全国有数の避暑地である、長野県の軽井沢と山梨県の清里との、ちょうど真ん中あたりにあるのが、佐久穂町です。
観光客には素通りされがちな小さなまちですが、プルーンやリンゴを始めとする果樹、さまざまな野菜や花を育てるのに適した環境で、以前から新規就農を目指して移住する若者が一定数います。また、2019年にはイエナプランというユニークな教育のコンセプトを日本で初めて実践する大日向小学校が開校しました。そのため子育て世代の移住者も増えており、高齢化が進んでいたまちに活気が生まれつつあります。
そんな佐久穂町で、2023年春から地域おこし協力隊として働く人を募集しています。任務の内容は、「誰もが自分らしく生きることができるまち」を実現すべく、障がい者とまちをつなぐ施策を考え、実行すること。福祉分野の経験は問われません。
障がい者福祉に関して町が抱える課題、協力隊員に求められることについて、先輩協力隊員、町役場の担当者、町の障がい者福祉施設の所長にお話を伺いました。
農家の畑仕事を手伝い、「農福連携」の道を探る
2020年5月から協力隊員として働く水谷和世さんは、今回募集するのと同じ障がい者福祉の領域で活動しています。
水谷さんの仕事の内容は、大きく分けてふたつ。ひとつは障がいによって働くことが困難な方々の活動の場づくり、もうひとつが、働く意志のある方々の就労機会を増やす「農福連携」の検討と具体化です。
前者の主なフィールドは、まちの「地域活動支援センター」です。今は4〜5人が定期的に利用しており、水谷さんはその人たちの話し相手になったり、創作活動を手伝ったり、外出に付き添ったりします。センターでのインタビュー中にも、水谷さんに親しく話しかける利用者さんがいて、慕われている様子が伺えました。
ほかに、創作活動のメニューを増やすため、例えば藁細工の講師をしてくれる人を探し、試しに教室を開いてみたりもしています。
水谷さん「”猫つぐら(猫ちぐら)”っていう、藁で編んだ猫のおうちをつくるおじいちゃんがいるんです。その方のところに何度か通ってお願いをし、私の知り合いに生徒になってもらって、公民館で教室を始めました。まちの人からは地域活動支援センターの中の様子が見えないから、オープンな場所でやることで、利用者さんとそれ以外の人たちが一緒に過ごせる場になるといいと思って。」
何かしらの障がいを抱える方の就労に関しては、まちに「就労継続支援B型事業所」に分類される施設が1ヶ所あり、常時30名ほどがダンボール箱や電子部品の組み立てなどに従事しています。その他に近隣の病院に雇用されて清掃の仕事をする人もいますが、民間企業などの障がい者雇用はほとんど進んでいないのが現状です。
そんななか、水谷さんは「農福連携」、すなわち農業と福祉の連携によって障がい者が農業で活躍できるしくみの実現を模索してきました。そのために、週に何度かは作業着と長靴を身に着けて農家さんの畑に向かいます。
水谷さん「私自身は家庭菜園でミニトマトとバジルを育てたことくらいしかなくて。まずは農業の現場を知ろうと、たまたまバイトを募集していた農家さんにお願いし、定期的に通って仕事を教えてもらいました。農家さんによって働き方も作業内容もいろいろあるんですよね。自分も体験しながら、『午後に野菜を出荷するところなら、朝がゆっくりで障がいのある方も通いやすいかもしれない』とか、『野菜のラベルを貼る作業ならいまの施設でも引き受けられそうだ』とか、障がいのある方が働ける方法を考えてきました。」
まずは農作業を体験してもらおうと、田んぼを持つ知人に協力を依頼したりもしました。しかし、障がい者の側で「やってみたい」という人を見つけることが難しいなど、なかなかスムーズには進みません。3年の任期の最後の年である2023年度は、引き続き農福連携の可能性を探りつつ、これまでの仕事を新任の協力隊員に引き継いだり、退任後の自活に向けての準備にも取り組んでいく予定です。
まちの人々との「顔の見える関係」をつくりたい
農業の盛んなまちとして「農福連携」に期待がかかるものの、障がいのある方がそこで活躍できるようになるまでには、もう少し時間がかかりそうです。そんななか、新たに募集する協力隊員はどんなミッションを持つことになるのでしょうか。佐久穂町役場 福祉係で地域おこし協力隊の担当をする小林正樹さんに、協力隊の任務とその背景を伺いました。
今回募集する協力隊は、次の3つに取り組む予定です。
1つ目は、働くことが困難な障がい者の、日中の居場所づくり。前述の地域活動支援センターの仕事です。
小林さん「障がいのある方の社会参加の第一歩として地域活動支援センターを利用していただきたいのですが、利用者が少数で固定化しているという課題があります。『ここに来てくれたら良さそうだ』という方には、保健師が訪問したときにお声がけしたりもしているのですが、なかなか新規の利用者が増えません。
理由としては、地域活動支援センターに閉鎖的な印象があったり、障がい者施設に通うことに抵抗感があるなど、いろいろあるのだと思います。
ここをより魅力的な場にしてネガティブなイメージをなくし、『行きたいな』と思ってもらえるような施策を、協力隊の方と一緒に進めていきたいです。」
2つ目は、障がい者の就労の選択肢を増やす活動です。農福連携のほかに、一般企業に門戸を開いてもらうための働きかけが期待されています。
小林さん「まちのB型事業所には、一般企業での就労も可能だという方がいらっしゃいます。でも、今は働ける場の選択肢が少なく、あったとしてもいきなり職場を変えるのはハードルが高いですよね。
ステップアップの支援をしたり、地域の企業さんに働きかけて、『こういう仕事、働き方であればできるんじゃないか』といったことを一緒に考えてもらうようなことをしていきたいんです。
まちとしても政策を考えているところですが、その取り組みをより加速させていくために、外の視点、柔軟な発想を持ち込んでくれる方に来てもらいたいのです。」
3つ目の仕事は、障がい者と地域の方々との交流の機会づくりです。背景には、障がい者とそれ以外の住民との関わりが少ないという問題意識があります。
小林さん「今は家と施設を往復するだけの方が多かったり、そもそも外に出ていくのが難しいという方もたくさんいらっしゃいます。障がいのある方の行く先を施設だけに限定せず、色々な交流の機会を増やしていきたいと考えています。
お互いの顔が見えるのが、この小さなまちの良さでもあります。交流をきっかけに、『あの子は大丈夫かな』と気にかけてもらうような関係ができていけばいいな、と思います。そのための企画を、一緒に考えて実行していけたらと思います。」
接してみれば、自分とそんなに違わない
小林さんと一緒に、まちの障害者福祉施設「陽だまりの家」を訪問しました。ここで就労継続支援B型事業、生活介護事業、相談支援事業が行われ、車で5分ほどの距離にある地域活動支援センターや放課後等デイサービス施設も、「陽だまりの家」が運営しています。
所長の佐々木茂さんは、元は町役場の職員でした。ここに勤めるようになるまでは、障がいのある方と日常的に接することはなかったといいます。
佐々木さん「ここに来てみて、障がいがある人も、自分とそんなに違わないんだなと分かりました。それまでは、この施設にどんな人がいて何をしているのか見えなかったんですよね。それは、ほかの町民の皆さんも同じだと思います。接する機会がなくてわからないから、障がい者に対して先入観がある人もいます。」
「陽だまりの家」の利用者の多くは、町のデマンドタクシー「げんでる号」に乗るか、家族の送迎で通っています。家族と施設の人以外との交流の機会はほとんどないという人が、多いのです。
「自分たちと少しの違いしかない障がい者の実態を知ってもらいたい」という佐々木さん。「障がい者が働くカフェがあれば、一般の人とも自然に交流が生まれるんじゃないか」といったアイデアもあります。しかし「陽だまりの家」としては、企業やまちから受託している仕事を完遂したり、福祉サービスを提供するのに手一杯で、他のことを始める余裕がありません。そこに、新しい取り組みを提案し、推進する協力隊の力が必要とされているのです。
3年間の経験を活かし、退任後の活躍にも期待
小林さんは、障がい者の生活の場としての佐久穂町の理想像を次のように思い描いています。
小林さん「まちの福祉施設が、周りからは見えない閉鎖的な場所ではなく、町民からも地域の一部として認識される場所になっている。そして、『障がい者は施設へ』という固定観念にとらわれず、それぞれの個性が生きる活動の場がたくさんある。そんなまちになっていくといいな、と思っています。」
このような理想に向かって活動するキーパーソンとして、いろいろなことにアンテナを張り、新しいことへの挑戦をいとわない人が向いているのではないかと小林さん。様々な人と関わることになるため、合意形成をしながら連携をとって仕事を進められることも大事だと指摘します。
水谷さんも「関係者への配慮は必要」としつつ、「新しいことをやるには、ちょっとした抵抗は飛び越えちゃうような、柔軟さを持っている人がいい」とのこと。福祉分野の経験は問われず、むしろ他の領域から新しい視点を持ち込むことが期待されているようです。
また、地域おこし協力隊には3年という任期があるため、協力隊としての活動に邁進しつつ、4年目以降の身の振り方も考えていく必要があります。まちとしてはもちろん、4年目以降もまちに定住し、地域のために力を発揮する存在になってほしいという願いがあります。
小林さん「協力隊の活動の中で、まちと一緒に新しいことを企画し実行するという経験を積んでいただきます。退任後もその経験を活かし、企画力が強みの福祉事業者になってくれると嬉しいですね。」
小林さんによれば、佐久穂町は小さなまちゆえに、協力隊員としての仕事を通じて顔を覚えてもらいやすいとのこと。町役場も、所属する課に関わらず、お互いに人柄を知っている職員が多い印象です。後に福祉の仕事を続けるにしても、異分野に挑戦するにしても、3年の任期の間に培う人との関係が、きっと支えになるでしょう。
水谷さんは、退任後に進む道をどのように考えているのでしょうか。
以前は福岡で保育士として働いており、子どもが大日向小学校に入学することになって移住を決めた水谷さん。障がい者福祉の仕事は未経験でしたが、保育士としてもひとりの母親としても、発達の気になる子どもたちがその後どのように育ち、社会に出ていくのかが気になっていたことから、この世界に飛び込んでみたそうです。
そして、協力隊員として大人の障がい者と関わった結果、当事者がどんな子ども時代を過ごすか、その保護者を周りがいかにフォローするかが、その人のその後の人生に大きな影響を与えるのだと認識するようになったといいます。
水谷さん「山や川や田畑でのびのびと遊べるこのまちの環境は、子どもの発達の観点からも理想的だと思います。この地域で、みんなが子ども時代を子どもらしく過ごせるような支援ができないか。今はそんなことを考えています。」
障がいがあってもなくても、その人らしく生きられることを大事にしたい、まだ誰もやっていないことに挑戦してみたい、ほかの地域で実現している良いことを持ち込んでみたい。そんな方は、ぜひ佐久穂町という新たなフィールドで、自身のテーマを追求してみてはいかがでしょうか。
文 やつづか えり
※ 撮影のため、取材時はマスクを外していただきました。
募集要項
[ 会社名/屋号 ]
長野県佐久穂町役場 福祉係
[ 募集職種 ]
福祉コミュニティマネージャー(地域おこし協力隊)
[ 取り組んでほしい業務 ]
佐久穂町では、障がい者福祉の充実を目指して様々な取組を行っています。その取組をより加速させるために、次の三つの活動を一緒に考えてくれる協力隊を募集します。
①日中の居場所づくり 誰もが安心して集まり、楽しく日中活動が行える居場所を整えていきたいと思っています。社会参加の第1歩として過ごせる場所、疲れたときにちょっと立ちよれる場所、生活するうえで必要な知識を学べる場所、佐久穂町にとってどんな「居場所」が必要なのかを一緒に考えていきましょう!
②障がい者が働くためのお手伝い 障がい者にとって仕事の選択肢が少ないという現状があります。それぞれが持つ力を発揮しながら働ける場所をまちの中に増やしていけるように企業やまちの方々との接点づくりや農福連携等の今まで佐久穂町には無かった働き方について一緒に考えていきましょう!
③地域との交流づくり 障がいが有る無し関係なく誰もが参加できる企画を一緒に考え、地域の方々に障がいに対する理解を広げます。障がい者が社会参加しやすいまちを一緒に目指しましょう!
[ 雇用形態 ]
会計年度任用職員、最大3年間
[ 給与 ]
月額190,900円+期末手当
[ 勤務地 ]
障害者福祉施設及び役場
[ 勤務時間 ]
週37.5時間 1日7時間30分を基本とします。
[ 休日休暇 ]
週休2日制
[ 昇給・賞与・待遇・福利厚生 ]
隊員の活動用の燃料費、消耗品費、旅費、通信料等の活動経費は町が予算の範囲内で負担します。
■雇用保険、社会保険は役場で加入(掛け金負担あり)
■有給休暇:10日 ・住居:町内にある町営住宅や民間アパートに居住していただきます。家賃は予算の範囲内で町が負担します。
■車両:活動に必要な車両は原則隊員が用意。リース代等は予算の範囲内で町が負担します。
[ 応募要件・求める人材像 ]
■障がい者の方々とまちの人をつなぐためのイベント企画運営などを一緒にできる人
■これから福祉業界で働くためのキャリアアップを考えたい人
■相手の意見を取り入れながら、人と協力してものごとを進められる人
■柔軟な発想で自発的に行動を起こせる人
[ 選考プロセス ]
■一次審査/書類選考: 令和5年2月20日
■二次審査 :
お試し協力隊・面接:令和5年3月10日(金)~3月12日(日)に実施
宿泊先は町で用意します。交通費は自己負担になります。
■採用決定:令和5年3月下旬
[ 参考URL ]
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