見て終わり、食べて終わりではなく、出会いをつないで忘れられない時間と体験をつくる。
豊丘村観光協会が運営する「とよおか旅時間」が、2023年の春から始めた新事業であるサイクリングガイドツアー。従来の味覚狩り体験をサイクリング事業と掛け合わせることで、観光客がツアーガイドと共に自分の足で農家さんの畑を訪れ、収穫した農産物を地元のカフェやレストランで調理してもらい味わえるプランにブラッシュアップされました。
今回の求人は、豊丘村の地域おこし協力隊として「とよおか旅時間」と共に働く「サイクリングツアーガイド」、「味覚狩り事業の企画・広報」の募集です。観光×農業で地域課題の解決を目指す「とよおか旅時間」と一緒に、村の魅力にどっぷりハマり、豊丘の魅力を発信する仲間を探しています。
お話を伺ったのは、豊丘村出身で、「とよおか旅時間」の統括マネージャーである長谷川雅(はせがわまさし)さんと、現役の地域おこし協力隊でありサイクリングガイド事業を担う矢野智志(やのさとし)さん。そして、提携農家の一人である壬生善廣(みぶよしひろ)さんと、地域おこし協力隊の先輩であり、村内で「カフェ&ダイニング en」を営む黒田美佳(くろだみか)さんです。
「村民のため」になることを第一に事業を立て直す
長野県の南部、飯田市の北東に位置する豊丘村は、天竜川が形成した河岸団丘の中心にあります。村の観光資源は、村一帯に広がる美しい田園風景と、豊かな自然が育んだ農産物です。そのため、豊丘村では、滝や川、見晴らしのいい公園、花の街道や紅葉などの景勝地や、春はたけのこ、夏は桃、秋はりんご、冬は源助かぶ菜など、四季折々で旬の味を楽しめる味覚狩り体験などを売りにしていました。しかし、せっかく観光客が村を訪れても、滞在時間が短い、村の人と出会える仕組みが整えられていないなど、「豊丘村ならでは」の経験は提供できず、リピーターにつながりにくいという課題がありました。
「とよおか旅時間」は、そうした観光面での課題を解決するねらいで、豊丘村の新たな観光の拠点として2021年5月にオープンしました。運営しているのは、豊丘村観光協会です。近隣エリアの観光案内をはじめ、レンタサイクル、各種味覚狩り体験、アウトドアアクティビティ、サイクリングガイド付きツアーなどを提供しています。
豊丘村観光協会がオープンと同時に始めたレンタサイクル事業を、豊丘村の基幹産業である農業と掛け合わせたサイクリングガイドツアーにしようと発案したのが、統括マネージャーである長谷川雅さんです。
長谷川さん「サイクルツーリズムは、全国的にどの地域でも流行りましたよね。豊丘村も、その流れに乗じる形で自転車を一式揃えたんです。僕はそのあとにこの部署に異動してきたのですが、正直なところ、自転車に乗っている人がいないような村にいきなり自転車を持ってきて、『さぁ、みなさん乗ってください!』なんて、『これは一体誰のための事業なんだ?』と思ったんですよ。」
「ここに着くまでに、自転車に乗った人を見ましたか?」と長谷川さんに聞かれて気がついたのは、豊丘村では村民のほとんどが車移動をしていることです。長谷川さんは、自転車で移動する文化がそもそも根付いていない地域においては、ただやみくもに流行りに乗るのではなく、第一に「村の住民のため」の観光の形を目指すべきではないかと考えました。
長谷川さん「僕は、豊丘村が観光事業をやる以上、基幹産業である農業と接点をもつべきだと思うんですよ。ただ外から来た人が、自転車に乗って景色を楽しんで帰るだけでは、住民のためにならないでしょう。しかし、観光協会は既に自転車を揃えている。じゃあどうするかと考えた時に、既存の味覚狩りなどの農業体験の事業を、サイクリング事業に掛け合わせようと。ただ食べて帰るより、外から来る人が実際に農業の現場を見て、農家さんと顔の見えるコミュニケーションを取る機会をつくろうと考えました。」
人との出会いが「また来たい」と思ってもらう鍵になる。地元農家と連携を開始
そこで採用されたのが、競技としての自転車を離れ、アウトドアショップでの接客販売・自転車整備の経験を積んでいた矢野智志(やのさとし)さんです。
矢野さん「競技・職業としての自転車は、正直に言うとつらくなって離れた部分があるんです。でも、趣味として自転車に乗るのは心地よくて好きでした。自転車の整備や接客の仕事をする中で、乗る人のサポートをしたり、話をする方が自分には向いているなと感じていたので、自分の持っているスキルを生かして働けたらと思い、応募しました。」
こうして、地域おこし協力隊として豊丘村にやってきた矢野さんは、レンタサイクルの事業や観光案内の仕事に従事しつつ、自分の足で村の中を周り、景色のいいスポットや眺めのいい道を探してサイクリングコースを考えました。その後、長谷川さんと協力し、農家さんのもとを一人ひとり訪ねて周り、協力者を募っていきました。その中で出会った提携農家のひとりが、豊丘村で市田柿をつくる壬生善廣(みぶよしひろ)さんです。
柿の収穫時期になると、外から人を呼び、収穫・干し柿の仕込みの作業をするという壬生さんは、手伝ってくれた人へのお礼に自分の畑で育てた野菜をお裾分けをしているそう。この日は柿のシーズンではなかったため、ご自身の畑を案内していただきました。
壬生さん「村に来た人が、ただ野菜を買って帰るだけじゃなくて、畑に来ていただいた上で野菜を食べてもらえるのは嬉しいですよ。僕たち農家がどれだけ汗水垂らして働いているかを知ってほしいし、何より目の前で『おいしい』って野菜を食べてもらえると、僕も逆に元気をいただけるんです。」
壬生さんの畑には、ナス、トマト、ピーマン、パプリカなどの野菜から、メロンや柿などさまざまな野菜と果物が育っています。品目はなんと30種類以上。なかには、サイクリングガイドツアーで畑を訪れたお客さんの反応に影響されて、新しく育て始めた野菜もあるそうです。
壬生さん 「来てくれた人の反応を見るのがうれしくてねぇ。『彩りのいい野菜が人気なんだな』って、同じパプリカでも違う色の苗を増やしてみたり、『こういう野菜があればみんな喜ぶかな?』って新しい野菜を育てたりするようになったんだよ。みんながうちの畑の野菜を食べて喜んでくれるのを見ると、よーし、また頑張ろうかなぁと思える。」
参加者に合わせて、オーダーメイドのツアープランを考える
「とよおか旅時間」のサイクリングガイドツアーの提携農家さんは、現在15軒以上。本格的にツアーをスタートする前に実施したモニターツアーには、長谷川さんも全て同行し、農家さんや村の人たちに一から事業の説明を行いました。こうして地道に信頼関係を得てきたからこそ、村の観光事業としてサイクリングツアーが軌道に乗り始めているのです。
さらに、「とよおか旅時間」のサイクリングガイドツアーには、決まったコースはありません。ガイドを務める矢野さんは、参加者の体力や自転車のレベルや当日の体調を見ながらコースを考え、参加者と相性の良さそうな農家さんを選んで、その都度オーダーメイドのコースを組んでいきます。
矢野さん「ガイドに必要なのは、自転車の知識や経験よりも、いかに相手をよく見て話をきけるかどうかです。休む回数や時間配分、回る場所など、ベストな環境を常に考えながらガイドをしていきます。事前にいただく情報や、当日のヒアリングを通して、臨機応変に対応していくことが必要です。そうして気配りをしていけば、道中の景色が良かった、走っている途中に嗅いだ花の香りが好きだった、風が気持ちよかったなど、五感で豊丘村を感じてもらうことができます。そこに、農家さんとの交流や、実際に収穫したものを食べるという体験が加われば、さらに忘れられない思い出になりますよね。」
長谷川さんは、体験と出会いの力は魔法のような効果を生むと語ります。味覚狩り体験事業のタケノコ狩りでは、下処理に時間がかかるため、お土産に持たせる予定だったタケノコを、参加者の人たちがその場で食べたいと言い出したそう。長谷川さんと矢野さんは、「とよおか旅時間」の軒先で、炭火で焼いたタケノコを振る舞いました。
長谷川さん「正直、えぐみがすごいわけですよ。でも、園主さんにこれは美味しいよって選んでもらって、さらに自分で苦労して狩り採ってきたタケノコですから、みんな『今まで食べたタケノコの中で一番おいしい!』って大興奮でね、またリピーターになってくれた。体験と出会いの力で、えぐみすらおいしくなっちゃうんだから、もう魔法ですよ。」
「とよおか旅時間」がつくるサイクリングガイドツアーは、どれも一期一会の出会いがあり、そのときにしか生まれないドラマがあります。そこには、現役のガイドである矢野さんが、ただ業務を行うだけでなく、日々村の良さを探し、村の人との関係を深めてきた背景があります。
矢野さん同様に、地域おこし協力隊として豊丘村に移住し、任期終了後は飲食店「カフェ&ダイニングen」をオープンしたという黒田美佳さんも、村で得たつながりを大切にするうちに、村での自分の仕事や役割を見つけたという一人です。
「おてこ」として働いて得たつながりが、自分の財産になっていた
黒田美佳さんは、地域おこし協力隊の任期終了後、村内に「カフェ&ダイニングen」をオープンし、豊丘村の農産物を使ったメニューを提供しています。
黒田さん「私が豊丘村にやってきた頃は、まだ地域おこし協力隊の制度が始まったばかりの頃でした。村の外に農産物の販売に行くとか、味覚狩りのアテンド、バスツアーのガイド、イベントのスタッフなど、村の外の人向けのPRを中心に頼まれた仕事はなんでもやりました。今思えば、自分で考えて動くというよりは“おてこ”をしていた感じです。」
“おてこ”というのは豊丘村の方言で、「裏方でお手伝いをする」という意味の言葉です。目の前にやってくる仕事をひたすらこなし続ける中で、「このままでいいのかな?」と一度は村を離れることを考えた黒田さんですが、友人から「起業してみたら?」と言われたことで改めて豊丘村と向き合います。
黒田さん「当時は、いわゆる役場の業務をしているだけだったから、仕事内容については何とも言えぬもどかしさを感じていて。でも、豊丘村での暮らしはめちゃくちゃ好きだったんです。気候や土地が肌に合っている感覚があった。それから、協力隊の仕事でたくさん村の人たちの“おてこ”をしていた分、村でのつながりだけはあって、それが私にとってはすごい財産でした。だから、村に残って自分の好きなことを仕事にすることに決めました。」
初めての起業で手探りながらも、村からの支援を受けつつ、黒田さんは「カフェ&ダイニングen」をオープン。「黒田さんが、協力隊の任期終了後も豊丘村に残るらしい」と評判を呼び、たくさんの村の人が駆けつけました。
黒田さん 「集客が大変だと思ったことは一度もありませんでした。もともと豊丘村にはランチからディナーまで通しでやっているお店がなかったというのもありますが、観光客の方はもちろん、協力隊時代につながった村の人がお店に通ってくれたのが一番大きいです。村で採れたおいしい農産物を、お客さんにおいしく食べていただきたい。その思いは開業したときからずっとぶれていません。」
大切なのは、経験やスキルよりも、村の良さを見つけられる素直さ
豊丘村ならではの体験ができる農業との組み合わせが好評のサイクリングガイドツアー。最近は、月に平均4~5組以上の予約が入っており、矢野さんだけでは回らなくなってきたといいます。そこで、今回新たに事業を盛り上げる仲間として募るのが、「サイクリングツアーガイド」と、農家さんとの提携を増やし、新しいコンテンツをつくる「味覚狩り事業の企画・広報」スタッフです。
改めて、今回の求人にかける思いを長谷川さんと矢野さんに聞きました。
矢野さん 「ここで仕事をする上で必要なのは、豊丘が好きかどうか。それに尽きるのではないでしょうか。活動の中身よりも、豊丘の土地自体や、村の人を好きになることがすごく大事だと思います。新しい協力隊の方にも、まずはこの村を好きになってもらいたいですね。僕自身、ここに来て三年目ですが、まだまだ知らないことがたくさんあって、もっと深く知りたいなと思います。たとえば、山の方にはまだ行けていないんです。もっと掘っていけば、ツアーとして観光化できる場所や農家さんがきっといる。そういう、『好きだからもっと知りたい』という気持ちがあれば、やりたいことが自然と出てくるし、自分自身も成長できるはずです。」
矢野さんは、自分の協力隊としての任期が終了した後も、「とよおか旅時間」に残り、サイクリング事業のマネージャーとして豊丘村に関わっていく予定です。地域おこし協力隊に応募する上で気になるのが、三年の任期が終了したあとの道筋。現統括マネージャーである長谷川さんは、現在、豊丘村観光協会の組織の基盤づくりに尽力しており、地域おこし協力隊員には、任期終了後には観光協会の一員として豊丘村の観光事業に関わっていってほしいと考えています。
長谷川さん 「豊丘村を訪れた人に、『楽しい・おいしい』から農業の価値を体感してもらって、知らず知らずのうちに豊丘村の魅力を持ち帰ってもらえるのが理想です。観光地ではない村で、農業と絡めた観光事業をやっていくことに面白みを感じる人に来てほしいですね。今回の募集は、『やることを自分で考えてください!』というお任せの求人ではありません。事業の形はすでにできていて、任せたいことも決まっているし、それをサポートする体制もある。その分、隊員の方に期待する気持ちも大きいし、任せる業務は生半可な気持ちでできるものではありません。なんとなく田舎でのんびりしたいという人には向いていないかもしれません。」
厳しい姿勢を見せる一方で、協力隊員のやる気があれば、自転車整備や認定ツアーガイド、旅行業務取扱管理者など、活動のために必要な資格の取得の補助は全て行う予定だという長谷川さん。豊丘村の熱い思いに応える姿勢のある人には、とことん向き合います。3年間の任期の間に、これからの豊丘村を担う人を責任を持って育てていきたいと考えています。
長谷川さん「今回の募集で、豊丘村のことを知る人がほとんどだと思います。着任早々、『よし!この村の良さを外に伝えてくれ』なんて言いません。最初の数年間は、まずは素直に村に入り込んでほしい。その中で、この村の農業のあり方や、農業に関わる人の魅力を感じてほしいです。そして、その人なりに豊丘村の価値を見出してもらってから、『豊丘村に行ってみたい』と外の人が感じるようなコンテンツを一緒につくっていけたら。」
観光地でない村が、観光を切り口に地域の基幹産業である農業の魅力発信を目指す。そのために必要なのは、スキルや経験だけではありません。みんなが通り過ぎてしまうような道に入り込み、まだ知られていない景色を見つけることにわくわくするか。休日に仕事で知り合った農家さんの畑を手伝うことや、外を歩けば「〇〇さん!」と声をかけられるような、密な関係性の中で暮らすことをうれしいことだと思えるか。一つの野菜が、自分の口に入るまで、どれだけの時間と苦労がかけられているかに思いを馳せることができるか。そんな感性や、探究心のある人が求められています。
「ない」ところから、「ある」を見つけていくことを、少しでも「面白そうだな」と感じた人は、二人のように豊丘村と出会えるチャンスかもしれません。まずは、豊丘村の魅力にどっぷり浸かってみませんか。
文:風音
募集説明会のアーカイブ(音声データ)はこちら↓
お二人の地域に対する想いや今回の募集に求める詳細の人材像についてお話しています。また、記事よりもさらに詳しくかつ背景などについてお伝えしていますので、応募を検討されている方は、ぜひ一度ご覧ください。音声データはこちら
募集要項
[ 会社名/屋号 ]
下伊那郡豊丘村
[ 募集職種 ]
ツアーガイド・農業体験企画運営(地域おこし協力隊)
[ 取り組んでほしい業務 ]
①ツアーガイド
サイクリングを活用して地元の生産者の方や飲食事業者の方々と連携した豊丘村独自の農業体験観光の案内人として活躍いただきます。外の目線を持ちながら豊丘村の自然・農業・人の魅力を引き出していただく役割です。まずは自分自身が豊丘村のことを深く知りながら、その仲介役として活躍を期待しています。
②農業体験企画
これまでの味覚狩りを昇華させて、「この体験のために豊丘村に行きたい」と思わせるような独自の企画を生み出す役割です。ツアーガイドとも連携しながら、どんな方にどんなプランを届けるかをいろいろな企画に落とし込んでください。舞台は豊丘村全域です。地域の課題解決や魅力を引き出す独創性のあるアイディアと行動力を持って、ツアー企画を実施していただきます。
[ 雇用形態 ]
地域おこし協力隊 (会計年度任用職員)
[ 給与 ]
・報酬 240万/年
・活動費 200万円/年
・その他条件50,000円/月
※日本サイクリングインストラクターや旅行業、ガイドなどの資格取得可
※家賃補助あり(上限額あり)
※車両補助あり
[ 勤務地 ]
とよおか旅時間
〒399-3202 ⻑野県下伊那郡豊丘村神稲(くましろ)12407
[ 活動時間 ]
活動時間:8:30~17:15(早番)、9:30~18:15(遅番)
[ 活動日数 ]
シフト制(基本平日休み)
[ 応募要件・求める人材像 ]
<必要条件>
社会人経験・コミュニケーション力 旅行やアウトドアが好きな方
※英語力があると尚可ですが必須ではありません
※サイクリングや自転車に関する知見は必須ではありません
<求める人物像> 豊丘村のことを知ろうとする意欲と行動力のある方 本企画を十分に理解し、思いに共感できる方 自主的に計画や戦略を立てながら取り組んでいただける方 新しいアウトドアアクティビティを探求できる向上心・探求心のある方
[ 選考プロセス ]
本ページより応募
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説明会参加(10月27日(金)19:30~)
※任意&アーカイブあり
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書類選考
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現地で業務体験&交流会(おためし協力隊)
おためし協力隊最終日に面談を実施予定
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内定(令和6年4月より業務開始予定)
※取得した個人情報は採用目的以外には使用しません。
※不採用理由についての問い合わせにはお答えできかねます。
[ その他 ]
よろしければこちらもご覧ください。
とよおか旅時間
※この求人募集は終了いたしました。ご応募をありがとうございました。
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