御嶽山(おんたけさん)の麓、長野県の最西端にある王滝村(おうたきむら)。古くは山岳信仰の地として知られ、全国から多くの信者が村を訪れました。近年は、王滝村にある国有林を走るトレイルランニングやオフロードバイクのコース、自然湖での釣りやカヌーを目的に村を訪れ、森林資源を生かしたアクティビティを楽しむ人の姿が増えています。

周囲の山を越す峠道は1本しかなく、袋小路な立地も村の特徴のひとつです。ものや人の往来が少なかった時代には、きのこや山菜、川魚など、地域の自然の恵みを活かした郷土食文化が育まれ、今日まで守り継がれてきました。

王滝村で古くから食べられてきた郷土食の数々。なかでも代表的なのが写真中央、鰹節のかかった「すんき漬け」

今回は、村の人たちが大切にしてきた「郷土食文化の承継」を行いながら、とりわけ人材が不足している「福祉」分野に携わっていく地域おこし協力隊を募集します。業務の内容に興味を持っていただける人であることはもちろん、「せっかくならば、僕らが好きな村を一緒に好きになってくれる人と出会いたい」と話すのは、王滝村役場の峯村雄大(みねむらゆうだい)さんです。

まずは役場の担当者である峯村さんと、地域の福祉の要となる王滝村社会福祉協議会の中嶋素道(なかじまもとみち)さんにお話を伺いました。

行政・社協を中心に、高齢化が進む山間地の福祉のあり方を再考

峯村さんの出身は、長野県上田市です。直近までは長野県職員として長野市内で働いていましたが、2023年の春から王滝村役場に出向し、現在は企画・観光推進室で企画係を務めています。

峯村さん「配属されるまでは全く接点のない地域でしたが、いざ来てみると、全体がアットホームで親しみやすい村だと感じています。道で会ったときにみんなが声をかけ合う姿はは、王滝村の『いいな』と感じる光景のひとつです。」

最近は村民割を活用して近くの御嶽スキー場に通っているという峯村さん。村での暮らしを満喫している

 王滝村では、村役場と社会福祉協議会を中心に、村民ボランティアなどを交えてさまざまな福祉サービスが行われています。介護保険制度が始まり、要介護者向けの福祉サービスが求められるようになった2000年当初から、民間事業者の参入はほとんどありません。

写真左から、王滝村役場の峯村さんと塚本さん、社会福祉協議会の中嶋さんと梶原さん 

中嶋さん「少子高齢化が進み、昭和後期に1,700人ほどいた人口は、600人台にまで減少しました。都市部では、食事の宅配や車の運転、施設などさまざまな民間サービスがそれぞれ整備されているかもしれませんが、王滝村では、それらを実施するのも私たちの役目です。介護や医療、要介護認定や要支援認定の申請、認知症に関することなど、村の人の生活を支えるあらゆる相談が保健福祉センターに集まってきます。」

こうした状況があるなかで、村が目指すのは「障がい者」や「高齢者」、「介護」や「介助」など対象者やサービス内容で区切られたものではなく、地域をゆるやかにつなぐ網目のような、身近であたたかな福祉サービスの提供です。集まってお茶を飲んだり料理をしたり、日々の暮らしを紡ぐなかで困りごとや悩みごとなど、村の人に寄り添い、より良く生きていくための環境を考え、つくろうとしています。

福祉健康課の塚本友幸(つかもとともゆき)さんは、福祉業界で20年を超えるキャリアを持つ専門職員。高齢者福祉施設で働いていた経験もあり、6年前に王滝村に移住してきました。

塚本さん「王滝村に来る前は、人口規模5万人ほどの市町村で地域福祉に関わる仕事をしていました。前職では、管理職にならないかという話をいただいたこともありましたが、もっと現場で経験を積みたいと考え、転職活動をするなかで王滝村を見つけました。」

福祉に関する国家資格を持つ塚本さん。「専門職として採用してもらえるところ」という点も、王滝村の求人に応募する理由となったそう

塚本さんが福祉の仕事を始めたのは25歳の頃。当時はまだ、経験を積めばさまざまな国家資格に挑戦できる時代で、働きながらキャリアアップできる環境が魅力でした。村に来てからも勉強を続け、新たに2つの国家資格を取得したという塚本さん。業界全体が専門職不足なので、技術や知識を活かせる場面は多いのではないかと考えています。

塚本さん「どんなに大きい都市であっても、基本的には小さなエリアに分けて福祉のコーディネーターを配置していくので、人口が5万人でも20万人でも、支援の内容に変わりはありません。ただ、王滝村は人口規模も小さく、村全体でひとつのコミュニティをつくっているので、平等に支援できるというのがメリットだと感じます。」

例えば、同じ市町村のなかで小さな区分けができると、配置されるコーディネーターの能力次第で支援の程度にばらつきが生じます。さらに行政視点で見れば、どこかの地域だけを優遇するわけにはいかず、結果として暮らしに寄り添いきれないジレンマが生まれるのです。

塚本さん「小さいながらのメリットは結構あるように思います。しかし、同時に、人口が少ないことはデメリットにもなりかねません。やはり働き手となる人が少ないことで、今後大変になっていく地域なので、村としてどうしていくべきか、地域の人を含めて考えていく必要があると思っています。」

「人と人」として、支え合いがある地域をつくる

その中で役場として着目したのが、地域の「食」だといいます。

例えば、平日の昼夜にお弁当を届ける「配食サービス」も社会福祉協議会が担う事業のひとつです。通常のサービスとは別に、月に一度300円の利用料を集めて行っているのが、「お楽しみ弁当」という企画。こちらは、“みんなでつくる地域福祉サービス”としてボランティアを募り、郷土食や旬の味覚を取り入れたお弁当をつくって宅配しています。他にも、未就園児と保護者のふれあいサロン「どんぐり広場」や、小学校の低学年を対象にした「ミニ児童館」、独居の高齢者が増えていることを受けて始まった「ひとり暮らし よらまい会」などいくつかの事業があります。

「住み慣れた地域を持続可能なものにするため、村の人を第一に考えたの福祉事業を構築したい」と話す中嶋さん

中嶋さん「介護予防や生活支援サービスのなかでも、集まって交流をする機会は大切にしています。協力隊の募集にあたって事業全体を見直したとき、みんなをつないでくれているのは地域の食ではないかと考えるようになりました。」

直接的に食事を提供することもあれば、料理教室やお茶会など交流のツールとしても登場する「食」。社会福祉協議会で地域福祉を担当している梶原啓太(かじわらけいた)さんも、食を通じてボランティアさんたちと打ち解けてきた経験があるといいます。

梶原さん「神奈川県でシステムエンジニアとして働いていましたが、人との関わりがどんどん希薄になるのを感じていました。帰省のたびに生まれ育った地域の良さを感じるようになり、一念発起してUターンを決めたのが7年前のことです。福祉の仕事は未経験でしたが、求職活動中にご縁があり、社会福祉協議会に勤めることになりました。」

王滝村の隣に位置する木曽町生まれの梶原さん。王滝村へはスキーに来ていた思い出があり、子どもの頃から馴染みのある地域だ

梶原さんが職場に入って驚いたのは、村の人口の6人に1人、約120名の方が社会福祉協議会のボランティアとして登録し、活動をしていることです。こうしたデータから、王滝村には「地域のために何かしたい」という、強い思いを持った人が多くいることが伺えます。

梶原さん「よく顔を合わせる90歳の男性は、もともと料理の仕事をしていた方です。郷土料理にも詳しく、今もお弁当をつくったり配ったり、ボランティアとして活躍して下さっています。僕のことを本当によく気にかけてくれて、お弁当を差し入れしてもらったこともあります。気持ちの上では、こちらが支えられることばかりかもしれません。」

心がけているのは、一人ひとりが持つ「貢献したい」という気持ちを消さないこと。些細なことでも心を込めてお礼を伝えたり、活動の内容や工夫を積極的に話題にしたり、一緒にお茶の時間を過ごしながら、それぞれの要望を拾い上げています。

梶原さん「地域福祉は、生活と仕事の境目がわかりにくく、どこまでどのように踏み込んでよいのか迷う場面も多々あります。マニュアル的な対応をしても通用しないことがほとんどなので、上手くいかないことがあっても真摯に向き合い、経験を重ねていくのが大事だと感じます。」

もうひとり、お話を聞いたのが、杉野明日香(すぎのあすか)さん。近隣の南木曽町で協力隊として活動していた杉野さんは、2019年に王滝村に村内企業への就職をきっかけに移住してきました。現在は、集落支援員として協力隊の支援や移住促進サイトの運営、空き家バンクの事業に関わりながら、ゲストハウスなどを運営する民間企業に勤め、郷土食づくりにも取り組むパラレルワーカーであり、2児の母でもあります。協力隊の支援では、自身の経験を活かし、活動のことはもちろん、村での暮らしや卒隊後の進路など、さまざまな相談に寄り添います。

脈々と受け継がれてきた食文化は王滝村の暮らしの叡智

杉野さんは、村に来られたお客さんに地域の食を楽しんでもらいたいと思い、王滝村の郷土食の調理を本格的に行うようになりました。

プライベートでも山菜やきのこを採ったり、庭で鶏を飼ったり。派手ではなく、毎日コツコツ積み重ねるような暮らしを楽しんでいる杉野さん。覚えた郷土料理は宿で提供される

杉野さん「木曽地域の山深い文化、特に食を通じて四季を感じられる環境は、越してきたときから素敵だなと感じています。なかでも王滝村の魅力は、郷土食がまだ日常の料理として村の人に親しまれているところです。文献や資料を参照するだけでなく、村の人たちのつくり方をそのまま伝承できる貴重な機会に恵まれています。」

自給自足のなかで自然と生まれてきた王滝村の郷土食は、厳しい冬に向けた食料の保存が主な目的で、発酵食が多いのが特徴です。火入れなどのタイミングや細かいコツは口伝がほとんどで、その年の気候にも大きく左右され、一筋縄ではいきません。また、お正月に食べる「王滝なます」は、春夏秋冬で収穫できたものをその都度保存しながらつくる料理です。春にワラビやふきなど山菜を採って塩漬けし、秋にはエゴマや胡桃を採って下処理しておく。冬に大根やにんじんが採れるタイミングで、やっと調理ができます。

杉野さん「みんなで手間を楽しみながら、一緒に生きるためのご飯をつくる。それも郷土食の醍醐味のひとつなのだと感じます。」

でんぷん質豊富で栄養補給に重宝されるどんぐり(写真前)と、夏が旬の川魚に米を詰め、発酵させて冬まで保存する「万年鮨(まんねんずし)」(写真奥)。

村に残る郷土食のコミュニティのひとつが「食の会」です。役場が主導していた食生活改善推進協議会が解散したあと、今は残った人たちによって自主的に運営されています。

メンバーの細尾さん(写真左)と佐口さん(写真右)。テーブルの上には王滝村の美味しいものがずらりと並ぶ

「ここにくる人はみんな家族だと思って受け入れています」と、話す佐口さんは、蕎麦打ちの名人。村に電気が通り始めた昭和初期からずっと、地域内外さまざまな人を迎え入れてきました。

佐口さん「昔は着物も自分たちで織っていたし、米も野菜も穀類もなんでも、自分たちでまかなって暮らしていました。山岳信仰で御嶽山に来る人が多かった時代には、蕎麦屋を開いて振舞っていたときもあります。冬は寒さが厳しく外に出る機会が減ってしまうので、お茶をするのを口実にみんなで顔を合わせ、食卓を囲むのが毎年の楽しみです。」

細尾さんはパンの先生。乳酸菌で発酵させたすんき漬けは、味噌やパン、チーズなど他の発酵食品との相性も抜群。この日はすんき漬けがのったピザを振る舞ってくれた

ところが、近年村を代表する飲食店が閉まり、ボランティアを担う人も減り始め、寂しい気持ちがあるというおふたり。これまで続いてきた暮らしを守り伝えていくためにも、活動を続けていきたいと考えています。

料理が好きで、人が好き。一緒に幸せを考える仲間と出会いたい

今回募集をする協力隊には、ここまで紹介してきたような村の人たちを「食」という切り口からつなぎ直し、彼らと共に新しい福祉の形を考えていく役割が求められています。1年目の業務は、既存事業を行いながら村の人たちとの関係性をつくること。働き方としては、村役場に籍を置きながら、中嶋さんや梶原さんがいる保健福祉センターの福祉活動に携わるイメージをしています。

中嶋さん「いきなり自主企画を立てたり、郷土食の活用を考案したりというよりは、まずは既存事業を回すなかで、村の人たちを知ってもらおうと考えています。日々のなかでは、いわゆる福祉サービスや介護の現場に入ることもありますし、ボランティアさんたちと料理教室を企画することもあります。そうした活動を通して、村の暮らしを一緒に支えていくような仕事を想像してもらうといいのではないかと思います。」

「いろいろな人とつながるという意味では、人が好きで、ご縁を大切にできることが重要」と中嶋さん

協力隊員の活動としても、カフェや飲食店の開業を目指すのではなく、あくまで既存の事業のなかで進めてきた村役場や社会福祉協議会の企画を通して行うイメージとなります。

峯村さん「郷土食を通じて地域に根ざしてくことを考えると、配食サービスや月に一度のお楽しみ弁当、料理教室などでの場づくりが鍵になると思っています。つくった料理がみんなのつながりや元気のきっかけになっていけばいいなと思っています。」

今でも、お弁当に郷土食が出るだけで喜んでくれる高齢の方は多く、プロのような技術や味が求められているわけではありません。例えば、地域包括支援センターの窓口やフリースペースを使ってどんぐりのコーヒーを出すだけでも、言葉を交わす小さなきっかけがつくれます。

峯村さん「料理が好きな人に、特技を活かすような気持ちで来てもらえたら嬉しいです。味も大切ですが、それ以上に大切なのは、料理や飲み物をつくるまでの過程を村の人と村のなかで楽しみ、時間を共にすること。そうした日々の積み重ねで、多様な人が幸せに暮らせる村ができていくのではないかと考えています。」

その地に連綿と受け継がれてきた郷土食が様々な立場の人たちをつなぐ媒介となっていく

協力隊卒業後は、社会福祉協議会に所属したり、杉野さんのように、暮らしを楽しみながら仕事を見出して村に残ったり。期間中に立ち上げた事業は、その後も継続していけるようみんなで知恵を出し合っていく予定です。

四季を楽しみ、食を楽しみ、人との関わりを大切に生きていく。豊かな自然と食文化が残る王滝村で、地域のこれからの幸せなあり方を模索できるフィールドと、あたたかな仲間が待っています。

文: 間藤まりの

希望者は応募前に個別相談も可能です

応募前に質問や確認したいことがある方は個別相談を受け付けます。
◎企業担当者と応募前に事前に説明や相談を行うことができます。

どんな会社なのか、実際の働き方はどうなるかなど、気になる点をざっくばらんにお話ししましょう。

ご興味がある方は以下よりお申し込みください。
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募集要項

[ 会社名/屋号 ]

木曽郡王滝村

[ 募集職種 ]

社会福祉分野に関する業務(地域おこし協力隊)

[ 募集人数 ]

1名

[ 取り組んでほしい業務 ]

・生きがい、元気づくりの各種教室や福祉イベントの企画・協力
・王滝村の郷土料理を活かした福祉事業の企画・運営

[ 雇用形態 ]

地域おこし協力隊(会計年度任用職員)

[ 給与 ]

報酬 会計年度任用職員 月額215,500円
期末手当支給

[ 勤務地 ]

王滝村保健福祉センター

[ 活動時間 ]

8:30~17:15

[ 休日・休暇 ]

休日は、土、日、祝日、年末年始
※勤務内容等によっては、時間外や休日に勤務することがあります。
有給休暇があります。

[ 加入保険 ]

王滝村の会計年度任用職員として、健康保険・厚生年金・雇用保険に加入します。

[ 住居 ]

活動期間中は村営住宅に入居してもらいます。家賃は負担します。

[ 応募要件・求める人材像 ]

<必要条件>
・普通自動車運転免許を取得している方(介護等に係る資格の有無は問いません)

<求める人材像>
・対人コミュニケーションが苦手ではない方。話し上手である必要はなく、地域の人の話を聞ける方がよい。
・独自の発想で自主的に活動できる方。

[ 選考プロセス ]

第1次選考(書類選考)
※WEBフォームからのエントリー後に、個別に提出していただきます。書類選考の上、結果を応募者全員に文書で通知します。

第2次選考(面接)
第1次選考合格者を対象に面接(会場:王滝村役場)を行います。なお、面接に要する交通費等は個人負担となります。

最終選考結果の報告
最終選考結果は、第2次選考者全員に文書で通知します。

※住民票の異動は、必ず委嘱日以降に行ってください。それ以前に住所を異動させると応募対象者でなくなり、採用取り消しとなる場合があります。

[ その他 ]

よろしければこちらもご覧ください。

王滝村HP