「とにかく人をいっぱい呼びたい!というよりは、熱量をもって関わってくれる人を大事にしたい。その方が、信濃町らしいかなと思うんです。」

長野県信濃町。新潟県との県境に位置し、長野市からは電車で約1時間ほどの信濃町は、夏場は野尻湖でSUPやカヌー、冬はウィンタースポーツなど豊かな自然を生かしたアクティビティができるリゾート地として人気です。

信濃町役場まちづくり企画係係長の小林さん(写真中央)、地域マーケティング担当係長の川口さん(写真左)、地域おこし協力隊の先輩隊員の吉村さん(写真右)が出迎えて下さった

今回の求人は、そんな信濃町の地域おこし協力隊です。「信濃町が好きな人」がもっと信濃町を好きになるようなファンクラブ「信濃町ファンクラブ」を立ち上げ、ファンとまちをつなげます。

訪れたのは、信濃町役場のまちづくり企画係。まちづくり企画係地域マーケティング担当係長の川口彰(かわぐちあきら)さんと、地域おこし協力隊の先輩である吉村妙子(よしむらたえこ)さん、信濃町の「道の駅しなの」の支配人である新井匠(あらいたくみ)さんに、ファンクラブ設立にかける思いを聞きました。

ファンクラブを通じて、「信濃町が好き」な人とまちの距離を縮める

まちづくり企画係は、まちづくりの計画策定、移住者の定住促進など、シティプロモーションを担う係です。2020年〜2029年にまたがる10カ年のまちづくり計画では、「みんなでつくるふるさとしなのまち」という将来像を掲げ、世代や立場を越えたまちづくりを目指しています。将来像の実現に向けた具体策の一つとして生まれたのが「信濃町ファンクラブ」をつくること。「信濃町が好き」という人と信濃町がつながる仕組みをつくることで、さらに信濃町への愛着を深めようという試みです。

「信濃町ファンクラブ」企画の発起人である川口さんは、信濃町出身。大学進学を機に上京し、卒業後はまた信濃町へ戻り、信濃町役場で働いてきました。さぞかし信濃町愛に溢れているのかと思いきや、かつては地元への愛着が今ほどはなかったといいます。そんな川口さんは、なぜ信濃町に戻ってきたのでしょうか。

町がどう変わってきたのかを知ることが面白いと語る川口さん。

川口さん「僕は第2次ベビーブームの世代なので、地元にたくさん同級生がいたんですね。ただ、それだけなんです。家族や友人は好きでしたが、信濃町のことが好きで好きでしょうがないという感覚はあまりなかったと思います。でも、役場で広報の仕事を担当するようになり、家族や友人以外の地元の人と接する機会が増えました。町の歴史や人を知るにつれて、だんだん地元への愛着が湧いていきました。」

信濃町は避暑地としての歴史が長く、合宿場やキャンプ場、別荘が多いという特徴があります。学校での体験学習や家族旅行、仲間うちでのキャンプなど、幼少期や、青春時代の楽しい思い出として信濃町を覚えている人が多いことは、まちの強みなのではないかと川口さんは考えています。

川口さん「仕事の都合で信濃町に住んでいた方、また合宿や旅行で信濃町を訪れた方など、信濃町に住んでいなくても、信濃町を好きな方、思い入れがある方がきっとたくさんいるはず。ファンクラブをつくることで、まちと関わりのある人とのつながりをさらに強め、『信濃町、良いまちだったなぁ』と思い出すだけでなく、またまちを訪れたくなるような愛着を醸成したいんです。」

地域おこし協力隊員は、役場内の「まちづくり企画係」にデスクを構え、役場の職員と一緒に活動していくことになる

また、信濃町出身者との接点としても、ファンクラブが機能することが期待されます。信濃町の小中学校では、郷土愛を醸成することを目指し、10年ほど前から地域の歴史や伝統を学ぶ地域学のカリキュラムが導入されています。しかし、学生時代にどんなに郷土愛を育んでも、進学や就職をきっかけに一度まちを離れた人たちは、家族や友人以外の町との接点が希薄になってしまうという課題がありました。

川口さん「せっかく『何か地元のためにできないか』と考えてくれている方がいても、それを形にするのが難しい。ただ、まちを離れたとしても、きれいさっぱり地元のことを忘れてしまうわけではありませんよね。ファンクラブをつくることで、まちとの関わり方の多様な選択肢を示すことができたら、学生時代とは違った見方で信濃町を捉えなおせると思うんです。」

まちのイベントや取り組み発信のプラットフォームに

「信濃町ファンクラブ」のプラットフォームとして、しばらくは公式LINEアカウントを活用していく予定です。まずはLINE上でのお友達登録という形で、間口を広くして会員を集め、そこから少人数向けの濃いコンテンツ開発につなげていく、というステップです。

イベントやツアーの企画など、コンテンツの内容は基本的には隊員の自由裁量で決められます。道の駅の駅長である新井さんは、まちの中にすでにあるイベントや取り組みのプラットフォームとしての役割を「信濃町ファンクラブ」に期待しています。

「道の駅しなの」では、信濃町産の新鮮な旬の食材を販売しており、観光客はもちろん地元客の人気スポット

新井さん「自分たちもSNSなどでイベント関連の情報発信をしていますが、どうしても届く範囲が限られてしまう。不特定多数に向けてやみくもに広告を打つよりも、『信濃町が好き、興味がある』という方向けにダイレクトに情報発信ができるようになるのは、地元の民間施設にとって大きなメリットになりますね。共同企画で一緒にイベントを行っても面白いと思います」

川口さんは、「信濃町ファンクラブ」主体で新しい企画を立ち上げなくとも、まずは町内の既存の取り組みをまとめて情報発信する仕組みをつくれば、十分に集客が見込めるのではないかと考えています。

川口さん「信濃町では、地質調査の教室や、古文書の解読、里山の自然観察会といった、知的好奇心を満たしてくれる小さなイベントがよく開催されているんです。その分野が好きな人からしたら滅多にない機会ですよね。でも、現状は町内のチラシでPRされているだけで、町外の人に届けきれていないんです。なのでそういったコアな情報を掘り起こして、外に発信できれば、熱量のある人が来てくれるのではないかと。」

信濃町の観光名所の一つである野尻湖。野尻湖周辺では「ナウマンゾウ博物館」があり、現在も発掘作業が続けられ、地質や古代の歴史について勉強会が開催されている

“信濃町らしい”企画とは? 自分で考えて、実行する。

ファンクラブ会員向けのツアー企画も、大人数向けに広く企画するよりも、刺さる人にしっかり刺さるようなニッチな企画の方が、「信濃町らしい」ことができるかもしれません。たとえば、信濃町の姉妹都市の一つである千葉県流山市との交流からはこんなアイデアが生まれました。

川口さん「流山市の方に、『信濃町の木を使って、焚き火に使うスウェーデントーチをつくってもらえませんか』と頼まれたんです。それならば、信濃町の森に流山の人たちを呼んでチェーンソー講座を開き、自分たちでつくったスウェーデントーチを持ち帰るツアーが組めたら面白いんじゃないかと。流山市で、チェーンソーの使い方を学びたいという人はほんの数人かもしれません。でも、それで十分なんです。」

信濃町の豊かな自然資源を生かせば、いくつもの企画が生まれていきそう

一人でも多くの人を信濃町に連れてくることを目指すよりも、熱量のある数人が信濃町に足を運ぶことを大事にする。そこから、「信濃町、いいまちだったよ」という声が広がっていけば、それはやがて大きな動きをまちに呼びこむはずです。

吉村さん「その様子をしっかり発信していけば、さらに『これ、信濃町でできる?』という外からの声が集まってくるはず。それが町でも企業でも個人でも、『一緒にやろうよ』とどんどん周りを巻き込んでいけば、きっと面白いことができます。大事なのは、数というより質なのかなと。」

川口さんと吉村さんの口からは、次々と「信濃町ファンクラブ」で取り組みたいアイデアが溢れてきます。今回の求人は、ファンクラブの立ち上げから取り組んでいくため、業務内容が幅広く、自由度が高い仕事です。

川口さん「こちらから一方的に指示を出すつもりはまったくないですし、『信濃町ファンクラブ』は一緒につくっていくものですから、互いにアイデアを出して壁打ちをしあえるような方に来ていただけるといいですね。さらに、アイデアをどんどん行動にうつしていける人。」

役場内でも隣同士で仕事をしている吉村さんと川口さん。二人の会話の様子から、普段からアイデアの壁打ちを行っている様子が見える

吉村さん「信濃町は小さなまちなので、いわゆる大手企業のように業務が分担されているわけではありません。これまでの職務経験の中で、自分で企画を出して、さらに自分で実行してきた経験がある方が合うのかなと。経験がなくても、自分で立てた企画を自分で動かしていくイメージが持てる人に来ていただきたいですね。」

こうした「信濃町ファンクラブ」の企画運営を担うだけでなく、ファンクラブに登録した会員や、信濃町の人たちとの密なコミュニケーションをとることが必要になります。

まずは自分自身がじっくりとまちを知ることから

まちの外からやってくる地域おこし協力隊ならば、ファンクラブの会員に近い視点で企画を考えられるため、今回のコミュニティーマネージャーの募集が決まりました。活動の一年目は、初期運営を開始しつつ、本格的に運営を始める前にまずは地域のことを知っていく時間を取ります。

ご自身も信濃町の地域おこし協力隊として移住促進のためのPR活動を行ってきたに従事してきた吉村さん。今回の協力隊の募集については、企画の時点からプロジェクトに参加している

吉村さん「とはいえ、外から来た何も知らない人が、いきなり地域の情報を発信したりコンテンツをつくったりするのは難しいですよね。最初は、自分がまちのことを知らないといけないし、何か聞かれたときに自信を持って答えられるようにならないといけない。今回のプロジェクトは、『信濃町のファン』という明確なターゲットがあるので、その人たちの心に響くような情報をまずは探っていってほしいです。まずは、協力隊のOBOGがまちとの関係づくりをサポートします」

信濃町のことを知っていくほか、協力隊員はまちづくり企画係のメンバーと共にまちづくりの先進事例のある自治体や姉妹都市への視察を行い、どんな企画を行っていくのかアイデアを整理していくことになります。

川口さん「まちづくりには地域性が出ますから、他のまちを真似すればうまくいくというわけではありません。でも、僕たちと一緒にいろんなまちの取り組みを見ることで、信濃町で何ができるか、マインドセットを揃えていきたいと思っています。まちの中のことを知りつつ、外のこともを見て、じっくり時間をかけて一緒に企画を育てていけたらと考えています。」

観光ミッションで着任し、卒隊後はアクティビティガイドになったOBも

その上で、協力隊となる方には、まず「信濃町ファンクラブ」を広く、多くの人に知ってもらうための情報発信が求められます。信濃町の隠れた名所や日常、信濃町で暮らす人々について発信し、すでに信濃町を知っている人だけでなく、潜在的なファン層にもアプローチしていきます。

表面的な良さだけではなく、深い本音まで掘り起こす

移住促進に取り組んでいるまちづくり企画係では、「信濃町ファンクラブ」の会員の中から1%でも将来的に移住につながったらという期待があります。そのため、ファンクラブ会員向けのコンテンツづくりでは、まちの「いいところ」を探すだけでなく、課題を見つけていくことも大切になってきます。

川口さん「移住はあくまで入り口で、目指すのは定住です。そのためには、地域の実情を発信することも大切だと僕は考えています。こんな思いを持って、こんなふうに生活してる人たちがいるんです、という生の声を届ける。まちが抱える課題と、解決のために何が必要かなども知っていただくことで、移住希望者や、信濃町で働いてみようと考えている方々の町への理解度が高まります。包み隠さずお伝えすることで、『思っていたのと違った』というミスマッチを避け、より良いマッチングができる。」

信濃町には介護や医療福祉に関わる“エッセンシャルワーカー”の人口が減っているという課題もある

今回の地域おこし協力隊の任期は三年間。任期終了後は、「信濃町ファンクラブ」設立による経済効果・移住者促進の結果が出た場合、退任後も信濃町役場から業務委託としてファンクラブ事業を引き継いで運営していくことも可能です。地域の事業者や住民と連携していく中で、自分自身が町の中でビジネスの芽となるまちの課題を見つけ、起業をすることもできるかもしれません。

「信濃町ファンクラブ」を通じて、まちへの愛着が育ってきたら、「こんな素敵な暮らしができますよ」、「楽しいイベントがありますよ」という明るい面だけでなく、信濃町のリアルな現状を発信し、「信濃町のためになにかしたい」というもっと深い部分に訴えかけていくことができるようになります。

協力隊員は、かつての川口さんのように、たくさんのまちの人と会い、まちを知ることによって、自分なりの「信濃町の良さ」を探っていくことになる

川口さん「SNS映えするような黒姫の綺麗な景色を発信することもできるのですが、それだけでは『きれいだな』と思われるだけで本質的にまちとつながることはできないと思うんですね。例えば、信濃町の豪雪地域で暮らすおばあちゃんは、側から見たらつらそうかもしれない。でも、きっとなにか自分の中に『信濃町っていいな』と、このまちを選ぶ理由があって、折り合いをつけながら生きている。景色のきれいさといった表面的にプラスに見えるものだけでなく、地域に住む人が考える良さも引き出して、発信したい。その結果、まちに住んでいる人も、自分のまちを誇りに思えるようになるのではないかと考えています。」

吉村さん「そのためにも、まずは広い間口をつくって、できるだけいろんな方に参加していただきたいですね。まちの人のニーズも、ファンクラブ会員の方のニーズもそれぞれだと思いますから、目的を持って、刺さる人に刺さる情報を発信できたら、中長期的に信濃町の課題も解決していけると思うんです。」

きれいな景色、おいしい食べ物、楽しいアクティビティ。そのさらに奥にある、信濃町の「良さ」や、「好きなところ」を探して拾い上げ、届けていく。

広く情報発信をして「信濃町ファンクラブ」の会員を募る一方で、まちの中の人・外の人と対話を繰り返す。そうすることで信濃町でしたいこと、できること、このまちで働くことの意味や、暮らしの豊かさを探っていく、柔軟な活動が求められる今回の求人。まずは、自分自身が信濃町のファンになることから始めてみませんか。

文:風音

募集要項

[ 会社名/屋号 ]

長野県信濃町役場

[ 募集職種 ]

信濃町ファンクラブ運営担当

[ 取り組んでほしい業務 ]

・ファンクラブ会員向けイベント企画・実行
・LINEやInstagramを使ったデジタルマーケティング
・ファンクラブ会員とのコミュニケーション

[ 雇用形態 ]

地域おこし協力隊 (会計年度任用職員)

[ 給与 ]

月額 208,000 円 +期末手当

[ 勤務地 ]

長野県上水内郡信濃町大字柏原 428−2 信濃町役場

[ 活動時間 ]

午前8時30分から午後5時15分まで
(昼休みは正午から午後1時)

[ 休日休暇 ]

勤務日数は1ヶ月17日のため、勤務日以外が休日です。
土日祝日(イベント等で出勤が発生した場合は平日振替)、年末年始、年次休暇、特別休暇

[ 昇給・賞与・待遇・福利厚生 ]

期末手当 年2回(6月、12月)
社会保険
雇用保険
厚生年金
家賃補助
活動用車両支給

[ 応募要件・求める人材像 ]

・社会人経験のある方
・日常的に複数のSNSを使う方。
・地域の魅力を発掘し、多くの人に伝えたい方
・情報発信やイベント企画の業務経験がある方尚良

[ 選考プロセス ]

(1)WEB から応募 町HP等からご応募ください。その際、氏名、住所、年齢、必要条件等、応募要件を満たしているか 確認をさせていただきます。応募要件を確認後、オンライン面談を行います。

(2)オンライン面談 業務についての疑問点や不安な点を解消し、またミスマッチングを防ぐため、応募者の皆さんにはオン ライン面談に参加していただきます。1 回の面談で不安な点がぬぐえない場合は複数回実施します。 オンライン面談後、募集要領に定めのある必要書類を信濃町役場へ提出していただきます。

(3)面接 オンラインもしくは現地面接を実施します。実施時期は、2月以降でオンライン面談を実施した方にのみご連絡します。

(4)最終選考の結果通知 面接をした応募者の中から採用者を決定します。

※この求人募集は終了いたしました。ご応募をありがとうございました。

この企業・組織での募集が再度行われたときに、お知らせすることができます。
ご希望の方は、こちらから登録してください。