「もうずっとみんなで掃除して、ずっと荷物を動かしている。ちょっと青春感あるよね。」

古物商のたつみかずきさんが代表を務める「旅する古物商-hito.to-(たびするこぶつしょう ひとと、以下「hito.to」)」は、単に古物の買い取り販売ではなく、「人と人とを旅したモノの物語」に着目し、次の人の暮らしに手渡すプロジェクト。お伺いしたのは、古い物がたくさん集まる、長野県塩尻市奈良井の倉庫です。

hito.toの名前は「人と人と」を旅したモノの物語、から。奈良井宿から徒歩圏内にある倉庫には、県内外から多くの人が訪れる

取材の日も仲間の2人が地域で不要になった物の買い取りに出ていて、「すごくかっこいいけど誰が買うのっていうサイズのロッカーが手に入った」と、笑うたつみさん。これまで、ゲストハウスの立ち上げや運営、大町市のまちづくりに関わったり、塩尻市の地域おこし協力隊としてシビック・イノベーション拠点「スナバ」のスタッフをしたり、空き家バンクに参画したり、様々な場所で人を結び、事業をつくってきた人物です。「地域の空き家からでてくる古物をなんとかしたい」という想いをもとに、2018年にスタートしたhito.toでは、これまで国内向けに古物や輸入雑貨の販売を手がけてきましたが、社会情勢の変化などを受け、新たに海外へ販路の拡大を検討しています。

海外買付時のたつみさん。商品はメンバーのときめくモノ、欲しいと思ったモノを中心にセレクト。現状渡しが原則

今回の求人は、この海外向けのオンライン販売や輸出に関するあれこれを担当する人材の募集。地域の古物で外貨を獲得し、地域に還元することで、もっとまちが元気になる未来をつくる仲間を探しています。

半径3メートル圏の人への興味からはじまる事業

hito.toが扱う商品は、主に2種類。ひとつは「旅に出る」をテーマにした日用品。プロジェクトメンバーが実際に海外を旅し、現地の人とつながり、物語とともに買い付けたベトナム食器やアンティーク食器、家具を販売しています。ふたつ目が、「地域で暮らす」をテーマに集める、空き家から出てきた古いモノたちです。

集めた物は、塩尻市の倉庫で販売する他に、松本市や上田市で行われるイベントや古物商の市場、東京での委託販売や大阪、名古屋など地方都市の百貨店にポップアップストアを出店するなどして販売しています。

写真は名古屋駅の名鉄百貨店出店時。仕入れからディスプレイ、人脈づくり、ポップの制作まで、全てを手がけている

たつみさん「日々の業務は、大抵は地域の人のお家で一緒に片付けをして、ゴミにせざるを得ないものを買い取ったり、無料で回収したりしています。ぼくたちの活動を通じて、それらが再び誰かの暮らしの道具になり、人の時間に溶け込んでいく。お金よりも先に“地域の人が喜んでくれる”ことが利益になっている部分はあるかもしれません。」

もともと買い付けや流通、せどり(仕入れた商品を仕入れ額よりも高い値段で販売すること)などが専門ではないたつみさんが古物商をしている理由は、地域の空き家を取り巻く悲しさを、なんとかしたいという想いです。たつみさんが地域の空き家に関わりはじめたのは、小学生のころに縁があったという長野県小谷村で、築150年の古民家を改修し、ゲストハウス「梢乃雪」を開業した2011年のこと。

梢の雪開業時はたつみさん25歳。気づけば10年以上、形態や場所を変えながら、地域の空き家と向き合っている

たつみさんが興味を持つのは、少子高齢化や過疎化などの社会課題ではなく、自分の見える範囲、関わってしまった人、つまり空き家で言えば大家さんという一人の人と、背景にある物語。古くから大切に引き継がれてきたもの、嫁入り道具だった箪笥や、子どもたちとの思い出が詰まったミシンなど、地域で買い取りをしていると、とにかく「どうしても捨てたくない・捨てられない」という価値観に出会うそう。その感情全てを受け取ることはできませんが、ゴミにしないできちんと使いたい人たちに手渡すことで、少しの安心が生まれます。

たつみさん「例えばぼくたちが買い取りに行くと、“もう使わないからといってゴミとして扱われると、自分の大切なものを燃やされているような感覚になる”っていう話を大家さんから聞きます。物と人のお別れの儀式というか、そうやって思い出して話をすることってすごく大切なはずなのに、産廃業者にも買い取り業者にも聞いてあげる人がいない。だからこそ、ぼくたちのプロジェクトに意味を感じてくれる人が多いのかもしれません。」

家や土地はあくまで個人の所有物なので、空いている、または荒れている今の状況をつくり出してしまった責任は、確かに個人に帰属します。しかしその過失を、自分自身の罪悪感として背負っている人がいるのに、ケアできる人がいないのはおかしいのではないか、と、たつみさんは言います。

たつみさん「ぼくたちもそこまで関与するつもりはないけれど、聞いちゃったらほっとけなくなるから、いろいろなことを考える。利益を求めている訳ではないけれど、“ひとりで苦しそう”な状況に寄り添うには利益に変えるしかない、という感覚に近いかもしれません。空き家が増えるスピードは加速していて、どれだけ足掻いたところで空き家の減少には寄与できないけれど、誰もやらないなら、ぼくは困っている人と空き家をどうにかするキャラクターでいようと思っています。」

さまざまな現場でさまざまなビジネスの種と出会うたつみさんですが、そのなかで自分が事業化しているのは、特に“儲からないこと”なのだそう。

たつみさん「空き家にしても、古物にしても、社会的にすごく儲かる仕組みではないけれど、最低限、ぼくや関わる人たちが食べていけるだけの市場価値はあるよね、というところに参入しています。古物商として毎月倉庫で商いをしたり、品物を市場に出したり、注文品の対応をしたり、そこそこの売り上げにはなっているけれど、儲かるビジネスですかって言われたらそんなことはない、というところです」

自身の強みは、“さまざまな人と出会って、さまざまな現場に顔を出していること”。そこに市場価値があると考えている

hito.toのビジネスを支えているひとつの要素は“信頼”。「いい奴でいようと思っているわけではない」というたつみさんですが、大家さんや地域のおじちゃんおばちゃん、スタッフなど、周囲の人との暮らしをとても大切にしています。

たつみさん「周囲の人たちのことを無視してやめますって言えない、みたいな事業をつくっている自覚があります。必ずしも自分のやりたいことだけではないから、大変なこともあるけれど、大小さまざまなやりがいも生まれ続けるんですよね。“どうやっても人は一人では生きられない”というのはぼくの信条でもあって、今は結構純粋に人の家を片付けたいなと思っています。」

そんなたつみさんが、地域や倉庫、時に都市部に出向いて感じていること。それは、単純に本当に、日本では本来の価格で商品が売れない時代になっているという危機感です。

社会情勢によって生じた価値観の変化

これまでhito.toでは、東京の商業施設などでスペースを借り、ポップアップイベントをしている人に委託販売をお願いしていました。昨年のクリスマスシーズンに販売したときは、1週間で20万円くらいの売り上げがあったというイベント販売。それが今、同じことをやっても売り上げはせいぜい4〜5万円くらい。明確に売り上げが変わったと話します。

日によっては、人通りの多い百貨店より塩尻市の倉庫の方が売り上げを上げる。消費の仕組みが変わりつつあるのを肌で感じているそう

たつみさん「最近でいえば、ウクライナとロシアの戦争が影響している気がします。塩尻の倉庫にも、人は来るし購入もしてくれますが、3,000円程度の商品でも30分以上悩んで決断に至らないこともあったり、細かなところで購買意欲(意欲というのか、それを買うことができないと思ってしまう心境の高まり?)の減少があらわれています。」

例えば百貨店では、1人2,000円の外食よりも、1,500円のデパ地下グルメを数品テイクアウトして楽しむ人を見かけることが増えたそう。コロナ禍を経て、楽しみ方が“見る”や“食べる”など体験に変わり、さらに最近“停滞”という変化をしているのではないか、とたつみさんは仮説を立てます。

たつみさん「コロナ禍は“おうち需要”という言葉が生まれた通り、家のなかで嗜好的に日常を楽しむことに関心が高まっていたから、食器や古物は動きが良かったんです。ただ、そうした関心も、戦争を機に不安感が高まり、減っているというのが、いろんな現場での印象ですね。このままいくと日本経済はまずいんじゃないかという肌感覚があります。」

もうひとつ感じているのは、“物が本来の価値を留められなくなってきている”という社会の変化。例えば100万円のタンスがあったとき、そのタンスは、100万円で買いたいと思う人がいるから価値を保つことができます。しかし、「50万円で買いたい」という人に売ってしまえば、そのタンスは「過去に100万円の価値があったタンスで、今は50万円の価値しかないタンス」になってしまいます。

たつみさん「古い物は、もう原価なんて償却しきっているから、価値なんてそもそもないのかもしれません。hito.toの値付けは基本的にぼくが担当していて、相場や仕入れ値を元に決めていますが、地域から引き取ってきた物は、場合によって1,000円でも500円でもいいということもあります。でも安易にそうしないのは、ぼくたちがそのモノと物語に価値を感じているから。価格だけ見て購買を渋る人に、“500円でいいですよ、使ってください!”とは言えません。」

「それをしてしまうと、ぼくたちが商品を見下してしまう行為になる気がする」と、葛藤を覗かせるたつみさん

hito.toを取り巻く小売業において、付けられているモノの価格が安いのか高いのか、判断の基準が揺らぎ、適正な取り引きが減っている現在。それを現場で、肌で感じているたつみさんは、このまま社会現象として物の価値が相対的に崩れていくのではないか、と考えます。

たつみさん「そうして、売り手が安易にモノの価格を下げてしまうことに危機感を感じています。このまま造り手やモノの価値が軽視される社会になってしまえば、もっと多くの業界、例えばクリエイターなどにも、価格低下が波及するのではないかと思っていて。だからこれはみんなに関与する話で、まずは今、この目の前にある商品の価値を守るためにできることを考えています。」

そうして見えた答えのひとつが、海外向けのオンライン販売です。

メイドインジャパンで地域に収益を生み出すカッコよさ

今も、出入りしている古物市場のなかには、中国の人をターゲットに海外向けの商品を並べる場があるというたつみさん。日本では高値の付かない商品でも、場所を変えれば、正規の価格で流通できる可能性があるのです。

たつみさん「そうした現場で可能性を感じる一方、“これ全部、海外に行っちゃうんだなあ”って、日本が売られているような違和感も残ります。一緒にいる古物商のおじちゃんたちも、“(自分たちが高値で買えなくて)情けない”と話をしていて、さらに日本の物を海外へ出すことに一役買うべきなのかは、正直迷うところではあります。」

物語を扱うからこそ、モノが旅して生まれる可能性と、日本で紡がれてきた物語が途切れる違和感の両方を抱えている

ジレンマはあるというたつみさんですが、オンライン販売に向けては、決意を新たに、物語を描きはじめています。

決意を固めるきっかけになったのは、幕末の貿易の歴史。鎖国が明けたばかりの日本では、欧米から多くの文化が入ってくるのと比例するように、日本の金が海外に流出し、国力が弱まるのではないかと危惧し、策を練る人たちがいました。その一人が、現在の名古屋市にある陶器メーカー「ノリタケ」の創始者・森村市左衛門です。

たつみさん「彼らが何をしたかというと、1876年に、ニューヨークを拠点に貿易をはじめて向こうに店を出したんです。そのときのキャッチコピーが“メイドインジャパンで外貨を稼ぐ”。日本はみんなで、成長しようぜって言っていた時代。かっこいいなと思うし、自分のなかにもこの感覚があるのに気づきました。」

すでに地域の不要なもの、何もしなければゴミになってしまうものを販売して、得た利益で次の家を片付け、場を再生し、外部から人を呼び込んでいるたつみさんたち。地域にあった物が、巡り巡ってお金や労力となって還元されていく。そう考えると、みんなにとって気持ちのいい形が見えてきました。

たつみさん「地域で今まで処分されていた古いモノで海外から外貨を稼ごう、なんて言いはじめたら、単純にかっこいいじゃん、って思っています。地域のモノで外貨を稼ぎ、それを地域再生の財源に充てる。空き家再生だけでなく、地域インフラの整備や区費の補填になるような地域財源を、地域のゴミと言われてしまうモノで生み出せる未来を描いています。」

事業として取り組む以上、ある程度の市場や売り上げは見えているとのこと。取り組み方によっては儲かる仕組みが構築できるビジネスだと考えています。

たつみさん「根拠はこれまでの感覚値になってしまうけれど、需要と実現可能性は高いと考えています。ただ、まずはそれよりも、ちゃんとこのモノの価値を価値として認めてくれよっていう思いが強いけど」

構想は広がるものの、輸出には各国の法律の違いや表記のルールなど細かな取り決めが多く、hito.toは新しい力を求めています。

ここまで聞いて、ワクワクしてくれる人と事業をつくりたい

現在たつみさんは、hito.to以外にも、塩尻市の空き家バンクの仕事を請け負ったり、倉庫のある塩尻市奈良井の隣の地区、贄川でシェアハウスを運営していたり、空き家にまつわるプロジェクトをいくつか並行して動かしています。

塩尻市贄川地区にある「坂勘」は、シェアハウスと地域内がつながる交流拠点であり「いばしょ」。ここをきっかけに「旧観光案内所・関所亭」や「元ギフトショップ・ハリカ」の利活用など様々な空き家プロジェクトが生まれている

たつみさん「塩尻市は今、外部の人がどんどん入って、行政にも民間にもプレイヤーが乱立してきたところ。3年後の景色は全く変わっていると思うし、そのくらい市全体がおもしろいと思っています。だからぼくは、得意であり、すでにやっている空き家に関わることに寄与しようと思っているところ。hito.toはそのなかでも、注力しているプロジェクトです。」

たつみさんが、日頃一番言いたくない言葉。それは、買い取りに行った先での「ごめんなさい、これは買い取れません」という言葉です。

たつみさん「できるだけたくさん買い取りたいし、せめて回収したい。“こんなの価値ないわよね”って地域の人が言ったときに、“いや価値あります!”って、胸を張ってお金を払えるようになりたい。だからやっぱり、ぼくたちはもっと商品を回さなくちゃいけないんです。」

今まで1,500円でしか売れなかったものが10,000円で売れるようになれば、買い取り値が上がる。相対的に買い取れる量も増えていく計算だ

仲間を募集するにあたって大切にしたいのは、この話を聞いてワクワクしてくれる人かどうか。全くわからないところからのスタートなので、これまでの経験として、海外への販路開拓やECサイトの運営管理、その他輸出に関する知識のある人は大歓迎ですが、未経験でも問題はありません。

たつみさん「買い付けた食器を日本に持ち込むときも大変で、”買付け”という行為そのものと、輸入に関係する通関処理には本当に苦労したけれど、それも今となってはいい思い出です。そうやって一緒に学びながら、道をつくってくれる人であれば、経験の有無や興味のある分野は問いません。」

特に大変だと想像しているのは、法律や決算、運搬システムの選び方、梱包の仕方などが国によって変わるところ。オンライン販売に携わるスタッフということで、居住地は国内外どこでも問題ありませんが、細かなやり取りは多く発生しそうです。

たつみさん「hito.toのメンバーはそれぞれが個人事業で、収益はパーセンテージの分配性。それぞれ暮らしを優先してスケジュールを組み立てながら、稼がないと取り分は減るから、一緒に頑張るぞという形になっています。この辺りは相談できたら嬉しいです。」

現在のプロジェクトメンバーは6名。たつみさんが運営するシェアハウス【坂勘-sakakan-】に住んでいるメンバーと、安曇野や東京など離れた場所に住みながら関与しているメンバーも。

関わり方の深度も、買取・片付け・イベント運営など全ての事業に関わっているメンバーもいれば、販売中心だったり、事務作業や都心出店時の対応を中心にしているメンバーなど、それぞれのライフスタイルによって様々です。

空き家に困る一人の大家さんの力になりたい、という想いからはじまったプロジェクト。時代が変わっても変わらぬ価値を守るため、一緒に日本を飛び出しながら、見える範囲の幸せをつくる仲間を待っています。

文 間藤 まりの

※ 撮影のため、取材時はマスクを外していただきました。

募集要項

[ 会社名/屋号 ]

旅する古物商 -hito.to-

[ 募集職種 ]

古物の再循環を生み出すグローバル販売推進パートナー

[ 取り組んでほしい業務 ]

地域の空き家から出てきた古物を海外向けに販売するために力を貸していただける方を募集します。具体的には、海外のお客様に向けた顧客ターベットの策定から商品選定、ECサイト制作のディレクション・運営、、広報プロモーション活動、輸出に関する手続きなど、古物の海外への流通に関わる業務に関わって頂きたいと考えています。それぞれの方の強みやスキル、やりたい!という想いを基にお任せする領域や業務を設計させていただきます。詳細の業務内容に関しては面談を経て最終決定させていただきます。ここに取り組むべき!というご提案も大歓迎です。

[ 雇用形態 ]

業務委託・プロボノ
※業務内容や条件等は、面談等で双方協議のうえ、変更となる可能性があります。

[ 給与 ]

hito.toでは関わっているメンバーにて「収益分配」という形をとっております。
関わる内容や関わる頻度、貢献性に応じて報酬の%を決定し、得られた収益の一部を分配させていただきます。プロボノでの参画も可能です。

[ 勤務地 ]

〒399-6303 長野県塩尻市奈良井791

※基本的にリモートワークでご対応いただき、必要なタイミングで現地訪問・打ち合わせなどを実施します

[ 勤務時間 ]

業務委託のため規定しません

[ 休日休暇 ]

業務委託のため規定しません

[ 昇給・賞与・待遇・福利厚生 ]

業務に必要な出張や商談のための交通費やその他経費等は負担します

[ 応募要件・求める人材像 ]

・hito.toの事業に共感し、ワクワクする方

・地域とグローバルの循環に関心のある方

※経験は問いません

[ 選考プロセス ]

書類選考

面談1~2回
※採用前に一度塩尻にお越しいただき、我々の活動について詳しくお話する機会を持ちたいと考えています

hito.toメンバー全員との顔合わせ

双方合意の上、プロジェクトメンバー参画開始(スケジュールは要相談)