田んぼの中を自動で走り、ブラシで除草する水田除草ロボット「ミズニゴール」。除草剤を使わない米農家にとって、大きな負担となる除草作業を助ける画期的な製品として、2022年にプロトタイプをリリースして以来、農業界で注目を集めています。

ミズニゴールの開発を手がけたのは、長野県塩尻市を拠点とする「株式会社ハタケホットケ」。同製品の開発をきっかけに発足したスタートアップ企業で、テクノロジーとアイデアを掛け合わせ、現代の農業課題を解決するさまざまな製品を生み出しています。これまでリリースした製品には予想を上回る反響があり、製品の量産化を進める中で、現在、新たなエンジニアメンバーを募集中です。

代表取締役の日吉有為(ひよし・ゆうい)さん、エンジニアで取締役のケンジ・ホフマンさんに、ミズニゴール誕生のストーリーや、これからの事業にかける思いを伺いました。

コロナ禍に東京から長野に移住。偶然出会った米づくりが開発のきっかけに

代表取締役の日吉有為さん。農業、製造業ともに未経験で株式会社ハタケホットケを設立

米づくりの現場での課題を細やかにすくいあげ、“当事者目線”を大切にしながら開発後も改良を重ねているミズニゴール。意外なことに、日吉さんが農業と出会ったのはここ数年のこと。コロナ禍に家族で長野に移住し、偶然友人の田んぼ作業を手伝ったことがきっかけでした。

それまでは東京で長く建築業界に携わっており、農業とは無縁の生活。長野への移住も、コロナ禍だけの一時的な“疎開”のつもりだったといいます。

日吉さん「2020年のことです。息子がまだ0歳で、コロナが収束するまでの一時的な移住先として、初めて長野に来ました。正直、東京から出られさえすれば、場所にこだわりはありませんでした。移住してきてから声を掛けられ、軽い気持ちで友人の田んぼを手伝うようになったんです。初めてだから、1年目はただ楽しいというだけで、穫れたお米をおいしくいただいて。2年目には農業自体に興味が湧いて、独学で勉強を始めました。さまざまな農法があることを知り、化学肥料や農薬を使わない自然栽培に挑戦してみようと思ったんですよね」

探究心から始まった自然栽培での米づくりですが、真夏の炎天下に毎週草取りをするのはかなりの重労働。なんとかもう少し楽にできる方法がないかと考えていたところ、隣の田んぼの方が「チェーン除草」を行なっている様子を目にします。

チェーン除草は、2mほどの棒に約40cmの鎖(チェーン)をつけてつくった「チェーン除草機」を田んぼの中に入れ、人力で引っぱって水を濁らせることで、雑草の光合成を妨いで草を生えにくくするという除草法。田植え後、5日に一度ほど行なうと、雑草が生えなくなるといいます。

日吉さんはその様子を見て、賢い方法だと感心しつつ、これだけテクノロジーが発達している時代に人が汗水流して田んぼを歩き回らなければならないのか…どうにか機械で簡単にできる方法がないか…と考え始め、これが後のミズニゴール開発へとつながりました。

ないものはつくる。周りの人の手を借りて、アイデアをかたちに

日吉さんの“あったらいいな”という思いをかたちにする心強い助けとなったのが、エンジニアで、現在は株式会社ハタケホットケの取締役も務めるケンジ・ホフマンさんです。日吉さんとホフマンさんは東京時代から友人で、実は日吉さんが仮の移住先として長野を選んだのも、先に移住をしていたホフマンさんの存在があってのことでした。

写真左がケンジ・ホフマンさん。取材はホフマンさんが開発を行なう部屋で。取材中も3Dプリンターなどが忙しく稼働していた

日吉さん「僕が思いついたアイデアなんて、きっと誰でも考えられることで、すでに製品化されていると思ったんです。でも、調べてみると開発中のものはあっても製品化されているものは見つからなくて。それなら尚更つくる価値があると思い、何でもつくれるケンちゃんに相談しに行きました」

日吉さんがホフマンさんに相談を持ちかけた3日後には、ミズニゴールの原型となるラジコン型の試作機が完成。この時点では方向転換やスムーズな走行に課題があったものの、プロトタイプとしては手応えのあるものが完成しました。

アイデアは無限に湧いてくるというホフマンさん。それをこの開発室で昼夜問わずかたちにしている

ホフマンさん「世の中に存在していないということは、それだけ製品化が難しいということなんですよね。特に田んぼのような沼地を走らせることのハードルはとても高かったです。実験をした僕たちの田んぼでは一切壊れない、調子良いものでも、ほかの田んぼで試すとスタックしてしまうとかね。ただ、そういうチャレンジを克服し続けたからこそ、製品を進化させることができて、今はほぼ故障のないものが出来上がってきています」

最初の試作機が完成した時点では、まだ業界での需要は不透明で、「製品化についてはあまり具体的に考えていなかった」という日吉さん。まずは自分たちが欲しいものをつくるという感覚でした。しかし、周りに薦められて取得した「ソーシャル・ビジネス創業支援金(※)」がミズニゴールの製品化を加速させます。

ミズニゴールの試作品。さまざまなカラーを試したうえで、田んぼの中で最も目立つ蛍光ピンクを採用した

日吉さん「たまたま友人に試作機が完成した話をしたら、今後の研究や開発に活用できる支援金を紹介してくれたんですよね。できることは何でもやってみようと思い、応募締め切りが1週間後だったので、ダメもとでしたが、応募したら通ったんです。友人が行政への提出書類作成などに慣れていて、助けてもらったのも大きかったですね。その時の応募要件に法人であることが必須だったので、その後の事業展開への可能性を見越して株式会社ハタケホットケを設立しました」

こうして、技術面や資金面のサポートを得ながら、移住からたった1年半というスピードで農業と製造業という未経験の業界に本格的に足を踏み入れることとなった日吉さん。最初は友人の手伝いから始めた米づくりも、今では自身の田んぼを持つようになり、長野への移住もいつの間にか一時的なものではなくなっていました。

※長野県の長野県地域課題解決型創業支援事業において実施されている創業支援制度のひとつ

予想外の反響と同時に感じた農業界の課題

2022年4月、ハタケホットケはミズニゴールの開発をはじめとする事業について、プレスリリースを発表するとともに、クラウドファンディングも実施しました。すると、メディアからの取材が次々と入り、クラウドファンディングは目標金額の50万円を大幅に上回る128万円の調達を達成。この反響の大きさは、日吉さんたちにとっても驚きの結果でした。

日吉さん「クラウドファンディングでは、10万円で実証実験に参加できるプランを用意したのですが、そのプランに5人の方が支援してくれたんです。実験なので自分たちでもどうなるか分からなかったくらいなのに、お金を出して使ってくださる方がいて…正直、その時に初めて事の大きさに気がつきましたね」

社会的なニーズを実感したことが、これからの事業展開への手応えとなるとともに、その反響は農業界の課題の大きさの裏返しでもあったのです。日吉さんは実際に農家さんの話を聞き、広大な面積の田んぼの除草がどれだけ重労働か、そしてこれまでは、多くの人が根性論で無理やり乗り越えてきたという現実を知りました。

畦の草を除草してくれるヤギを2頭飼っている。とても人懐こい

日吉さん「国の政策では遺伝子組み換えで農薬に強い品種の改良を進めていますが、やっぱり自分の子どもに食べさせるのは不安です。一方、1万年以上も続いてきた伝統的な栽培方法は安心であることがわかっている。農法を伝統的な有機栽培に戻しつつ、最先端の環境再生型農業(※1)も取り入れ、自動化していけば、安全なお米を長期的に、楽につくることができる。現状を知れば知るほど、今、日本の農家の平均年齢は68歳で、5年後にどうなるかといえば、若返りは望めず73歳になるだけでしょう。そこからさらに5年後どうなるかといったら……。小規模な農家さんはどんどん減っていくばかりですよね。この既定路線をどこかで変えていかなくてはなりません。持続可能な日本の農業をテクノロジーで実現していきたい思いが強くなっていきました」

アイガモ農法(※2)や乗用除草機による除草方法もありますが、育成や管理、操作などの手間が課題で、小規模な農家は導入することは難しいのが実情です。また農家の高齢化が進む中で、大掛かりな重機は操作や管理がかえって負担になってしまいます。

ミズニゴールは高齢の方や女性でも一人で扱えるように徹底して軽量化をはかりました。現在の総重量はおよそ10kgで、理想は7kg。軽量化をすることは、扱いやすくなるだけでなく、稲を傷つけずに走行できるというメリットもあります。

こうした当事者目線の製品開発は、日吉さんやホフマンさんが実際に農作業をし、現場に触れているからこそできること。自分たちが開発者でありながらユーザーでもある。これがハタケホットケのものづくりの最大の強みです。

日吉さん「当事者意識ではなく、当事者“目線”まで引き上げてものづくりに取り組む姿発想の無駄が減り、改善も早くなる。これはうちの大きな強みです。僕たちの仲間になると、自ずと農作業にも出てもらいます。草刈りに借り出されることもあると思いますが、今のフェーズだからこその“現場感”がおもしろいですよね。大手企業では、開発や設計は縦割りで、ものづくりへの手触り感が薄くなりがちですが、ここでは自分がつくったものが自分の作業を楽にしてくれる。『明日の草刈りやりたくないな』と思うからこそ、良いアイデアが生まれるんです」

ミズニゴールは改良を重ね、2024年には内閣官房主催の地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテスト「イチBizアワード」で全国最優秀賞を受賞。エントリーした全国172社のトップに輝きました。

日吉さん「プレスリリースやクラウドファンディングに対する世間の反響や、コンテストでの優勝など、第三者の評価をいただくことで、また一段階フェーズが変わっていく実感がありました。地方だからこそ、メディアや行政との距離が近くて、どんどんご縁が広がっていく。東京だと埋もれてしまうようなことでも、地方だと目立つので、ローカルだからこその可能性の広がりは非常におもしろいですよね」

まだ誰も挑戦していないことを着実に重ねていけば、地方にいても全国から注目してもらえます。コミュニティがコンパクトだからこそ、人とのつながりが広がりやすく、行政からは補助金・支援金などのサポートも手厚く、スタートアップやベンチャー企業にとっては恵まれた環境です。そして、東京よりもむしろ、日本の製造業の最前線を走るような企業の人と出会える機会があるといいます。日吉さんは「挑戦者こそ地方へ」と、ローカルならではの可能性も語ってくれました。

※1 土壌の有機物を増やすことでCO2を貯留し、気候変動を抑制する効果があると考えられている農法。不耕起栽培をはじめ有機肥料や堆肥の活用など古くからある農業技術がベースとなっている

※2 田んぼにアイガモを放し、雑草や害虫を食べさせることで、農薬を使わずに米を育てる有機農法

好奇心が機動力に。小さなチームだからこそのスピード感で次のステップへ

現在、ハタケホットケではミズニゴールの量産化に向けて準備を進めています。2025年は約60台をレンタル提供。2025年モデルは自動運転制御システムの精度を向上させ、より正確な速度と位置を測位することが可能になりました。さらに、耐久性・耐水性もアップし、車輪の素材を見直すことで、稲への負担をさらに軽減しています。

開発室には3Dプリンター、レーザーカッターなどさまざまな機械が揃っており、小さな空間ながらアイデアをかたちにする環境が整っている

これだけのスピード感で次々と改善を重ね、次のステップへとテンポよく進んでいけるのは、技術的に優れたエンジニアがいて、小回りの効く小さなチームならでは。現場と開発部門、経営陣が離れている大手企業ではどうしても実現に時間がかかることも、すぐに現場で試すことができます。

試作機の部品には、ホームセンターで手に入るものや、それをホフマンさんがレーザーカッターなどで加工して使うことも。開発室は、まるで何でも生み出せる小さな工場のようです。

とはいえ、製品としてのクオリティには妥協を許しません。大手企業からのアドバイスを受けて、不良が発生しないよう試作を徹底し、量産化については当初の予定よりも1年ほど遅らせる判断も取りました。

実験用の田んぼにて。冬季も水をはったままにして、いつでも試験運転ができるようにしている

日吉さん「これまでの4年間はミズニゴールにかかりっきりでしたが、来年から量産化を実現し収益化の軌道に乗せて、新しい製品の開発にも取り掛かりたいと思っています。それはきっと、さらに誰も挑戦したことがない領域へ向かっていくはずです。だから失敗は当たり前、むしろ失敗しないと前に進んでいかないので、それを楽しみながらできるといいですね。僕たちのような小さなチームだからこそ、アイデアや技術をすぐに活かせる場があります。日本の農業が持続可能になることを目指していきたいです」

ホフマンさん「僕はとにかく好奇心ばっかりで、次から次へとアイデアが浮かんでくるんです。“できない”という考え方はなくて、“どうやったらできるか”を考える。新しいものを自分の手で生み出す楽しさを感じられる仕事だと思います」

開発・設計の即戦力として、ゼロ・イチを生み出す

ハタケホットケのものづくりは、まだ世の中にないものをゼロから生み出す仕事です。それは時に簡単ではなく、思い通りにいかない場面にも遭遇することでしょう。そんな時に落ち込み過ぎずに、気持ちの切り替えができることも、重要な姿勢です。

今回募集するメンバーは、ロボット・電子回路・組み込みソフトウェアといった複合技術領域を担う人材。ホフマンさんや、開発のアドバイザーの方が使うエンジニアとしての専門用語を理解し、開発・設計の即戦力として、ミズニゴールの量産化と新製品の開発にともにチャレンジする仲間を探しています。エンジニアとしての実務経験は必須ではないものの、ロボット制御やIoTデバイスの基盤設計などに関する基礎知識を備えていることは欠かせません。

取材中、常にアットホームで和やかな雰囲気でお話しくださった日吉さんとホフマンさん

また、当事者目線のものづくりを大切にするハタケホットケでは、農業分野への興味関心も非常に重要なポイント。チームにコミットできるメンバーを、より柔軟な働き方で採用するため、リモート勤務や週数日の稼働も可能ですが、農繁期は塩尻市にある自社の田んぼ作業にも参加できるのが理想的です。

田んぼを耕すうえで、自分たちの“あったらいいな”という些細な思いから始まった製品開発は、今や業界が期待を寄せるプロジェクトにまで大きく飛躍を遂げています。アイデアとそれをかたちにする技術力、実行力が農業の未来を少しずつ、でも着実に変えようとしているのです。そして、その未来に対して誰よりもお二人自身がわくわくしている、そんな風に感じられました。

テクノロジーに頼れるところは頼って、畑を放っておいても安心安全なお米がつくれる。新たな農業の未来、ハタケホットケの次の一歩に、あなたの好奇心とチャレンジ精神を注いでみませんか。

文 杉田映理子
編集 間藤まりの
写真 山口直人

募集要項

[ 会社名/屋号 ]

株式会社ハタケホットケ

[ 募集職種 ]

ロボット制御・IoT開発エンジニア(アシスタント/実務担当)

[ 取り組んでほしい業務 ]

スマート農業機器「ミズニゴール」の開発に関わる、ロボット制御・IoT・電子回路の実務を担当します。

<主な業務>
・農業用ロボットの制御アルゴリズム開発補助
・IoTデバイス、センサー回路の基板設計・試作・評価
・組み込みソフトウェア、通信プログラムの実装
・実証実験のサポート、改善作業
※経験に応じて業務範囲を調整します

[ 雇用形態 ]

業務委託/正社員(アシスタント層も歓迎)

[ 給与 ]

年収300万円~720万円 or 月給25万円~60万円
(業務委託は年間300〜800万円を想定)

[ 勤務地 ]

塩尻市近郊(リモート併用可)

長野県塩尻市大門八番町1-28 
もしくは
長野県上伊那郡辰野町小野1681

[ 勤務時間 ]

9:30~18:30(休憩時間1時間)
フレックス制

[ 休日休暇 ]

週休二日(土日休)
※稲刈りの時期は曜日に関わらず作業が入りますが、週休二日となるよう勤務を調整いたします

[ 昇給・賞与・待遇・福利厚生 ]

社会保険完備

[ 応募要件・求める人材像 ]

・ロボット制御、電子回路、組み込み開発などの基礎知識を持つ方
・手を動かしながらスピード感を持って改善できる方
・新しい技術や未知の領域に前向きに取り組める方

[ 選考プロセス ]

書類選考

面接1~2回(リモート、現地)

内定
※選考期間は約2~3週間程度を想定しています
※取得した個人情報は採用目的以外には使用しません。
※不採用理由についての問い合わせにはお答えできかねます。

[ その他 ]
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