長野県小諸市の小諸駅から、山梨県北杜市の小淵沢駅までを結ぶJR小海線。南側区間は八ヶ岳の東南麓を走ることから「八ヶ岳高原線」の愛称で親しまれており、地域の人たちの“足”としても欠かせない存在です。

小海町の観光においても活躍している小海鉄道

しかし、人口の減少や運営難から本数は減り、沿線でも無人駅が増えてきています。そこで、「人が行き交う場である駅を、寂れさせてはいけない」と、小海町役場が駅舎を買い取り、現在はまちで駅の運営を行っています。

今回の募集は、地域おこし協力隊。まちの中高生向けの学習室として解放されている駅舎2階の空きスペースを活用し、まちの中高生が大人との接点を持てる場を運営する仲間を探しています。

左から、屋比久さん、浅田さん、篠原さん

小海駅の駅舎、駅舎と併設したコミュニティ施設「アルル」、小海駅2階の「エキウエスペース」の駅一体を活用していく今回のプロジェクト。小海町役場渉外戦略係長の篠原潤(しのはらじゅん)さん、小海駅の窓口の専門スタッフとして働く屋比久あいり(やびくあいり)さん、地域おこし協力隊として渉外戦略係に所属し、小海町のまちづくりに携わる浅田恵理子(あさだえりこ)さんにお話を聞きました。

町役場が駅舎の再整備を引き受けた背景

千曲川沿いの小海のまちなみ

長野県の東部、南佐久郡に位置する小海町は、北八ヶ岳と奥秩父山塊の間に東西に広がっており、町の中心部には千曲川が流れています。まちのシンボルである松原湖高原には、夏は避暑地として別荘やゴルフ場の利用者が訪れ、冬は全面凍結する松原湖でワカサギ釣りを楽しむ観光客で賑わいます。

小海駅は、八ヶ岳観光の主要駅であるほか、公営バスの発着地であり、駅の周辺には、小海町役場や病院、学校があり、まちの人々の生活において欠かせない拠点です。

洋風な時計台が印象的な小海駅の駅舎

しかし、2000年には1日およそ300人だった平均乗降客数は、2022年には半分の150人ほどまで減少。かつては買い物客で賑わっていた、駅舎に併設したショッピンセンター「アルル」からも一店舗、また一店舗とテナントが撤退してしまいました。「このままではまちが寂れてしまう」と動き出したのが、小海町役場でまちづくりの業務を担う渉外戦略係です。

駅舎の再整備計画の発足から関わっている篠原さん。発券の仕方を覚えるのも一苦労だったと振り返る

 とはいえ、駅運営の経験がない町役場にとって、運営業務は未知数でした。渉外戦略係の係長である篠原さんは「とにかく現場に行ってみないとわからない」と、渉外戦略係のデスクを役場から駅舎に移し、駅前の再整備事業に取り組み始めました。

篠原さん「利用者の減った駅はいわゆる無人駅になっていくのが一般的です。でも、駅で電車を降りた時に人がいないとなんだか寂れた感じがするじゃない。駅に少しでも人がいた方が雰囲気が良くなるし活気が出る。僕は駅を起点に小海町を元気にしたいと思っていたから、まずは自分たちが駅の中に入りました。」

こうして、2023年の4月から小海駅は小海町役場の管轄となりました。かつての駅事務室は、小海町役場総務課の渉外戦略係の執務室に。窓口業務は専任の職員が担当しますが、シフト編成のため渉外戦略係のメンバー切符を販売します。

JRの撤退に伴い、券売機が撤去され、きっぷの販売は全て窓口での対応のみに。当初は「不便だ」と苦情がくるのではという懸念もありましたが、まちの人の反応は好意的だったと言います。

渉外戦略係所属の地域お越し協力隊の浅田さんも役場から駅執務室に。役場にいた時よりもまちの人と関わる機会が増えたという

浅田さん「券売機がなくなったことは一見マイナスなことのようだけど、まちの人にとっては、窓口にいつも人がいるというのはすごく安心できるみたいで。毎日駅を使っている人にとってはちょっとした交流の場になるし、ネットや券売機を使うのが難しい高齢の方のサポートもできる。肯定的な声の方が多かったんです。」

窓口業務をしていると、まちの人から頂き物をすることもあるとか。

現在窓口業務を担当している屋比久さんは沖縄からの移住者

屋比久さん「電車を利用するおじいちゃんおばあちゃんがよくお菓子を持ってきてくれるんですよ。秋になるとりんごをお裾分けしてくれたり。通学で駅を使う中高生の子たちは、『あいちゃん元気?』って話しかけてくれて、おしゃべりすることもあるんです。」

まちの中に安心して使える学習室をつくる

駅舎を引き継いで1年が経ち、駅窓口の運営が軌道に乗り始めたところで、篠原さんたちが次に目指すのは駅及びコミュニティ施設アルルの空きスペースの活用です。

駅舎の2階にある「エキウエスペース」。現在は試験的に学習室として解放されている

小海町には中学校と高校が一つずつあり、近隣市町村から小海へ通学してくる生徒や、小海線を利用して町外に通学する生徒も集まります。

篠原さん「渉外戦略係では、小海高校と連携している事業があり、その中で生徒やPTAから『まちの中に勉強ができる場所があるといい』という声がありました。朝と夕方にはこの辺の中高校生が駅に集まります。電車やバスは使わないけれど、親御さんのお迎えを駅で待つ生徒もいます。暑い日も寒い日も、みんな外で電車や迎えの時間を待っているんです。せっかく空きスペースがあるなら、本を読んだり勉強をしたりしながら、誰かと話せる交流の場にもなればと。」

夕方になると、地域の中高生たちが集まってくる

そこで、2023年の秋から試験的に始まったのが「小海エキウエ学習室」です。

篠原さん「ただ場所だけを提供するのではなく、見守る意味でもコーディネーター的な役割の人が必要だなと。そこで、協力隊の方と一緒になって新しい企画をどんどん進められたらおもしろそうだなとと考えました。」

現在は試験的に週3日、時間を限定してオープンしている「小海エキウエ学習室」

今は試験的に短縮時間で運営されている「小海エキウエ学習室」。利用する中高生たちからは、新しくできた施設に対してどのような反応があるのでしょうか。

浅田さん「無料だからといって、みんなが使ってくれるかといったらそうではなくて。開放して間もないこともあり、まだどこか警戒されている感じがありますね。学習室という名前だからか、『お喋りしちゃ駄目なのかな?』という声もあります。静かに勉強したい子と、人と話したい子が、いろんな使い方ができるよう仕組みをうまくつくっていけるといいのかなって思います。」

どんなこともポジティブに捉えられる前向きな人に来てほしい

地域おこし協力隊となる方は、まずは「小海エキウエ学習室」のことを広くまちの人たちに知ってもらい、運営を軌道にのせることから始めます。その後、徐々に人が集まるようになってきたら、今度は交流の拠点としてイベントや勉強会を行うなど、地域を巻き込んだ企画を進めていきます。どんな人が求められているのでしょうか。

駅の窓口と直結している駅事務室で、篠原さんたちは駅を行き交う人たちを見ながら仕事をしている

篠原さん「『あの人と会いたいし、寄ってみようかな』と思ってもらえるような明るい人がいいですね。気軽に話しかけられて、話ができたり、コミュニケーションが取れる人。家族や先生とは違う、まちのお兄ちゃん、お姉ちゃん的な存在になってほしいです。」

なお、この事業のメインのターゲットは中高生ですが、プロジェクトを運営するためには町役場や学校、PTAや保護者、小海町の民間企業など、関わる人の属性は多岐に渡ります。それぞれの声を聞き、中立的な立場で事業を回していく調整力も求められます。

浅田さん「この事業は、方向性だったり主要な活動内容もこれから決めていく段階なので、言われたことを忠実にこなす人よりも、自分から積極的にアイディアを出して動いていける人がいいですね。小さいことからいろいろと試して、うまくいかなかったら『じゃあ次はこうしよう!』ってめげずにいられる人。」

一時間に一本間隔で運行している小海線。屋比久さんは窓口業務の合間に、中高生と話す機会が多い

普段から小海町の中高生と接する機会が多い屋比久さんは、「前向きな人にきてほしい」といいます。

屋比久さん「中高生たちから、ちょっとした相談を受けることが多いんですが、彼らにとって大人の意見というのは自分が思っているより影響が大きい気がしていて。だから、否定的なことをいう人よりも、悩みごとや相談をプラスに変えていけるような人がいいんじゃないかなと思います。新しいことに挑戦していく事業だから、なんでも前向きに捉えて進んでもらえたら。」

浅田さん「小海の子たちは、シャイな子たちも多い気がするから、協力隊の人がうまく核になって、コミュニケーションをとりながらみんなを巻き込んでいくくような雰囲気がつくれたらいいなと思っています。」

まずはまちの声を聞き、関係性をつくっていくところから

協力隊の任期は3年間。まずは、現在の学習室の運用を引き継ぎつつ、小海町の中学校や高校を訪れてヒアリングをしたり、既に学習室を使用している学生にどうしたらもっと使いやすくなるかを聞くなど、まずはユーザー層である学生たちの声を聞いていきます。

中高生への周知はポスターや掲示板。認知拡大に向けてはさらなる工夫もしていきたいという

活動を進めていくために、学校関係者やPTAなどまちの関係者との間を取り持つ部分は、渉外戦略係が全面的にサポートしてくれるそう。

篠原さん「各関係者のところを回って、『この人はこういう人間で、これからこんな事業をしていきますよ』という紹介は僕たちが一緒にやっていこうと思っています。いきなり一人で動くより、役場がワンクッション間に入った方が動きやすくなると思うので。」

学習室の活用のほか、将来的にはコミュニティ施設『アルル』の利活用にも取り組むことにもなるので、現在入っているテナントの方と関係性を築いていくことも必要になります。

現在はテナントが減り空きスペースが目立つ「アルル」。

今回のプロジェクトの最終的な目標は、学習室の活用を切り口に駅前一帯を盛り上げること。最初の1年間は、まずは学習室の運営を進めつつ、駅の利用者や駅前周辺の人たちともつながりを深めて、まちの人から「こんなことできるかな?」、「空きスペースでやってみたいことがあるんだけど」と声をかけてもらえるような関係性の構築を目指します。

おもしろい大人と出会うことで、まちで働く未来が見えてくる

場所の使い方は自由ですが、篠原さんたちは「地域の大人と学生の接点をつくってほしい」と考えています。

役場に入って20年ほどの篠原さん。まちの外と中をつなぐ仕事をするようになってからは、まちの見方が変わったという

篠原さん「自分が学生のころは、『とにかく東京に行く』としか考えていなくて。大学進学で上京したあと、満員電車と人の多さに耐えられなくて小海に帰ってきたんです。自分の中でも『都落ち』したような劣等感を日々感じていました。でも、まちの方々と関係性を築く中で次第に劣等感はなくなりましたね。

大人が楽しく働いていないまちには、きっと子どもたちは帰ってこないと思うんですよ。でも、中高生が接する地元の大人は先生か親くらい。もっと、小海で働く大人との出会いがあれば、まちの見方は変わるんじゃないかな。」

沖縄県からの移住者で、窓口業務を行う屋比久さんも、移住するまで東京の企業で働いていた地域おこし協力隊の浅田さんも、地域の中高生から見るときっと新鮮な存在です。

窓口で働く屋比久さんは、今ではまちの中高生に慕われる存在に

屋比久さん「小海の子どもたちはフレンドリーな子が多くて、通学で駅を使う中高生の子たちが、駅の窓口でよく話しかけてくれるんです。その日学校であったことから好きな人の相談まで。みんながみんなそうではないんですが、『誰かと話したい』みたいな気持ちは持っているんじゃないかなと。」

小海町には現役で活躍している協力隊員が複数いるため、他の業務を行っている協力隊員たちと連携しながらそれぞれの得意分野を活かした勉強講座や進路相談の会、お仕事紹介の会を開いてみてもいいかもしれません。

地域おこし協力隊の浅田さんは、小海町に来る前は東京の企業で働いていた

浅田さん「中高生たちが、まちの中心である駅に集まって、楽しそうに新しいことに取り組んでいたら、周りの大人たちも嬉しいしまちに希望が持てると思うんです。ここを起点に良い循環が生まれて、住んでいる人たちがみんなまちに誇りを持って楽しく暮らせるような雰囲気ができたらいいなと思います。」

さらに、東京の新宿に本社を置くIT企業が小海支社をつくり、30代の若手社員を中心に、地域活性のために養殖の事業を始めているなど、いきいきと働く大人たちがここ数年でまちに増えてきています。そんな大人たちと中高生の接点ができるようなイベントの企画ができれば、小海町はさらにおもしろくなりそうです。

小海に支社をもつVitalizeは、IT企業でありながら小海で川魚の養殖にも取り組んでいる

篠原さん「つなげられる大人や企画は既にまちにある。僕たちが知っている限りはおつなぎしますし、協力隊の方にも積極的にまちに繰り出しておもしろい大人の仲間を増やしてほしいです。そうして活動を広げていくなかで、『小海って意外といいところだな』とか、『将来小海のためこんなことをしたらいいな』という思いが彼らの中に芽生えてくれればと考えています。」

まちにとって、駅とは切符を買って電車に乗るだけの場所ではなく、通学する学生と通勤する大人たち、観光客と地元の人など、人と人が行き交う場所でもあります。その機能を活かし、人と人が出会う場をつくる今回のプロジェクト。

普段大人との接点が少ない中高生にとって、ここで出会う「楽しそうに働いている大人の姿」は、自分が働く将来を描く上でのイメージに直結することになるかもしれません。まずは自分が「楽しく働く大人」のひとりになることから、まちの未来を一緒に描いてみませんか。

文 風音
写真 yamania

募集要項

[ 会社名/屋号 ]

小海町役場

[ 募集職種 ]

小海駅の自習スペースおよびコミュニティスペースの管理・運営

[ 取り組んでほしい業務 ]

・自習室/コミュニティスペースの管理運営
・学生向けの教育プログラムの企画・実施

[ 雇用形態 ]

地域おこし協力隊(小海町会計年度任用職員)として、町長が任用します。 任用期間は、令和6年4月1日以降委嘱日から令和7年3月31日です。
※任用期間は最大で3年まで延長を行う場合があります。但し、毎年年度末に報告会等を行い、継続採用について判断します。

[ 給与 ]

月額233,000円
※年2回(6月と12月)の賞与あり。

[ 勤務地 ]

小海駅

[ 勤務時間 ]

1日7時間00分(休憩時間1時間)
※休日及び時間外勤務については振替可能。

[ 休日休暇 ]

【休暇】 週休2日を原則として、業務内容によっては調整することとなります。
【有給休暇及び特別休暇】 年次有給休暇及び夏季休暇等の特別休暇については、小海町会計年度任用職員の勤務時間、休暇等に関する規則の定めるところにより、任用期間に応じた日数が付与されます

[ 昇給・賞与・待遇・福利厚生 ]

【社会保険等】社会保険等(雇用保険、厚生年金、健康保険)に加入します。
【住居】任用期間中に生活する住居は、小海町が準備した住居又は賃貸住宅(町が費用負担)になります。(転居費用、共益費、光熱水費等は除く。)
【交通費等】任用期間中の必要な旅費は町で負担し、活動用自動車は用意します。※通勤に係る費用については、支給いたしません。
【活動費】自動車燃料及びその他活動に要する経費(消耗品、研修負担金等)は町が負担します。
【副業】 勤務時間外や休日で業務に支障がなければ、規則内で副業を認める場合があります。

[ 求める人材像・応募要件 ]

【求める人材像】 【応募要件】
〇総務省が定める三大都市地域をはじめとする都市地域等(※1)に在住しており、任用後は住民票を小海町に移動し居住できる方。ただし、在住地の要件がこの限りでない場合がありますので、詳しくは担当までお問い合わせいただくか、総務省の地域おこし協力隊の地域要件(※2)をご確認ください。
※1「三大都市地域をはじめとする都市地域等」とは、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県及び奈良県、並びに札幌市、仙台市、新潟市、静岡市、浜松市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市及び熊本市のうち、過疎地域自立促進特別措置法、山村振興法、離島振興法及び半島振興法に指定された地域以外の都市をいいます。※2 ①「地域おこし協力隊員の地域要件について」 ②「特別交付税措置に係る地域要件確認表」
〇 普通自動車免許を所得しており、実際に自動車の運転ができる方。
〇パソコンの一般的な操作(Word、Excel、Power Pointなど)ができる方
〇SNSなどを活用して情報発信のできる方。
〇小海町の条例及び規則等を遵守し、職務命令等に従うことができる方。
〇地方公務員法第16条の欠格事項に該当しない方。
〇暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条第2号 に規定する暴力団その他反社会的団体又はそれらの構成員に該当しない方。

[ 選考プロセス ]

書類選考

1次面接

2次面接

採用
・取得した個人情報は、採用選考にのみ使用します。
・選考プロセスは変更になる可能性があります。
・不採用理由についての問い合わせにはお答えできませんのでご了承ください。

[ その他 ]

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小海町HP