長野県の最南端、愛知県豊田市と岐阜県恵那市に隣接する根羽村は、人口900人ほどの山村です。総面積の9割は森林で、山の資源や源流を生かした独自の取り組みが評価され、2022年度にはSDGs未来都市認定・過疎地域優良事例等を受賞。移住者も増えて2年連続の社会増を記録するなど、盛り上がりが見える場所です。

木のおもちゃ制作やエコツーリズムのほか、杉の木を原料に織物をつくる木の布プロジェクトや酪農家と取り組む「山地酪農」など、独自の森林保全活動に注目が集まっている

今回の求人は、移住コーディネートや地域資源を活用した事業開発支援などを通じて、村民主体で住み心地の良い村をつくる「村ごこち」の向上に取り組む「一般社団法人ねばのもり」から届いた、放課後子ども教室のディレクター募集。地域おこし協力隊として、子どもたちに関わりながら複業をつくる「半教半X」人材を探しています。

中心となる放課後子ども教室は、平日の放課後や春休み・夏休みなど長期休暇の間、村の小学生を対象に開かれる学童事業。2021年度から「ねばのもり」が委託を受け、公教育の枠ではできないさまざまな学びの機会を用意してきました。お話を伺ったのは、「ねばのもり」代表の杉山泰彦さんと、2023年3月までディレクターを務めた水野彰人さん。

子どもたちと一緒に草花を使って作品をつくる水野さん(写真中央左)。長期休みの企画は、家庭の事情に関係なく「楽しいから」と通う児童も多い

計画づくりから日々の業務まで、村と一緒に放課後子ども教室をつくり上げてきたおふたりに、これまでの想いや目指す未来、「半教半X」という働き方について教えていただきました。

2018年に家族で根羽村に移住し、2020年に一般社団法人「ねばのもり」を立ち上げた杉山さん。村民からは“マギー”の愛称で親しまれている

ここにしかない体験を通じて学びをつくる「放課後子ども教室」

根羽村にある学校はひとつだけ。2021年度からは小中一貫の義務教育学校になり、1年生から9年生まで40人ほどが通っています。

杉山さん「一学年5人くらいで、放課後子ども教室には小学生の7割ほどが来ています。少人数学級だからこそできる環境づくりが特徴で、義務教育として行う学校の授業のほか、高学年を対象にした公営塾の開設や森林学習、繭玉づくりなど地域ならではの素材やつながりを生かした総合学習が行われています。」

現在「ねばのもり」で委託を受けている学童事業「放課後子ども教室」は、放課後の時間に子どもたちが過ごす場として、もともと村の社会福祉協議会が担っていた事業です。

杉山さん「社会福祉協議会の中に教員免許を持つ方がいて、学童の時間に、地域を巻き込んだ体験学習を始めたのが今の形のはじまりです。保護者からも子どもたちからもとても好評だったそうですが、社協だけでは運営するのが難しくなり、私たちが引き継ぐことになりました。」

厚生労働省が定める放課後児童健全育成事業(※注1)は、「児童に対して適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図るもの」とされており、杉山さんたちが大切にしているのは、好奇心から生まれる自主的な学び。子どもたちの安全確保や学力の向上はもちろん大切ですが、生きていく上で必要な力が養える場づくりを意識しています。

杉山さん「目安では子ども30人に対して支援する大人は1人とされていますが、放課後子ども教室の理想は子ども10人に対して大人が1人。それぞれの興味を大切にできる人数規模を考えています。僕が移住してきたときに感じたのが、自然遊びをしている子どもの少なさです。これだけ身の回りに自然があっても、きっかけがないと関わらないんですよね。都会に比べると村での暮らしは学びのオプションが少ないように感じるかもしれないけれど、もっと身近にあるものを使って学びを広げることができるんじゃないか、って。個人的には、そうしたもったいなさや、親として“こんな学童があったらいいな”と思う内容を学童の学びに盛り込んでいます。」 

「子ども大好き!遊ぶの大好き!」という水野さん。子どもたちののびのびした姿が見られることと、間近で成長を感じられることが仕事の醍醐味

水野さん「自然に関わるイベントや、昔行われていた茶道教室など文化に触れる機会、それらをベースに、村と相談しながら目指したい学童保育の姿をつくってきました。平日はまず宿題をして、自由時間はドッジボールや鬼ごっこ、ブランコなど、いわゆる普通の遊びが中心になります。子どもたちが”やりたい!“という遊びに、僕が全力で加わりながら、飽きさせない工夫をしています。」

大切にしてきた地域の人と一緒に行う体験の企画は、時間がたっぷり取れる長期休みが中心です。さまざまなつながりの中で声をかけあってイベントを企画します。

水野さん「僕が意識していたのは、子どもたち自身が企画してつくり上げていく環境づくりです。2年前の夏休みは、村にある一棟貸しの宿・まつや邸を貸し切って村の人を招待して、子どもたち主導でお化け屋敷を企画しました。企画を考える力や上級生が下級生をまとめる力など、イベント通してひとまわり大きくなったな、という実感や嬉しさもありました。」

木工・料理・収穫体験・渓流釣り・山での秘密基地づくり・藍染体験・防災体験など、これまでさまざまな企画が行われてきた

放課後子ども教室の掲げるビジョンのひとつに、「子どもたちの学びの最大化」があります。代表の杉山さんが考える学びとは「気づく力」。工夫することでできることが増えたり、知識や技術を身に付けることで扱える素材が増えたり。誰かから言われたことだけでなく、自分の中で見つけた「気づき」の仮説検証ができることで、その経験全てが学びにつながると杉山さんは考えます。

杉山さん「例えば、春休みに行ったのは、フローリストとして活躍するお花屋さんを招いて実施した”山にあるものでお花アート”。みんなで学校の周りの草花や枝を集めて、アレンジメントを体験しました。アウトプットのイメージができると、身の回りにあるものが素材に見えてくる。こうした気づきが大事だと思っています。

人口の少ない小さな村では、“表現”の分野での評価がされにくく、スポーツか勉強のいずれかで評価されがちです。放課後や休暇に行われる学童は、公に決まった教育カリキュラム以外の学びの要素も取り入れられて、一番自由が効く場所。みんなの個性も大切にしたいし、たくさんの人に出会って活動する中で、キャリア教育にもつながればと考えています。」

長期休みの運営には、この村で生まれ育った高校生や大学生もアルバイトとして携わる。お互いの振る舞いを見るなかで、子どもたちは自然と関わりあい、学びを得ているそう

※注1 児童福祉法第6条の3第2項の規定に基づき、保護者が労働等により昼間家庭にいない小学校に就学している児童に対し、授業の終了後等に小学校の余裕教室や児童館等を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図るもの

型にとらわれず、自由な学びに携われる立場を実現

出身は愛知県名古屋市。小学生時代の担任の先生に憧れて教員を目指した水野さんは、小・中学校の教員免許を持つ人物です。

水野さん「スポーツができておもしろくてかっこいい、僕にとってヒーローのような先生でした。しかし、いざ自分が教育実習などを通して教育の現場に出てみると、教育カリキュラムなどの制度や決まりに則ることに重点が置かれている印象を受けて。一人ひとりの個性を大切にしたい自分には難しい職かも、と思うようになりました。」

「いずれ教員になるとしても、まずは社会人を経験しよう」。そう決めた水野さんは、個人事業主として東京に出て、働く道を模索します。

水野さん「2017年までの5年間は、都内でシェアハウスとゲストハウスを運営しながら暮らしていました。カナダに渡り、着物を着て抹茶をたてながら旅をしていた期間もあります。縛られたくない、自由に生きたいという思いをずっと持っていたし、若いうちなら失敗してもなんとかなるだろうと、勢いもありました。」

着物姿で抹茶をたてる水野さん。こうした海外での体験は、放課後子ども教室で、よく子どもたちに話していたそう

水野さんが、ゲストハウス事業やカナダでの生活を通じて感じたことは、日本文化の素晴らしさ。出会った海外の人たちから、日本人の親切さや自分たちの暮らす国を大切にする心などを褒められることが多かったそうです。

水野さん「日本ってすごいんだ、かっこいいんだって、目覚めていくような感覚です。日本人が気づいていない素晴らしさをもっと子どもたちに知ってほしいし、届けたい。再び教育の現場に立ちたいと感じるようになったのは、この時の思いが元になっています。」

根羽村との出会いは帰国してすぐ、移住マッチングサイトの「SMOUT」に登録したのがきっかけです。水野さんは、サービスが充実して暮らしやすく完成した都会より、1からクリエイトできる可能性の高い田舎が自分には合っていて楽しいのではないか、と、漠然とした思いを抱いていました。そんなある日、根羽村から1通のメッセージが届きました。

水野さん「マギーが僕の資格欄に書いていた”教員免許“を見て、連絡をくれたんです。当時の根羽村では、年度途中で退職が決まった先生に代わる人材を募集していて、まずは一度行ってみようと思い、そこで初めて村を訪れました。」

最初に感じたのは、人の優しさと水やご飯のおいしさ。暮らしはじめてから今まで、それはずっと変わりません。また、自身との親和性を感じたのは、村全体がサステナブルな暮らしを志していることでした。現代社会でいうエコやサステナブルは、もとからある日本文化に通ずるところがある、と水野さんはいいます。

水野さん「例えば江戸時代には、自分が着られなくなった着物を人にあげたり、座布団や雑巾にして使ったり、最後まで物を大切にする文化が根付いています。日本文化は素晴らしいと考える僕にとって、サステナブルを目指す根羽村はとてもかっこよく、おもしろく見えました。」

村の好きなところは、自然豊かで良い意味で何もないところ。暮らしはじめてから、鳥の声や穏やかな時間など、些細なことで幸せを感じる心が身についた

水野さん「あえてマイナスを上げるとすればコミュニティの狭さ、小ささでしょうか。担任の先生の家は子どもたちみんなが知っているし、道を歩けば大体の人が知り合いで、そこは都会との大きな違いです。暮らしているうちに慣れた部分もありますし、村全体が大きな家族みたいなものだと、自分の捉え方を変えたらずいぶんと楽になりました。」

最初の半年間は学校の教員として過ごし、その後、放課後子ども教室に取り組んだ水野さん。長期休み以外は放課後しか仕事がないので、個人的に他の収入源も得ないといけないと考えるようになり、「半教半X」という言葉を意識しはじめました。

水野さん「僕の場合、半Xにはゲストハウスやシェアハウスをつくる選択肢もありましたが、その時はYouTubeだったんですよね。趣味で旅の動画をあげているチャンネルがあったので、本格的に収益化しようと決め、試行錯誤してきました。複業する上で意識しているのは、どんなことも子どもたちに還元すること。YouTubeの事業では”登録者数10万人達成”を目標に掲げ、自分が目標に向かって進む姿を見せることで、僕も、私もできるんだって子どもたちが思ってくれたらいいなという気持ちはありました。」

目指しているのは背中で語れる大人。達成後にはYouTube公認の「YouTubeクリエイター表彰プログラム」の景品である銀の盾を子どもたちに見せた

自分の活動に一生懸命打ち込んだ結果、さらなる目標が見えたという水野さんは、「これからさらに自主事業に力を入れていきたい」と、村を出る決意を固めました。放課後子ども教室の後任について、杉山さんたちは、子どもが好きなことを前提に、企画するのが好きな人が良いのではないかといいます。

杉山さん「先生として学校に入ってしまうと、複業が禁止であったり、日々の業務に追われたりして、自分の教えたいことを突き詰めていくのが難しい場合もあるので、こうした形で教育に関わるって、興味のある人は結構いるのではないかと感じます。今年度以降も、子どもたちのことと、その人自身の叶えたいことのバランスを取りながら、さまざまな企画に挑戦していきたいです。」

移住者が増えておもしろい人が繋がりはじめた今、「ねばのもり」として考えている企画のひとつに、学童を通じた「習い事」の場づくりがあります。

村に暮らす中で常に求められるのは「生み出す力」

過疎地域で子どもを育てるにあたって、ネックになることの一つが習い事の少なさです。習字、空手、剣道は村内に習う場所がありますが、それ以外の教室はなく、車で片道1時間くらいかけて飯田市や恵那市、豊田市まで通っている子が多数います。

杉山さん「学童の時間がちょっとした習い事の代替になればと考えています。例えばギターなどの楽器や、茶道など日本の文化、教える資格までは持っていなくても得意だという人は村にもいるので、そういう人たちを発掘し、場をつくるのがテーマです。」

「楽器を教えてもらえる状態の芽」はあり、放課後子ども教室を通じて「ギターの弾き方を知っている子どもがいる未来」はつくれる、と杉山さん

活動自体はきっと、学校教育でいうところの総合学習や探究学習に近いもの。ただし、放課後こども教室が行う習い事は、先生を村内で見つけてくることを目指しているので、期間や時間によって先生が変わる心配がありません。そのため、しっかりじっくり時間をかけて地域の人や子どもたちに向き合えるのがポイントです。

杉山さん「子どもたちの通う根羽学園自体が、外の人との関わりを恐れていないのも良いところだと思います。また、地域内の唯一の学校なので、教育委員会などとも一緒になって、ここに通う子どもたちのためになることを追求できるのもポイントです。」

水野さん「特に長期休みのイベントに関しては、僕らのやりたい内容を取り入れつつ、かなり柔軟につくらせていただいています。枠にとらわれず、子どもたちのためにより良い学びの環境づくりを目指して全力で取り組めるのが、この仕事のやりがいだと思います。」

学童保育のディレクターは関係性を見える化する企画職

今回の雇用では、地域おこし協力隊の枠を使う想定がされています。年齢的な制限はありませんが、子どもたち相手の体力勝負に対応できるのが必須。暮らしていく上で、運転免許も欠かせません。

杉山さん「協力隊というスキームは、生活のベーシックインカムみたいなものと捉えてもらえたらいいかもしれません。その上で、僕らと一緒に挑戦してほしいと思います。例えば、海外でバリバリ働いてきた人や脱サラした人、誰かの何かに打ち込んできた経験は、子どもたちにとって良い刺激になる気がしています。」

教員免許など教育に関する資格は必須ではなく、「良い意味で諦めの悪い人がいい」と、杉山さん。求めているのは、自分の生き方に挑戦したい大人です。

また、根羽村に移住する人の特性としては、コミュニティを楽しむ気持ちを持つ人が多いそう。自分の都合や夢だけを優先するのではなく、周囲の支援をしたり、困り事を一緒に解決したりしながら、自己実現に取り組んでいくのが理想です。

杉山さん「放課後子ども教室、村の暮らし、そして自身の仕事。いずれにせよ形をつくるコツは、やっぱりコミュニケーションだと思います。根羽村って昔は本当に陸の孤島だったので、人と人が支え合って生きる文化が根付いていて、それを享受しながらいることが、ここで生きる醍醐味なのだと思います。」

既存のサービスに依存せず、お互いがほどよく連携しあいながら、心地よい状態をつくっていく。例えばそれは、昔からある「お互い様」の意識であったり、お裾分けの文化だったりします。

地域のお祭りの準備には各地域から人が集まる
保育園周辺の草刈りの日には、大勢の村民ボランティアが、年齢問わず手伝いを行っている

杉山さん「僕らの関係性は、1000円を払えば必ず手に入る、みたいなものではないんです。すごくニュアンス的な部分が多いし、子どもたちもそうした目に見えないセーフティーネットのようなものに満たされて大きくなっていく。アレンジしたりカスタマイズしたり、何かを生み出す機会や余白がたくさんあるので、大人も子どもも、消費者だけではいられない場所だなと思います。」

取材の終わり、「お試し滞在や体験も随時受け付けているので、まずは気軽に問い合わせをもらえたら」と、明るい笑顔で送り出してくれた杉山さん。山間の小さな村で、子どもたちのために頭を使い身体を動かしながら、村の輪郭づくりに携われる人を待っています。

文 間藤 まりの

※ 撮影のため、取材時はマスクを外していただきました。

募集要項

[ 会社名/屋号 ]

長野県根羽村役場/一般社団法人ねばのもり

[ 募集職種 ]

放課後子ども教室ディレクター

[ 取り組んでほしい業務 ]

・活動内容
「子供に関わる放課後子ども教室のディレクター × 地域資源を活かした事業の複業」
-平日における放課後の小学生を対象とした放課後子ども教室の企画運営
-春休み/夏休みにおける地域資源を活かした体験コンテンツの企画運営
-放課後子ども教室活動時間以外における、地域資源を活用した事業の開発/実施

[ 雇用形態 ]

■形態 根羽村地域おこし協力隊(会計年度任用職員(パートタイム))として根羽村が任用します。

■期間 任用開始日から1年間。(ただし、1年単位で最長3年まで延長することができます)

■その他 任用期間終了後の定住に向けた支援を行います。

[ 給与 ]

1年目は280万円/年
2・3年目は330万円/年

[ 勤務地 ]

長野県下伊那郡根羽村内

[ 勤務時間 ]

8:00~18:15 のうちの7時間
※活動によっては時間外に勤務を要する日があります。(代替休暇対応可)

[ 休日休暇 ]

週休2日制(土・日)
国民の祝日及び年末年始

[ 昇給・賞与・待遇・福利厚生 ]

※社会保険、雇用保険、厚生年金に加入します(本人負担分は給与から差し引かれます)
※お住まいに関しては、家賃2-3万円の村営住宅や単身向けシェアハウスの紹介可能 (家賃・光熱水費等は個人負担です)
※活動に要する経費は予算の範囲内において負担します
※活動に必要なPC・タブレット・車は活動費内にて支給いたします
※副業可能

[ 応募要件・求める人材像 ]

1.運転免許を持っている方
2.協力隊の応募要項を満たしている方

「自ら挑戦しながら、関わりと行動を通じて良い影響を他者にもたらせる人」
※上記でなくても事業に「私はぴったり!」と思われた方であれば、ぜひご応募ください。

[ 選考プロセス ]

応募フォームより応募

書類選考

面接2回(①オンライン ②現地)

内定

※選考期間は約2週間程度を想定しています
※取得した個人情報は採用目的以外には使用しません。
※不採用理由についての問い合わせにはお答えできかねます。

[ その他 ]
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根羽村役場
根羽村SDGsの取り組み
根羽村の日々(youtube)

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