長野県佐久市浅科地区の希少なブランド米「五郎兵衛米」が育つ五郎兵衛新田が目の前に広がり、その向こうには雄大な浅間山の眺め……。「ほっとぱ〜く・浅科」(以下「ほっとぱ〜く」)のデッキに立ち、この絶景をひとしきり楽しんでから初めて店内に入ったとき、「よくある『道の駅』と違う」と感じました。

「道の駅」といえば地域の農産物や特産品、お土産物などが前面に並べてあるというイメージがあります。もちろん「ほっとぱ〜く」にも、近隣で育った新鮮な野菜や果物、希少なブランド米である「五郎兵衛米」が並んでいるのですが、最初に目に入ったのは、身体や環境に優しい石鹸や洗剤、ふきんなど、日用品の棚でした。奥にはオーガニックやフェアトレードを謳った、普通のスーパーでは手に入りにくい調味料や加工食品がたくさん。地元の佐久市や長野県内の企業のものが多いけれど、それだけに限定されない品揃えです。

どのような考えでこのような店づくりをしているのか、駅長で、この冬から一緒にお店をやっていくパートナーを探しているという金子久登己(ひさとみ)さんにお話を伺いました。

開業22年目の「道の駅」を引き継ぎ、商品を充実させ、ここでしかできない体験を提供する

1998年9月に開業した「ほっとぱ〜く」。以前は別の会社が運営しており、2020年4月に金子さんが代表を務める合同会社TEAM3939が、レストラン以外の運営を引き継ぎました。金子さんは、年に数回、月に1回という人も含めると12名のパート・アルバイトの方と一緒に店を切り盛りするほか、広々とした芝生や観光案内所、トイレなどの施設管理も担っています。

庭にハンモックを設置するなど、お客さんに楽しんで過ごしてもらうための工夫も金子さんの仕事

金子さんは2016年に東京から佐久市に移住し、2019年まで地域おこし協力隊として活動。「凍(し)み豆腐と五郎兵衛米の製造・加工・PR」という仕事に従事しました。

凍み豆腐はこの地で450年ほど前から続く伝統産業で、冬に手づくりの豆腐を屋外で凍らせてつくります。後述する師匠との出会いがあって凍み豆腐づくりを生業としていくことを決めた金子さんは、地域おこし協力隊の任期中に自身で凍み豆腐の製造販売を始めました。その凍み豆腐を「ほっとぱ〜く」にも納めていた縁で、「売店の運営をやらないか」と声がかかったそうです。

当時の「ほっとぱ〜く」は、その数年前にほんの4kmほど離れたところにオープンした大型の道の駅「ヘルシーテラス佐久南」の影響を受け、経営が厳しい状況でした。それでもお店を引き継ぐことを決断したのは、なぜだったのでしょうか。

金子さん「たしかに『ヘルシーテラス』と近くて経営が大変そうではありましたが、移住者が増えるなど、地域の状況も変わってきていました。お店としてやるべきことをしっかりやれば、ファンになってくれる人が出てくるんじゃないかと思ったんです。」

金子さんが考えた「やるべきこと」とは、商品を充実させ、それをできるだけ残さず売ること、そして「ほっとぱ〜く」でしかできない体験を提供する、ということでした。

以前は売れ残ってもリスクのない委託販売のみ行っていましたが、買い取りでないと扱うことのできない商品も積極的に仕入れ、商品の種類は倍以上に増えました。また、入荷したものをSNSで宣伝をしたり、売れ残りそうであれば値引きもしたりしながら、特に食料品の廃棄が出ないように工夫を重ねています。

生鮮食品は日持ちがせず、残ったものは生産者が引き取ることもあれば、「スタッフのみんなで分けて」とか「捨てちゃっていいよ」と言われることも。値引きをしたとしてもお客さんの手に渡ったほうが、つくり手にとっては嬉しいでしょう。「ここなら売ってくれる」と分かって新しいものを持ってきてくれたり、その話を聞いた別の生産者が来てくれるようになったりと、取り引きの幅が広がりました。

「ここでしかできない体験」としては、コンサート、ダンスショー、ストレッチ体験など、素晴らしい眺望が広がる芝生の広場を生かしたイベントや、子ども限定でキュウリやトマト、ゴーヤなどの収穫が体験できる「ほっとぱ〜く農園」など、次々と試行錯誤を重ねています。

イベントスペースとして貸し出しも行う前庭では、近隣のプロ・アマの音楽家が集まって野外コンサートを開くことも

お客さん・生産者さん・お店・子どもたち、4者の幸せにつながる店に

「ほっとぱ〜く」の運営を担うにあたり、金子さんは「お客さん・生産者さん・お店の3者が幸せになること」というビジョンを描きました。最近は、そこに「子どもたち」という視点も加えて「4者の幸せ」を目指しています。

金子さん「もともと考えていた3者の視点では、お客さんに良いものをたくさん買ってもらい、生産者さんにはたくさんお支払いするという経済合理性を追求すれば良いということになるのかもしれません。でも、今生きている人たちが良ければいいというのは、何か間違っている気がするんですよね。将来の社会を生きていく子どもたちのことも考えていきたいと思ったんです。」

具体的には、「教育のために」と佐久市やNPO法人に毎月計2万円を寄付したり、お店の電力を再生可能エネルギーの電力会社から購入したりといった努力を続けています。

子どもたちが将来も幸せに生きていくには、地球温暖化への対策が不可欠。金子さんはそのことを、凍み豆腐づくりを通じて実感したといいます。

金子さん「やっぱり、温暖化の影響がすごくあるんです。凍み豆腐はマイナス5度以下で晴れの日でないとつくれないのですが、そういう日が年々減っていくとなると、これからどうなるのか……。リンゴ農家さんを見ても、ヒョウや遅霜で毎年のように被害を受けています。この辺りでマンゴーができたなんて話も聞きますし、農業への影響も心配です。」

温暖化を止めるには国家単位での対策が必要で、自分たちができるのは微々たること。それでも「農産物を販売するものとして、何もしないわけにはいかない」と金子さん。「この地で何百年、千年と続いてきた食文化を、可能な限り守っていきたい」という思いから、自分たちにできるアクションを起こし、周りの人たちにも発信していこうとしています。よくある「道の駅」とはちょっと違う商品選びにも、その姿勢が現れているのです。

お店の入口付近の棚には、身体や環境に優しい素材や製法にこだわった日用品が並ぶ

82歳の師匠に教わった凍み豆腐づくりへの情熱

金子さんは現在、「ほっとぱ〜く」の駅長と凍み豆腐の生産販売と、2足のわらじを履いています。12月から2月にかけては、昼間は地釜で大豆を炊いて豆腐を作り、夜の間にその豆腐を戸外に並べて凍らせるという仕事が、連日続きます。

雪が降りそう、風が強そう……となれば夜中に何度も起きて様子を見つつ豆腐を出し入れするので、睡眠不足にもなります。家族との生活のリズムも合わず、4歳の娘と関わる時間もなかなか取れず奥さんに申し訳ないという気持ちも。

それでも店を構え、この伝統産業を継承していくことを決意したのは、移住2年目に出会った師匠の存在があったからでした。

現在の佐久市、旧浅科村の矢島という集落では、かつては100軒中60軒ほどの家が凍み豆腐づくりを生業としていました。師匠もそのうちの一軒に生まれ、金子さんが出会ったときは82歳で、最高齢のつくり手だったそうです。

金子さん「地域おこし協力隊の『凍み豆腐と五郎兵衛米の製造・加工・PR』という仕事に興味をもって佐久への移住を決めたのですが、それまでは凍み豆腐というものを知りませんでした。それで1年目は地域の農業団体で学ばせてもらい、お金を稼ぐ手段としては面白いかなと思ったんです。でも、2年目に師匠のところで学ばせてもらったことが転機になりました。師匠は、矢島の集落で450年続いてきた凍み豆腐づくりに大きな誇りを持っていて、それがすごくかっこよかった。その姿を見て、僕もやりたいぞ、と思ったんです。」

ところが師匠は、金子さんが弟子入りした冬の1月の末に、突然亡くなりました。12月中旬から一緒に作業を始め、一緒に過ごせたのは、雪の日を除く賞味20日ほどだったそうです。

昔からのつくり方にこだわりをもつ師匠だったが、金子さんには「好きにやればいい」と言ってくれた

金子さん「すごく短い期間だったから、技術を教われたかどうかというと、まだまだだったところもあります。それよりも、熱量というか誇りというか、そこにすごく感銘を受けて。師匠が亡くなった日に娘が生まれたことにも、運命みたいなものを感じました。」

第一子が生まれる日の朝まで、師匠と一緒に仕事をした金子さん。その意志を継ぐように、師匠が「あの家、空いてるぞ」と教えてくれた豆腐小屋つきの空き家を借り、自分の店を始めたのでした。

冬だけでも通年でも、働き方には様々な可能性が

凍み豆腐づくりのシーズンには、金子さんが「ほっとぱ〜く」の運営にかけられる時間が圧倒的に少なくなります。これまでは、たまたま病気で前職を辞めた方が仕事復帰の場として手伝ってくれたり、受験を終えた高校生が12月から2月の間フルタイムで入ってくれたりと、なんとか冬場の人手不足を乗り切ってきました。

金子さん「これまでの2年間は、コロナで閉店していた時期などもあって売上も不安定で、正社員を雇うなんて到底難しかったんです。それでも、期間限定でガッツリ働いてくれる人が来てくれるというラッキーが続き、やってこれました。ただ、これが次の冬も続くかというと、そんなわけにはいかないでしょう(笑)。そろそろ経営が安定してきたこともあり、ちゃんと採用を考えてみようと思ったんです。」

金子さんが考える採用の条件はかなり柔軟で、春から秋は別の仕事をして冬だけ「ほっとぱ〜く」に集中するという働き方もありだし、年間を通して働くのもあり、「いろんな働き方を提供できたら」とのこと。ただ、「稼ぐためだけに」という気持ちの人ではなく、「ここでの仕事を楽しんで、お客さん・生産者・お店・子どもたちの4者が幸せになる仕組みをどんどんつくってもらえたら」という希望があります。

現在働いているパート・アルバイトの方々にも、決められた役割だけをこなすのではなく、4者が幸せになるという目標に向かって自発的に動いて欲しいという金子さん。一見、厳しい態度ですが、勤務日数や時間帯はかなり柔軟に個々の希望を受け入れています。各々のできないことや不得意なことは認め合い、互いの得意なことや個性を活かし合って働ける職場にしようと、試行錯誤を続けています。

「ここが好きで、僕よりもずっと長い時間を『ほっとぱ〜く』で過ごしている人がいて、『ほっとぱ〜く農園』のお世話はその人にお願いしているんです」。雇用関係の常識に縛られない、様々な関係づくりを模索している

今回募集する人材についても、その人が希望する働き方が実現できればそれが一番で、決まった枠に当てはめるつもりはないようです。ただ、金子さん自身の経験を踏まえると、「何かの生産者であれば、ここでの経験や関係性がより活かせるだろう」という考えもあります。

多様な野菜や果物を持ち込んでくれる農家さんとの会話も、仕事の糧になる

金子さん「僕もお豆腐をつくっていて実感しますが、これだけものがあふれている時代に、自分がつくったものを買ってもらうのってなかなか大変です。このお店で直接お客さんの声を聞けたり、他の生産者さんと知り合えたりという経験は、つくり手の立場に大いに活かせると思います。逆に、つくり手としての視点がお店の運営に活かされたり、新たなお客さんを増やすことにつながったり、ということもあるでしょうね。」

金子さんは、農家さんの繁忙期には畑作業を手伝いに行き、ついでにお店に並べる商品を引き取って帰ってくるなど、「生産者とお店」という関係を超えたつながりづくりにも積極的に取り組んでいます。そのため、農業に関心のある方にとっても面白い仕事になるのではないでしょうか。

「ほっとぱ〜く」に関わることで、各々がスキルアップできるような場に

金子さんが「ほっとぱ〜く」の駅長になって3年目。まだまだやりたいけれど実現できていないことがたくさんあります。新しい人が来てくれたら、ここでしか体験できないコンテンツづくりや食品ロスを減らす仕組みづくりをなど、いろいろなことを進めていきたいし、その人ならではの新たな提案も大歓迎。

ただし、「ほっとぱ〜く」は佐久市から2025年3月までの契約で運営を任されているものです。その後は再び委託を受けるかもしれないし、今とは違う契約条件で続ける可能性もあれば、継続しないという判断もあり得ます。

五郎兵衛米のコーナーでは、それぞれの生産者さんの人柄や思いを丁寧に紹介している

金子さん「地域に必要とされていれば、2025年4月以降も佐久市が僕らに運営を任せてくれるかもしれません。でも、例え僕らがここで働けなくなってもみんなが困らないように、『ほっとぱ〜く』に関わることで各々がスキルアップしていけたらいいと思っています。逆に、自分ができることを増やしたり、お店のやり方を継続的に改善していこうという気持ちがないのであれば、『ほっとぱ~く』には関わらない方がその人のためだとさえ思っています。
 そして、できるなら『ほっとぱ〜く』自体が経済的にも環境的にも持続可能な状態で、4者の小さな幸せに長く貢献していきたいですね。そのためにも、今から考えること、やることがあると思っています。そういう視点も含めて、複業したり新しい仕事をつくったり、ここを使ってやりたいことがある人に来てもらえたらいいですね。」

金子さん自身、450年続いてきた凍み豆腐の食文化を残していくために、「ほっとぱ〜く」という場をうまく活かしたいという目標をもっています。「ここなら、やりたかったことができるかも。」そんなアイデアをお持ちの方、金子さんと一度、お話してみてはいかがでしょうか。

文 やつづかえり

※ 撮影のため、取材時はマスクを外していただきました。

合同会社TEAM3939 金子久登己さんのインタビュー動画

募集要項

[ 会社名/屋号 ]

合同会社TEAM3939

[ 募集職種 ]

道の駅ほっとぱーく浅科 売店・直売所の副店長候補

[ 取り組んでほしい業務 ]

道の駅ほっとぱーく浅科の売店の運営全般。販売商品の選定や農産物を出品する生産者さんやお客さまとのコミュニケーション、イベントの企画等のイメージしやすい業務に加えて、アルバイトスタッフの働きやすい環境整備や商品在庫管理、清掃などなど、運営に付随する様々な業務の中から得意なことや挑戦したいことを中心に、代表と協力しながら裁量権を持って活動して頂きます。

[ 雇用形態 ]

正社員or契約社員
※試用期間2カ月~6カ月(面接時に経歴等を確認し、相談して決定します。)

[ 給与 ]

正社員 :月給180,000円~250,000円(1日7時間以上勤務希望の場合は20万円~)
契約社員:月給220,000円~270,000円(12月~2月は月給制、それ以外は時給制1200円~)
※勤務時間等を含めて相談して決定します

[ 勤務地 ]

道の駅ほっとぱーく浅科
長野県佐久市甲2177-1

[ 勤務時間 ]

正社員 :シフト制(8時15分~18時30までの内、希望する時間)
契約社員:シフト制(12~2月は店長、それ以外は自由出勤)
※店舗営業時間 ①春夏秋:9~18時/②冬:10~17時
※相談次第で店舗営業時間も変更可能

[ 休日休暇 ]

◎年間休日120日以上
・年始休暇
・希望休暇
※金子やアルバイトスタッフと調整しながら希望日にお休みください。
※ただし金子は12~2月は不在がちです。

[ 昇給・賞与・待遇・福利厚生 ]

■昇給年1回(業績による)
■決算賞与(業績により支給)
■雇用保険
■厚生年金
■労災保険
■健康保険
■交通費支給あり
■服装自由
※その他の希望はご相談ください。

[ 応募要件・求める人材像 ]

<必須条件>
生産者さん・お客さん・お店・子供達にとって良いことを模索し続け活動できる方

<歓迎要件>
・春~秋は農業や山小屋で働いて、冬だけガッツリ働きたい方
・平日のみ子育てしながらガッツリ働きたい方(12~2月は夕方勤務や土日祝出勤が少しできるとよい)
・やりたいことに基づいて裁量権を持って働き、キャリアの選択肢を広げていきたい方
・自分で課題を発見、解決しながら経験値を積み、ゆくゆくのキャリアに繋げていきたいと考える方

[ 選考プロセス ]

書類選考

面接2回(オンライン1回、現地2回)

内定

勤務開始(2022年11月以降)

※選考期間は3週間程度を想定しています
※取得した個人情報は採用目的以外には使用しません。

[ その他 ]

今現在の佐久市役所との道の駅運営契約は2025年3月までです。 弊社としては2025年3月以降も継続して運営していきたいとは思っておりますが、県および市の判断によっては運営を継続できない可能性もありますので、ご留意ください。

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note(金子久登己)