわけではないけれど、ヒントを持って帰ってもらったり、佐久地域で同じ悩みを抱えているのは一人じゃないっていうことに出会ってもらったり。長く一緒にいられるからこそ、つながった瞬間を見ると、じんわりくるものがあります。」
課題は、「見えにくい価値」をどこまで誰に伝えるのか
さくさぽが抱える課題のひとつは、価値を数値に換算しづらく、成果が見えにくいところです。協働の事例や取り組みの紹介をしても、市民活動に興味がない人に、市民活動サポートセンターの価値を理解してもらうのは難しいのだそう。
上野さん「せっかく取り組んでいるから知ってほしい、参加してほしい、って思ってしまいますが、直接関わらない人からすると、協働なんて全く関係ないことだったりするんですよね。でもそうすると、活動が知られないし、まちに浸透していかない。黒子をしていて難しさを感じる部分です。」
例えば、佐久平駅の市民交流ひろばには、指定管理という形で市内のNPO法人が入っています。そして、ただ単に場所の管理をするだけではなく、花壇の手入れをするボランティア団体などと協議会をつくり、それぞれが力を合わせて広場を運営しています。
粟津さん「市民交流ひろばに行っていただくとわかるんですが、花壇は季節ごといろんな花が咲いて、スペースごとにタイトルがついています。誰かの想いや気配を感じる素敵な場所だと感じるのですが、それはきっと行政だけでは手が回らない、市民の参加の力によるところだと思っています。」
こうした活動を、どこまで価値として換算するのか。「いい場所になっている」と、評価できるのか。サポートをする側にとって、協働によってつくりあげられるものの価値を誰にどう伝えるか、は、常に課題です。
現場で多い悩みは、次世代の担い手不足。想いを持って活動をはじめた第一世代が引退を控え、活動自体が止まってしまうのでは、という不安が生まれているのだそう。
粟津さん「行政からの委託事業を受けるだけの力がある主体、事業主になりうる団体、私たちは “公を担える民間”と呼ぶのですが、それをどれだけ育てていかれるか、というところなのかなと思います。」
先に出た市民交流ひろばの委託を受けるNPO法人も、代表者が高齢になっていて引退を考えていますが、代わりにNPO法人を運営していける人がいるか、別の法人格を持った団体があるか、という視点で見ると、どうしても市内では層が薄くなります。
粟津さん「ボランティア団体やサークルなど、芽はたくさんあるけれど、そこから法人格を取って事業に取り組むためには、まだ2段、3段と階段を登っていかなきゃいけない現状があります。さくさぽも完璧ではないですが、母体の長野県NPOセンターを通じて外の情報をキャッチしながら、民間だからこそできるサポートをしていきたいと考えています。」
粟津さん「規模の拡大だけが答えではないけれど、活動の認知度が上がることで、必要としている人に届きやすくなったり、運営やボランティアとして参加する人が増えていったり。より住みやすいまち、ってまとめてしまうと見えにくいけれど、市民活動が多く活発で、学校や職場以外にも居場所があるほうが、生きやすい佐久市になるんじゃないかなと想像しています。」
弱みを見せられる仲間と一緒に、佐久市の未来づくりに挑む
スタッフとして大切なのは、人と接するのが好きなこと。加えて、人や街に幅広く興味を持ち、共感できること。
例えば市民交流ひろばの花壇ひとつでも、「行政が外注して企業がやればいい」と思うか、「そこにボランティア団体がいて、花壇をつくることに価値があるよね」と思うか。どちらが正解という話ではありませんが、いろんな人の参加の力で生み出される価値に共感できることは、さくさぽのスタッフに欠かせない要素といえます。
粟津さん「興味の入口は、地域活動でも、市民活動でも、社会課題でも、なんでもいいのかなと思います。ただ、そうして入っていって、いろんな分野に関心を持てることが大切です。長野県NPOセンターのスタッフのなかには、自分のやりたい活動の傍らで働いている人もいて、このセクターでなにか事業に取り組んでいる人にとって、学びは多いと思います。」
働いているスタッフは、30代から70代までの10人。入れ替わりのシフト制なので、情報共有にはITツールを駆使しているといい、メールやWord、Excelに加えて、ChatworkやGoogleなどのツールを抵抗なく取り入れられるスキルが必須です。
粟津さん「相談やコーディネートの現場では、こちらの思い通りに行かないことがデフォルトです。ある程度の計画はみんなで一緒につくりますが、正解を持たずに人と接する機会も多いので、自分で考えて動けることを大切にしています。なかなかパキッといかない、基本的にふわっとした世界ですが、余白を許せるとか、思い通りにならないことを許容できるとか、そこは結構大事かもしれないですね。」
上野さん「行政と仕事をしたり、学校に入り込んで事業をしたり、本当にいろんな人と仕事をしているなと感じます。ルールや仕事の仕方、共通言語が違うこともあるので、“この日本語は通じなかった!”みたいな地雷を踏むとか、初めは苦労も多いかもしれません。でも実はそれが、うまく懐に入り込むチャンスだったりするので、めげない気持ちみたいなものも大事だなと思います(笑)。」
粟津さん「仕事の難易度は、結構高いと思っています。ストレスもそれなりにあると思いますが、だからこそ抱え込まないようにチームワークを大切にしています。事業は必ず2人以上の担当で取り組むので、そういう意味で、弱みを見せられる、強がらないことも私たちが大切にしているひとつです。」
常に新しいチャレンジが、思わぬところから湧いてくるというさくさぽの日常。地域のことを知りながら外からの視点も交え、今の取り組みに対して、どうしたら一歩先に進めるのかを考える。
「さくさぽ」は、たくさんの主語に触れながら、共に希望を持って、信じ進む仲間を探しています。
文 間藤まりの
※ 撮影のため、取材時はマスクを外していただきました。
募集要項
[ 会社名/屋号 ]
佐久市市民活動サポートセンター
[ 募集職種 ]
コーディネーター
[ 取り組んでほしい業務 ]
(1) 事業に関する業務
・各種講座等の企画・運営
・NPO法人や市民活動、地域課題に関する相談対応
・地域における協働事業の推進と連携及び課題解決に向けたコーディネート業務等
(2)管理運営に関する業務
・案内及び施設利用者への対応
・印刷機等設置機器の利用案内・対応等
[ 雇用形態 ]
契約職員
[ 給与 ]
時給 1,050円~(経験・能力を考慮し、面接後に決定します)
[ 勤務地 ]
佐久市取出町183野沢会館2階
[ 勤務時間 ]
土日祝日を含むシフト制 9:00~20:00(1日の勤務時間:8時間以内)
勤務時間:月60~90時間程度(応相談)
[ 休日休暇 ]
・週休日:週1日以上
・休日:月曜定休(※ただし、祝日や事業の関係で月曜に勤務となる可能性もあります)、年末年始(12月29日から1月3日まで)
[ 昇給・賞与・待遇・福利厚生 ]
社会保険(雇用保険、労災保険)に加入
[ 応募要件・求める人材像 ]
<必要条件>
・社会人経験が3年以上ある方
・Word、Excel、PowerPointが一通り操作できる方、またITツールの使用に苦手意識がない方
・対人コミュニケーション能力、協調性がある方
<歓迎条件>
・佐久市内に在住の方
・非営利セクターでの業務経験がある方、または関心のある方
・主体的に考えて動くことができる、自己マネジメントが可能な方
・新しいことに挑戦するのが好きな方
・学生からシニアまで、多世代とコミュニケーションができる方
・平日夜・土日・祝日含め、柔軟に勤務できる方
[ 選考プロセス ]
①エントリーフォームから応募
②書類審査
③面接(書類審査通過者のみ)
④内定
※面接に進んでいただく方へは、エントリーから10日以内に、採用担当よりご連絡します
※取得した個人情報は採用目的以外には使用しません。
※不採用理由についての問い合わせにはお答えできかねます。
[ その他 ]
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