「まちづくり」と聞いてどんなイメージを思い浮かべるでしょうか? どこか利他的であったり、社会貢献性の高い取り組みだという印象を持つ人が多いかもしれません。

しかし、そんなイメージを覆すようなユニークなまちづくり事業を展開している会社が長野県辰野町にあります。その名も合同会社トビチカンパニー。地域に点在する無数のコンテンツをつなぎ合わせて、新たな価値、新たな文化を生み出していく「リレーションカンパニー」です。

彼らが大事にしているのは、架空の誰かのためではなく「ペルソナは自分自身」であるということ。

自分たちが面白い、心地よい、わくわくすると感じるその肌感覚を信じて、私欲を起点にしたまちづくりを展開しています。

今回は、自分たちの暮らしを心地よく面白く豊かにしていくために、泥臭くまちをDIYするトビチカンパニーの取り組みと、新たに募集する、自転車事業部のブランディングディレクターの求人についてご紹介します。

第2フェーズに入った「トビチ商店街」

取材に訪れたのは、長野県の中でも南側、南信と呼ばれるエリアにある辰野町。人口19,000人ほどのまちで、他の地域と同様に人口減少や空き家が目立っています。しかし、他と違うのは地域にある「余白」を面白がる若者が続々と県内外から移住、起業していること。中心街にあるトビチ商店街を訪れると、シャッターがしまっているお店の合間合間に、現代的な内装のカフェやアパレルショップ、雑貨屋さんが。

世界中のアンティーク雑貨をセレクトした「旅する古物商-hito.to-」。空き店舗を利活用した。

トビチカンパニーのプロデュースによって、近年ユニークなお店が増え続けているのがこの「トビチ商店街」です。過去には「トビチmarket」という1日限定の商店街マルシェが開催され、4,000人を超えるお客さんを呼び込み、その後30店舗以上の新規店舗の誘致に成功しているのだとか。

「10年後の日常を」をコンセプトに2019年に開かれた1日限定のトビチmarket。空き店舗を1日だけ借りてポップアップ出店を行なうことで、理想の商店街像を共有した。

さらに歩き進むと、昭和的な3階建てのビルにgrav bicycle stationの文字。一階を覗いてみると、最新鋭のeバイクがずらっと立ち並んでいます。

トビチカンパニーの自転車事業の拠点になっているgrav bicycle station。ここもDIYによってオープンした

さらに2階に上がっていくと…。

ヒノキのフローリングが床一面に敷き詰められ、いくつものデスクや座り心地の良さそうなyogibo、右手にはおしゃれなアイランドキッチンが目に入ってきます。一瞬、商店街の中にいることを忘れてしまうような異空間。その中に、トビチカンパニーの3人がいました。

grav bicycle stationの2階にあるシェアオフィス、トビチのオフィス

「今日はよろしくお願いします。」

トビチ商店街がはじまってから4年目。まずはじめに、トビチ商店街に対する印象を赤羽孝太さん、小口良平さん、奥田悠史さんの3人に聞いてみました。

左から、トビチカンパニーのブランディングディレクター・奥田悠史さん、中心が自転車による世界一周の日本記録保持者、自転車冒険家で自転車まちづくりのスペシャリストでもある小口良平さん、そして一級建築士で空き家リノベーションなどの大工仕事、不動産売買までこなす、「代表社員」の赤羽孝太さん。それぞれ全く異なる強みを持った面々です。

奥田さん「だいぶ知らない人が商店街を歩くようになりましたね。以前は、人っ子一人歩いていなかったですから。」

2022年には当初は想定していなかった、ダンススタジオができたり、学習塾を始める若者が現れたりと徐々に想定を超えるプロジェクトも生まれはじめているといいます。

もともとバス洗車場だった空き物件。DIYによってダンスや音楽が楽しめるローカルエンタメ空間として生まれ変わった「&garage」

赤羽さん「いまは第2フェーズって感じですかね。ここまでは思い描いていた理想だけど、ここからが面白いところだと思います。やっぱり自分たちの思う以上に発展していくのが面白いですね。」

元々は2018年に立ち上がった一般社団法人の「◯と編集社」が、トビチ商店街などのエリアリノベーション事業に取り組んできましたが、ここにきて、事業をさらに加速させるため、新たに立ち上げたトビチカンパニーで収益事業をはじめることに。

赤羽さん「◯と編集社が、トビチ商店街のような公益性が高いエリアリノベーション事業を実証実験しながら、トビチカンパニーで収益事業をつくっていく。この両輪でまちを面白くしていきたいと思っています。」

自転車でまちに点在するコンテンツをリレーションしていく

そんなトビチカンパニーの主力事業として位置付けられているのが、今回の求人でもある自転車事業です。自転車レンタルやサイクリングツアー、サイクルステーションの運営などを統合的に行っています。

エリアリノベーションが事業ドメインである同社。ですが、なぜ自転車なのでしょうか?

奥田さん「トビチカンパニーは、別名をリレーションカンパニーと呼んでいます。それは地域の中にある様々なコンテンツをつなぎ合わせて新たな価値を生み出す仕事です。そういうリレーションをつくっていくのに、自転車はうってつけなんです。」

辰野町は、商店街エリアの他に、日本の原風景が残る里山エリアや、歴史深い宿場町エリアなど、多様なロケーションに恵まれたまちです。しかし、それらが分散しているだけではそれぞれ単一の価値しか持ち得ません。それらをサイクリングツアーで繋ぐことで、ストーリーが浮かび上がり、辰野町にしかない体験を生むことができるのだといいます。

「速度が変わると、世界が変わる」。サイクリングだからこそ見えてくる町の魅力

また、トビチ商店街という小商いのコミュニティによって、辰野町全域にカフェや宿、パン屋といったコンテンツ=点が生まれ始めているので、そういった点を自転車でリレーションしていくことで、より立体的な面白さを持つようになっていきます。

他にも、自転車事業部ではこれまで、自転車×アートをテーマにした美術展も開催。

世界中をめぐった自転車冒険家たちを集め、旅の体験談や、自分軸にしたがって生きるためのヒントを写真とエッセイで表現する「目的のない旅展」を辰野美術館で行いました。

こちらも数千人を超える来場者を呼び集め、これまで自転車に関心のなかった人たちが自転車と接点を持つ機会を生み出すことに成功。

目的のない旅展は、今年、福島県の美術館でも開催することが決まり、コラボレーションの幅も広がりつつあります。

奥田さん「デザイン思考のように、自転車と異なる領域をどんどんリレーションさせていくことで、事業の幅を広げていっています。なので、今回の求人は自転車そのものに関心がある方よりも、自転車というツールを生かして、異なるジャンルと組み合わせていくデザイン思考が好きな人が向いているかもしれません。」

「旅に出たいから、旅に出た」など好奇心に素直になれる言葉と出会えるアート展

日本一の自転車冒険家をブランディングする仕事

多種多様なリレーションを生み出している自転車事業部。その事業をリードしているのが、小口良平さんです。

小口さんは、サイクリストの世界では言わずと知れたレジェンド的な存在。ご本人に代わって奥田さんが説明してくれます。

奥田さん「小口さんは、自転車で世界一周を成し遂げた自転車冒険家です。8年半以上をかけて、世界157か国、15万5,000㎞におよぶ自転車の旅を走破しました。これは日本一位の記録で、世界でも3位。日本人で唯一、世界のサイクリスト50人にも選ばれたんですよ。」

自転車冒険家の小口良平さん

そんな圧倒的な実績を持つ小口さんのアセットを生かして、新たな商品開発やビジネスの創出ができる人材を探しているのだとか。

奥田さん「今回の求人で募集したいのは、日本一の自転車冒険家である小口良平という武器を生かして、ブランディングしてくれるディレクター人材なんです。」

小口さん「ライディングの技術や自転車業界など、自転車に関してはかなり精通しているのですが、企画書をつくったり、具体的なアウトプットに落とし込むのが苦手なので、その辺りを一緒にやってくれる人が来てくれると嬉しいですね。」

自己肯定感の低い若者が自転車冒険家になるまで

そんな小口さんとお話していると、自転車冒険家という力強い肩書きとは対照的に、穏やかで優しげな雰囲気に心地よいギャップを感じます。

小口さんという人のことが気になった私は、そもそもなぜ世界一周に旅立とうと思ったのか、その理由を聞いてみました。すると、返ってきたのは意外な答えでした。

小口さん「最初は世界一周をして死のうと思っていたんです。僕、学生のころものすごく自己肯定感が低くて。『これから良いことなんて絶対にない』と将来に全く希望が持てなかった。大学を卒業しても50年以上も刑務所のような人生が待ってるって本気で思っていました。だから、とにかくドロップアウトしたかったんです。」

社会人時代の小口さん。目立つのが嫌いな性格だっだという。約5年間の会社員生活で1000万以上の貯金をつくり、地球一周にチャレンジした

何か一つでいいからやりきって、そのあとは死んでもいい。そんな決心をして小口さんは世界一周に旅立ったといいます。

しかし、実際に旅で出会ったのは人の優しさでした。生まれ育った文化も、言葉も、肌の色も違う自分に、旅先で出会った人たちは親切にしてくれたといいます。様々な人との出会いを通して、絶望していた世界に、少しずつ光が差していきました。
(自転車世界一周の詳しいストーリーは、小口さんが書いた『スマイル! 笑顔と出会った自転車地球一周157カ国・155,502km』を読んでみてください)

世界一周から帰ってきた小口さんには、死のうという思いは消え去っていました。その代わりに、自分を育ててくれた周りの人や故郷への恩返しの気持ちと、「自転車冒険宿をやりたい」という夢が芽生えたといいます。

小口さん「世界一周を通して、生きていく強さを自転車から得られると実感したんです。例えば、峠を一つ越えたら自分への自信が少しはつくし、つらいとき人に助けられたら人への感謝も湧いて、恩返ししたいと思えるようになった。そういうことを自転車冒険塾で伝えたいなと。」

自転車まちづくりでマーケットと文化を育む

帰国後は、自転車とともに生きていく人を増やすための社会活動をやりたいと考えていた小口さん。たまたま旅人つながりの縁で、奥田さん、赤羽さんと出会います。そして夢を語り合う中で、辰野町をフィールドに自転車まちづくり事業をはじめることに。

小口さん「僕は自転車文化を日本にもっと根付かせたいと思っています。でもそれは単にサイクリストを増やす、サイクルツーリズムを増やすだけでは意味がない。自転車によってまちや暮らし、人生がより豊かに、面白くならなければいけない。そう考えたとき、自転車まちづくりに行き着いたんです。」

そんな哲学のもと、主に4つの事業に取り組んできました。

「サイクルアドバイザー事業」では、サイクルマップやサイクルスタンドをつくるなど、主にハード面のインフラを整備することで自転車フレンドリーなまちをトータルにデザイン。

「サイクルステーション事業」では、自転車でまちをめぐったり、自転車の修理や相談ができる総合拠点の「grav bicycle station」を設立。

さらに「人材育成事業」、「冒険教育事業」では、まちの魅力と旅人をつなぐサイクルガイドを養成しながら、実際にまちをめぐるサイクルツアーを提供することで、サイクリングのマーケットを広げていきます。

それぞれの事業をシナジーさせることで、マーケットそのものを創出しながら、同時にそれが持続していくための文化づくりも両立させていく狙いです。

そういった実績が認められ、最近では琵琶湖で行われる国内最大規模のサイクルツーリズムシンポジウムにも、自転車まちづくりをテーマに講演の依頼があるなど、辰野町モデルの先進性が注目を集めています。

DIYで仲間や共感者を育む

しかし、文化を育むといっても、言うは易し行うは難し。具体的にはどんなアプローチで、自転車文化の創出に取り組んでいるのでしょうか?

トビチカンパニー流の方法は、DIYでした。

たとえば、サイクリストを増やすためにまずはサイクルスタンドを町中につくる取り組みを始めました。普通の既製品をただ設置することも多いそうですが、小口さんはあえてサイクルスタンドのDIYにこだわっているといいます。

小口さん「なぜかというと、みんなでサイクルスタンドをつくる過程で、自転車でまちを盛り上げたいと思ってくれる共感者やパートナー事業者を増やしたかったからです。どれだけスタンドがあっても、地元側でサイクリストを受け入れようという土壌づくりがなければ形だけになってしまう。その意味で、サイクルスタンドは僕たちと地域がつながるツールでもあったんです。文化をつくるとは、それだけ泥臭く一歩ずつやらなければいけないと思っています。」

4年間をかけて、150台以上のサイクルスタンドをDIYで設置したという小口さん。

サイクルスタンドのDIYには子供から大人まで様々な方が参加した

地道なDIYの甲斐もあって、サイクリストが増えても地元からの反応はポジティブ。「最近自転車に乗ってまちを旅する人が増えたね。賑やかになって嬉しいよ」という声も聞かれます。

トビチカンパニーには、一級建築士の赤羽さんがいるため、サイクルスタンドに限らず、店舗内装や空き家のリノベーションもみんなでDIYしながらつくっていくことが多いといいます。

今では辰野町に移住する人は、自分の家をDIYするのが当たり前に。DIY自体がまちの新たなカルチャーになりつつあります。

辰野町では毎年のように空き家がDIYによって再生されています(写真は古民家シェアハウスのDIY風景)。

偶然や無計画さを楽しめる人がいい

ほしいまちや暮らしを自分たちの手でつくる。トビチカンパニーのみなさんのお話を聞いていると、暮らしづくりと、まちづくりが地続きに繋がっている印象を受けます。

最後にどんな人がトビチカンパニーのメンバーとしてフィットしそうか、聞いてみました。

小口さん「僕らってなぜか夜にアイデアをひらめいちゃうことが多いんですよね。そしたらすぐに共有したくなっちゃう。そういうテンションについて来てくれる方だと嬉しいですね(笑)。」

奥田さん「なので◯と編集社では、夜更けのトビチラジオなんていうのもやってます。そうは言っても夜に来てくれなんていいませんから安心してください(笑)。」

また、「無計画な旅が好き」という点も3人の意外な共通点として話題に。

小口さん「僕は自転車旅なので基本的に宿も目標も決めずに旅しますね。その場その場の偶然性に身を委ねながら旅するのが好きです。」

奥田さん「僕はいま三重と長野で二拠点生活をしているんですが、日常的に移動し続けているのが好きなんですよね。いつでもどこにでも行けるっていう自由さにワクワクしちゃって。」

赤羽さん「やっぱり固定されたり目的化されちゃうとつまらなくなるよね。だからこそうちには無計画なところもあるのだけど。なのでそういう偶然性が楽しめる人の方がいいかもしれないね(笑)。」

はじまりは「共同経営者」でも、「複業」からでも

ゆるさや、その時々のタイミングを大切にするトビチカンパニーのみなさん。通常であれば求人も「正社員」や「パートタイム」のように固定的ですが、今回の求人は応募する方の思いや、強み、希望とする働き方に合わせてグラデーションのある求人スタイルに。

フルコミットで自転車事業部のブランディングディレクターをやりたい方は、他のメンバーと同等の裁量を持って、ともに会社の経営を考えながら、事業のブランディングに取り組んでいく「共同経営者」というポジションでもOK。

まずは、複業やスポットからはじめてみたいという方には、「パートナーメンバー」のような形で、案件ごとにお仕事を進めていくスタイルも。

「対話を重ねながら、お互いにとって最適な形で事業をつくっていきたい」と赤羽さんは話します。

全体を通して取材で感じたのは、会社のためにメンバーがいるのではなく、実現したいビジョンを持った個人が、トビチカンパニーという箱を生かすことで、思いを形にしていく、一人ひとりがビジョナリーなチームであるということ。

「ワクワク」や「やりたい」というハートドリブンで仕事をしていくことは、企業で働いていると、そう簡単なことではありません。でもトビチカンパニーのメンバーは、その理想を諦めず、実直にチャレンジし続けています。

そしてそのために、泥臭い仕事も愉快にこなしていく。そんなしなやかさも持ち合わせている、強くて優しい会社こそがトビチカンパニーなのだと感じました。

最後に、小口さんの言葉でこの記事を締めくくりたいと思います。

小口さん「今の世界が嫌で世界一周したのに、結局また同じところに戻ってきたんです。でも帰ってきたら、同じはずの風景が変わって見えた。旅に出るからこそ、変わる世界があると思います。」

文 北埜航太

※ 撮影のため、取材時はマスクを外していただきました。

募集要項

[ 会社名/屋号 ]

合同会社トビチカンパニー

[ 募集職種 ]

自転車事業部のブランディングディレクター

[ 取り組んでほしい業務 ]

日本一の自転車冒険家という武器を生かして、ブランディングするディレクター人材を募集します。自転車と様々な業界を組み合わせ、新たな商品開発やビジネスを創出できる方が望ましいです。

[ 雇用形態 ]

共同経営者でも副業兼業でも。
お互いにとって最適な形態を一緒に考えます。

[ 給与 ]

・役員報酬 月額200,000〜
・業務委託 契約内容により応相談

[ 勤務地 ]

長野県上伊那郡辰野町大字辰野1704
※リモート可(オフラインでの活動もあり)

[ 勤務時間 ]

自由裁量(プロジェクト完遂ができればOK)

[ 休日休暇 ]

自由裁量(プロジェクト完遂ができればOK)

[ 昇給・賞与・待遇・福利厚生 ]

・順次整備
・社用車あり
・社宅提供

[ 応募要件・求める人材像 ]

<応募要件>
・普通自動車運転免許(無くてもとる意思があれば可)
・マニュアルの免許がおすすめ

<求める人材像>
・デザイン思考で自転車を面白くしたいという気持ちのある方
・偶然や無計画さを楽しめる方

[ 選考プロセス ]

書類選考 :履歴書+志望動機1000字程度(PDF提出)

面接(リモートまたは現地)

内定
※取得した個人情報は採用目的以外には使用しません。
※不採用理由についての問い合わせにはお答えできかねます。

[ その他 ]

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■合同会社トビチカンパニー HP

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