「じっと見る、じっと聞く。そうやって、みんながそれぞれのいいところを見つけて、活かしていけるまちになったら」

そうつぶやくのは、長野県信濃町のNPO法人「みんなの家」代表であり、まちの福祉事業に長年携わってきた瀧川昌宏(たきがわまさひろ)さん。

北陸新幹線が停車するJR長野駅からさらに電車で約1時間ほどの長野県信濃町。人口約7,700人のこのまちは古くからリゾート地として知られており、スキー場や別荘などが多くあります。しかし、信濃町では福祉領域の担い手が不足しているという課題もあるといいます。

今回の募集は、地域おこし協力隊。福祉分野の担い手不足の課題解決に取り組む信濃町役場の住民福祉課福祉係、そして町内の障がい福祉施設「ひだまりセンター」の職員の方々と一緒に、障がいの有無に関わらず、どんな人でも気軽に関われる交流拠点をつくるプロジェクトです。

訪れたのは、協力隊活動の拠点となる「いきいき倶楽部」。信濃町役場住民福祉課福祉係の外谷真一(とやしんいち)さん、NPO法人「みんなの家」代表・瀧川昌宏(たきがわまさひろ)さん、「ひだまりセンター」施設長・佐藤久美子(さとうくみこ)さん、そして、地域おこし協力隊である吉村妙子(よしむらたえこ)さんにお話を聞きました。

障がいのあるなしに関わらず、まちの人たちが交流できる場所をつくる

左から、吉村さん、外谷さん、瀧川さん、佐藤さん。「いきいき倶楽部」の交流室でお話を聞いた

信濃町役場福祉係の外谷さんは、信濃町の「福祉人口の不足」という課題解決に向け、協力隊と一緒に何ができるのか、現役の協力隊員である吉村さんと共に、福祉の現場でヒアリングを重ねてきました。そこで聞こえてきたのは、「障がいのあるなしに関わらず、誰もが交流できる場所がほしい」という声でした。

現在、信濃町には障がいのある方向けの通所型の福祉事業所が二つあります。そのうちの一つが、瀧川さんが代表を務めるNPO法人「みんなの家」が運営する「ひだまりセンター」です。

福祉事業所とは、心身障がいのため、一般の会社に努めることが難しい人が、作業や施設での活動を通して社会生活能力を高めるための施設です。「ひだまりセンター」では、食品やお土産品の袋詰めや、廃油使用の手作り石鹸や木工などの自主製品制作などの作業のほか、生活指導や調理実習など、利用者の方々が就労や地域生活がしやすくなるようにさまざまな活動を行っています。

「ひだまりセンター」で作業をする利用者の方々

瀧川さん「信濃町には福祉の事業所が二つしかないため、利用者の方の中には町外に出てしまう方もいます。そうなると、信濃町で暮らしているのに地域の情報が入りづらくなり、孤立してしまう。とはいえ、新たに事業所を増やすことは信濃町の人口規模では現実的な解決策ではありません。外に出ていくのはしょうがないけれど、まちの中にも居場所があればいいなと。」

外谷さん「福祉係では、障がい福祉サービスや介護サービスを使用している人の数は把握できていますが、福祉のサービスを利用しない限り、どんな潜在的なニーズがあるのか一切わからないんです。」

まちの人が気軽に交流できる場を設ければ、ゆくゆくは『うちの子、もしかしたら障がいがあるかもしれない』、『家庭内で介護することに限界がきた』といった声がもっと早い段階から拾えるかもしれません。

とはいえ、いきなり「まちの人と関わりましょう」、「悩みを相談してください」と呼びかけたところで、「自分たちは大丈夫」、「家族でなんとかできる」と思っている人には届きません。そこで白羽の矢がたったのが「ひだまりセンター」の隣にある「いきいき倶楽部」でした。外谷さんたちは、現在活用されていない施設にイノベーションを起こし、まずはみんなが気軽に立ち寄れる場所をつくろうと考えたのです。

クリエイティブなアイデアで福祉の領域を超えたつながりを創発する

「いきいき倶楽部」の外観。最寄駅の黒姫駅からは車で10分、町内からはバスでもアクセスできる
館内は、講座室、2つの交流室、相談室に加えて、厨房、トイレを完備している

瀧川さん「『いきいき倶楽部』では、以前は『ひだまりセンター』利用者の方とお弁当の仕出し作業を行ったり、喫茶店営業をしたりしていました。しかし現在は、集団での作業が難しい方の個人作業の場や、利用者の方の体操スペース、スタッフの会議室として利用されているのみで、外に開いていない状態です。」

吉村さん「ヒアリングをしたとき、瀧川さんが『障がい福祉や介護福祉の領域に関わらず、信濃町で暮らす人たちがそれぞれの個性を活かせるまちになったらいいのに』というお話をしてくださったんです。ですから、協力隊の方にも個性を活かして活動してもらえたらなと思っています。アート、お料理、スポーツ、イベント企画など、施設の使い方は自由です。」

今回の募集の企画段階から関わっている吉村さんは、協力隊卒業後も信濃町に残り、着任後の隊員とまちの人を繋げるメンターとしてサポートを行う

外谷さん「今回の募集に関しては、福祉の知識や経験は全く必要としていません。それよりも、私たちにないクリエイティブなスキルやアイデアをお持ちで、人と関わることが好きな方に来ていただいて、この場所が人の集まる拠点になるよう活動していただければと考えています。」

「自分の個性を生かして施設を再活用してほしい」という今回の募集は、自由度が高く、また関わる人も多い仕事になります。まちに入り込んで活動をしていく上で、どんな人が隊員に向いているのでしょうか。

外谷さん「人との付き合いは、やっぱり人柄によるものだと思うので、『この人だったら何でも話せるな、相談しやすいな』と思える方が一番良いのかな。目の前の人を放っておかない、世話焼きな人もいいと思いますね。」

瀧川さん「世話焼きはいいけれど、勝手にあれこれするお節介はだめだね。まず、相手をじっと見守って、『この人はこういうことが得意なんじゃないかな』と感じ取る。じっと相手の話を聞いて、『この人はこういう人だったのか』と、理解しようとできる人。人はそれぞれ違うと認めた上で、人のいいところに気づける人がいいですね。」

自然の脅威は恵みでもある。深い雪すら受け入れて楽しめたら

プロジェクトの全貌がわかってきたところで、気になるのが信濃町での生活。移住者の先輩である瀧川さんと吉村さんに、信濃町での暮らしについても伺いました。

30年ほど前に、会社員を辞めて愛知県から移住してきたという瀧川さん。

瀧川さん 「サラリーマンとして忙しく働いて、土日に稼いだ金を使って発散する消費生活から脱却したくなって信濃町にきたんです。雪が降るとは聞いてたけれど、雪だ雪だと喜んでいられたのはほんの数日で(笑)。自然には太刀打ちできないんだなと感じたのを覚えていますね。でも、台風で被害を受けた長野のりんご農家さんが、肩を落とさずに淡々と農作業を続ける様子を見ると、自分も、信濃町の自然は脅威でありながら、恵みでもあるんだなと思います。」

兵庫県出身で、協力隊になる前は大阪や東京などの都市部で働いていた吉村さん。信濃町では、冬場は早起きして雪かきをしてから役場に出社する

吉村さん「私はこれまで国内外いろんなところに住んできた経験がありますが、こんなに風景の移り変わりが美しく、毎日飽きることなく感動できるところに住んだのは初めてでした。移住者の仲間も、自然環境に惹かれてきた人や、ウィンタースポーツが好きだという人が多いですね。正直、雪深さに慣れるまでは大変でしたが、その分楽しさもあります。雪とうまく付き合っていくのが移住を成功させる鍵ですね(笑)。」

さらに、吉村さんには協力隊としてどのようにまちの人たちと関係性をつくっていったらいいか、アドバイスもいただきました。

吉村さん「信濃町の地域おこし協力隊は信濃町役場にもデスクがあるので、最初にできた一番身近なコミュニティは役場の職員さんたちでした。自分の所属している課の飲み会に誘ってもらったり、『同年代の移住者の知り合いがいるよ』と紹介してもらったりするうちに、少しずつ顔見知りが増えていきました。」

まずはまちを知り、関係性の輪を広げていくことから

協力隊の任期は三年。最初の一年はじっくりと時間をかけて、信濃町の福祉の現場と、町全体について理解していくことになります。

外谷さん「隊員の方には、しばらくは瀧川さんについていってもらって、信濃町の福祉の現場を知っていただきます。ですが、『ひだまりセンター』の“お手伝いさん”になってほしいわけではありません。信濃町としては、福祉に関わらず、農業やまちづくりの現場ともおつなぎして、信濃町全体で関係性の輪を広げていただきたいと考えています。」

福祉の現場だけでなく、信濃町全体にどんな課題があって、何が必要なのか。そしてその反対に、どんないいところがあって、どんなことができる人がいるのか。まずは、信濃町という土地で、自分には何ができそうかを探ります。

外谷さん「一年かけてまちを知っていくうちに、どんな人たちをターゲットにするのか、どんなふうに進めていくのか、そうしたイメージが浮かんでくると思います。2年目になったら、『いきいき倶楽部』を利用して、人が集まるイベントの企画を進めていただきたいです。これまでやったことのない取り組みなので、何をやっても全て成功ですから、なんでもチャレンジしていただきたいですね。役場側も全面的にバックアップします。」

ヒアリングのため「ひだまりセンター」に通ってきた外谷さん。表情から滝川さんとの信頼関係が伺える

三年目は、二年目に実施した企画を継続しつつ、新しい企画も打ち出していきます。「いきいき倶楽部」を第一の拠点としながら、町内の空き家を活用してさらに拠点を増やすなど、活動の幅をさらに広げることもできます。

外谷さん「協力隊の任期終了後も、せっかく立ち上げたものを途絶えさせないようにしていきたいですね。もしそのまま信濃町で福祉関係の道に進みたいと考える場合は、資格取得のための補助も行います。協力隊卒業後は、後続の協力隊にプロジェクトを引き継ぐのか、別の組織として起業していただき、業務委託をする形になるのか、どんな形であれまちとしてできる限りサポートします。」

お互いの良さや得意なことを活かして暮らしていけるまちに

瀧川さんは、初めて「ひだまりセンター」を訪れた際、利用者の方々に笑顔で挨拶されたことが今でも印象に残っているそう

まずは、障がいのあるなしに関わらず交流できる場をつくる。そこで行う様々な企画を通して、集まってきた人たちの声を拾い、町内の需要と供給を探る。そうして集まってきた情報を整理していけば、まちの中にある課題を、まちの中で解決する段階までつなげられるはずだと外谷さんたちは考えています。

外谷さん「例えば、身体が弱って雪かきがしんどいという高齢者の方と、力仕事が得意な方をつなげられたら、まちのつながりの中で課題を解決できる。地域の困り事をきっかけに関係性が広がれば、きっとこのまちはもっと面白くなっていくし、住みやすくなっていくんじゃないかな。」

真剣に大豆の選別をする「ひだまりセンター」利用者の方。それぞれの特性に合った作業を担当している

佐藤さん「『ひだまりセンター』は、利用者さんと職員の関係性が良いからこそ、利用者さんにとって居心地の良い場所になっているんですよね。ただ、それだけでは、良くも悪くもぬくぬくとしてしまって、作業所と家の往復で生活が完結してしまう。障がいがあって、社会とつながれていない人の良さを見つけて活躍の場を用意することで、社会との接点をつくっていけたら。」

瀧川さん「障がいのあるなしに関わらず、誰しも、苦手なところがあって、家族や同僚と助け合って生きているでしょう。『共生』という言葉がある通り、信濃町も、そうやってみんなの良さや得意な面を活かして暮らしていけるまちになればと思っています」

自分がどんな人で、何ができるのか。「自分らしさ」とは、他者と関わり、それぞれの違いを知ることで、やっと見えてくること。一人で孤立してしまっていてはわからないままです。

まずは、いろいろな人が集まる場所をつくる。そして、集まってきた人たちをじっと見て、じっと話を聞き、良さや得意を見つけていく。その人にしかないものを、まちの人とつなげていくことができれば、一人ひとりの個性が活きるまちをつくれるかもしれません。小さなまちだからこそ実現できるまちづくりを、一緒に始めてみませんか。

文 風音

募集要項

[ 会社名/屋号 ]

長野県信濃町役場

[ 募集職種 ]

地域共生コーディネーター

[ 取り組んでほしい業務 ]

・交流の場・機会づくり
福祉施設内のスペースを自由に使って、障がいのあるないに関わらず、地域のいろんな方が交流できる場を企画し、一緒に実行しましょう。

・障がいのある方が働くためのサポート
企業や地域の人々と連携しながら、地域の中で、障がいのある方がそれぞれの長所や能力を活かして、働ける場所 (出番と役割)を増やすための企画・サポートをお願いします。

[ 雇用形態 ]

地域おこし協力隊 (会計年度任用職員)

[ 給与 ]

月額 208,000 円 +期末手当

[ 勤務地 ]

長野県上水内郡信濃町大字柏原 428−2 信濃町役場
長野県上水内郡信濃町大字平岡225-1 ひだまりセンター

[ 活動時間 ]

午前8時30分から午後5時15分まで
(昼休みは正午から午後1時)

[ 休日休暇 ]

勤務日数は1ヶ月17日のため、勤務日以外が休日です。
土日祝日(イベント等で出勤が発生した場合は平日振替)、年末年始、年次休暇、特別休暇

[ 昇給・賞与・待遇・福利厚生 ]

期末手当 年2回(6月、12月
社会保険
雇用保険
厚生年金
家賃補助
活動用車両支給

[ 応募要件・求める人材像 ]

・自分のスキルを活かしながら、交流の場づくりに挑戦したい方
・人と関わることが好きでチームプレーで仕事が進められる方
・発想力が豊かで行動力のある方
・福祉分野に興味がある方

[ 選考プロセス ]

(1)WEB から応募 町 HP 等からご応募ください。その際、氏名、住所、年齢、必要条件等、応募要件を満たしているか 確認をさせていただきます。応募要件を確認後、オンライン面談を行います。
(2)オンライン面談 業務についての疑問点や不安な点を解消し、またミスマッチングを防ぐため、応募者の皆さんにはオン ライン面談に参加していただきます。1 回の面談で不安な点がぬぐえない場合は複数回実施します。 オンライン面談後、募集要領に定めのある必要書類を信濃町役場へ提出していただきます。
(3)面接 オンラインもしくは現地面接を実施します。実施時期は、2月以降でオンライン面談を実施した方にのみご連絡します。
(4)最終選考の結果通知 面接をした応募者の中から採用者を決定します。

[ その他 ]
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