八ヶ岳山麓に近い茅野市蓼科(たてしな)エリアは、別荘やペンション、企業や大学の保養所、温泉宿などが立ち並ぶ、主にバブル期に避暑地として有名になったエリアです。地元の人にも旅行客にも愛される蓼科湖畔に2019年に誕生したのが、「TINY GARDEN 蓼科」。国内アパレル企業の「URBAN RESEARCH」が運営していることで一躍話題となりました。
 
今回はその「TINY GARDEN 蓼科」で新しく料理長となる方を募集すると聞いて、施設の運営責任者であり、地域コーディネーターとしても働く粟野龍亮(あわのりょうすけ)さんを訪ねました。

それぞれの距離感で自然を楽しめる場所をつくりたい

中央道「諏訪IC」から車で約30分。標高1,250mの蓼科湖は蓼科高原入口付近に位置した穏やかな湖で、四季折々の素晴らしい景色を見せてくれることから、この地域の観光名所の一つとなっています。その湖畔にある「TINY GARDEN 蓼科」は、元は温泉旅館だったところをリノベーションした施設。粟野さん曰く「外の空気と中の空気が混じり合うように、窓を意識的につくった」そうで、室内にいても開放的で清々しい空気が流れています。

「TINY GARDEN 蓼科」の敷地内には、キャンプしたりロッジに泊まったりと自然の中で伸び伸びと過ごせるエリアがある

キャンプ場やロッジなど、自然の中で泊まれるエリアのほか、カフェ・レストランや温泉、コワーキングスペースを併設した宿泊棟もあり、仕事をしながらの長期滞在も可能。さらに、キャンプギアやアパレルグッズがまるっと揃うショップ「EKAL」もある「TINY GARDEN 蓼科」は、さすが、アパレル企業が運営する施設といった印象です。

「TINY GARDEN 蓼科」運営責任者の粟野龍亮さん

粟野さん「訪れるお客さまごとに適度な自然との距離感を選んで滞在してもらうことをテーマにしています。そういう意味では境界線をあまり定義せず、自然を楽しむという軸の中でいろいろな過ごし方や暮らし方、多様性を受け入れることを大切にしています。」

温泉やカフェ・レストラン、コワーキングスペースを併設した宿泊棟ではキャンプギアを持っていない方でも気軽に宿泊できる客室もある

「TINY GARDEN 蓼科」は2019年にオープンした比較的新しい建物ですが、構想自体はもっと前からあったといいます。きっかけは同アパレルブランドの「URBAN RESEARCH DOORS」の設立10周年記念イベントの「TINY GARDEN FESTIVAL」。「小さな庭先で繰り広げられるガーデンパーティー」をコンセプトに、売り手と買い手が自然環境の中でお互いの垣根を超えて楽しむフェスイベントとして群馬県嬬恋村のキャンプ場で、2013年から6年ほど開催していたといいます。毎年1,000人超の人々が訪れるような人気フェスだったといいますが、運営側としてのジレンマもあったそうです。

「TINY GARDEN FESTIVAL」は2019年より開催場所を「TINY GARDEN 蓼科」に移し、今年も開催予定だという

粟野さん「年に1度、フェスが開催される2日間のために現地で1週間ほどかけて準備するのですが、終了後はすぐに取り壊しとなってしまうので、会社として常時お客さんを受け入れることのできる場所を持ちたいという気持ちがあったんです。『TINY GARDEN 蓼科』は、キャンプブームの流れで立ち上げたのだろうと言われることもありますが、フェスで育まれたアウトドアコミュニティが徐々に大きくなってきたことが背景にあって、そこに時代の流れも手伝って、このタイミングで拠点を持ったという方が正しいんです。」

地域と都市、それぞれの日常・非日常が交わる場

都会的で洗練されたウェアをはじめ、ライフスタイルを鮮やかに彩る雑貨を取り扱う「URBAN RESEARCH」は都市部を中心に店舗展開をしています。そのため、「TINY GARDEN 蓼科」を訪れるお客さまは都市部に住む県外の方が多いかと思いきや、併設されているカフェ・レストランやショップは通年で営業しており、宿泊者以外も利用ができることから、地域住民の方々にも人気で、結構いらっしゃるのだとか。

粟野さん「もっとこの場所を地域に開いていきたいという思いがあります。地域の方には『URBAN RESEARCH』が表現するような都会的な雰囲気を感じてもらったり、県外の観光のお客さまには自然の中での非日常もありながら、日常の延長にあるようなカフェの時間やワーケーションできる環境を提供したり。それぞれにとっての日常と非日常が緩やかに行き交うような場づくりの姿勢をとても大切にしています。」

カフェ・レストランは、宿泊のお客さまと諏訪地域などの近隣エリアから来たお客さまが居合わせる空間に。「会話の中でふと地元の方言が聞こえてきたり。異文化同士が混ざり合いながらも、心地の良い場づくりをしたい」と粟野さんは意気込む

地域の外と中、それぞれの暮らしの中の日常と非日常が緩やかに行き交う場づくりは「TINY GARDEN 蓼科」の物理的な施設だけでなく、立ち上げる企画内容にも反映されています。その事例の一つが、同じ茅野市を拠点にビール造りを行うクラフトビールブランド「8Peaks BREWING」とのタイアップ企画。「BEER CLUB」としてスタートした連続開催のワークショップでは、「8Peaks BREWING」代表の齋藤由馬(さいとうゆうま)さんをゲストに、4回のセッションの中で参加者がビールについて学び、最終的に1本の商品をつくりました。

粟野さん「キャンプとビールは切っても切り離せないことが前提としてありましたが、まずは僕と齋藤さんの関係性があって、そこにお客さまに入ってもらうことで、もう少しその関係性をオープンにしていく。そして最終的に商品化することで、関わるお客さまの輪をもっと広げていくようなことを目指して企画しました。」

大のビール好きという粟野さん。「企画のアイデアはいつも身近なところから始まる」と話す

生産者との距離が近いことは、地域で暮らす醍醐味。現在2期目に入ったという「BEER CLUB」は、二本目となるビールの商品開発に挑んでいるようです。

粟野さん「ビール造りに携わるみんなで夜な夜ないろいろなビールを飲みながら、ああでもない、こうでもないと、話をする時間が楽しいんです。第一弾は”キャンプ場で一杯目に飲みたくなるビール”をつくりました。ラベルの色は自然の中でも映えるよう、グリーンシーズンの緑の補色としてオレンジを選びました。第二弾のビールは”火のある暮らしに合うビール”というコンセプトで、テントの設営などが落ち着いた頃合いに焚き火を囲みながら飲みたくなるビールを現在開発中です。」

一杯目に飲みたいビールをイメージしたというだけに、一口目から爽やかなホップのアロマと余韻が広がる

去年開催された「顔の見える食卓」という焚き火を囲んだディナーイベントでは、半径30キロ圏内でとれた野菜や鹿肉などの食材を生産者さんから直接仕入れ、焚き火で調理した料理をみんなで食す体験を企画したそう。

キャンプ場でのアウトドアディナーイベントは好評につき毎年開催されている

粟野さん「ゲストに料理家の方をお呼びしつつ、盛り付けや提供の場には生産者の方にも同席していただいて。『BEER CLUB』の発想と近いかもしれませんが、生産者の方々と焚き火を囲んで話す中から生まれたアイデアです。生産者と料理人とお客さまが同じ場所で、同じ地域でとれた命をいただく体験をつくれたらと考えて、開催まで漕ぎつきました。人とつながって、関係性ができて、そこから企画が生まれています。」

地域に根ざし、地域の人たちと関わっていく姿勢や、暮らしの中にある魅力を伝えていく観点は、どのように培われたものなのでしょうか。

アパレルに勤めながら気がついた、地域の暮らしや手仕事の魅力

「TINY GARDEN 蓼科」のイベント企画を数多く手がける粟野さんは、「URBAN RESEARCH」に入社しますが、途中旅行会社や地域おこし協力隊として働いた経験もある、特殊なキャリアの持ち主です。

「URBAN RESEARCH」入社後に粟野さんが担当したのはオーガニックと地域の手仕事をテーマにした「かぐれ」というブランド。作家さんのもとを訪ねたり、商品の営業や展示販売をしたり、全国各地を飛び回るような働き方をしていたといいます。地域の人々と長く時間をともにしていた粟野さん。彼らの日常の暮らしに触れ、次第に地域の豊かさを感じ始めたといいます。

茅野市での地域おこし協力隊としての活動時に「URBAN RESEARCH」の元上司から声を掛けられ「TINY GARDEN 蓼科」の運営責任者へ

粟野さん「最終的には作家さんの商品を仕入れて販売することになるのですが、ものを売るというよりも、地域に流れている時間や根付いている暮らしなどを軸に仕事をしてみたいと思い始めて。」

そうして行き着いたのが観光業界。観光分野でのキャリアを模索する中で、地域の魅力を掘り起こし、地域の人々と密接に関わりながらツアー企画を考えられる長野県茅野市の地域おこし協力隊の募集が目にとまり、茅野市へと移住します。

粟野さん「茅野市の協力隊の活動では、地域の食やものづくりをしている方々と一緒にツアーを企画していました。包丁づくりの体験や、寒天製造の現場を巡ったり、ラーメンチェーン店のテンホウさんの工場見学ツアーを開催したり。普段は観光に直接関わっていないような方々や場所ですが、案内したら絶対面白いと思うものをコンテンツとして企画していきました。」

包丁づくり体験では、なかなか立ち入ることのできない鍛治職人の工房に入って、職人のお話を聞きながら参加者自らが包丁をつくる体験を企画した

地域に根ざした産業や暮らしを観光コンテンツとして切り出していく作業は、地域の人とのコミュニケーションの積み重ねによって成り立っています。

粟野さん「相手の特性を見ながらコミュニケーションすることを心掛けています。企業の経営者は話すことが好きな方が多く、すぐに入り込んでいけるのですが、作家さんや職人さんなどはお客さんと接点を持つ機会が少ないことから、僕も伴走しつつ、徐々に滞在時間を長くしたりして、段階を経ながらお客さんとの関係性をつくっていくことを意識していました。」

関わる人たちに寄り添い、地域との関係性づくりを丁寧に行ってきたからこそ、現在の「TINY GARDEN 蓼科」が主催する企画は地域の中と外の人が心地よく混ざりあう場となっているのかもしれません。

地域に根付き、地域を編む視点

粟野さん「企画を届けたい人に対して、どういうまとめ方や届け方をすればいいのかを考えるためにも、”編集”という視点が必要だと思っています。言葉なり、企画内容なり、コトの成り行きを考えたりして、企画を立ち上げる僕ら自身だけでなく、来てくれるお客さまや、関わる人みんなが楽しい、一番いいところはどこかを探っていくプロセスを大切にしています。」

”編集”という視点を大切に、さまざまな体験やサービスをお客さまに提供してきた「TINY GARDEN 蓼科」。彼らが次に目指すのは、”地域と都市をつなぐハブ”的な存在です。

ショップ「EKAL」は「TINY GARDEN 蓼科」を訪れるお客さまに蓼科エリアの観光案内もするなど地域のコンシェルジュ的な機能も果たす

粟野さん「『TINY GARDEN 蓼科』では宿泊中に出す食事を通してお客さまに地域の生産者のことを知っていただいたり、滞在後にアクセスの良いスキー場やロープウェーをご案内したり。一方で宿泊施設としての特性を活かして観光のお客さまの受け入れ先になることもできたり。もちろん滞在中は自然を楽しんでもらうというコンセプトもありますが、外からきたお客さまがこの地域の魅力に触れるための”地域と都市をつなぐハブ”というか、橋渡し的な存在になっていきたいと思っています。」

最近では観光のお客さまだけでなく、移住を検討する方がワーケーションプランを活用して一週間ほど滞在しながらゆっくり地域に入り込むための拠点にもなっていたりするのだとか。

ワーケーション用に使えるミーティングルームは開放的な空間で発想が広がる

施設設計から企画運営に至るまで、間口を広く、さまざまなお客さまのニーズに対応しつつ地域の窓口かつ受け皿となってきた「TINY GARDEN 蓼科」。これを可能にしている土壌としてのチームのカルチャーについて伺いました。

粟野さん「いろいろなものをオープンにしていく価値観があります。自分たち自身が暮らしや自然の中で見つけた楽しみをおすそ分けするような感じで、生産者と繋がれば、その関係性を開いていったり。完璧なものを仕上げて出していくというよりも、例えば『BEER CLUB』の企画のように、つくっていく過程さえもオープンにしながら、人を巻き込むようにしています。もちろんおもてなしすることも重要な要素ですが、お客さまにはそれぞれの心地よい場所を探して、楽しく自由な時間を過ごしてほしいと思います。」

「TINY GARDEN 蓼科」が”地域と都市をつなぐハブ”的な存在になっていく過程には、今まで以上に多様な人のつながりや、プロジェクトが地域の中で生まれていく予感がします。

食がつなぐもの

人と人、人と地域がつながる過程において、「食」というコンテンツが持つポテンシャルは計り知れません。「TINY GARDEN 蓼科」では、カフェ・レストランで提供する料理についても、地域の食材を積極的に使うなど、地域の特色を伝えていく取り組みを実践しています。

野菜を受け取りにいっただけなのに、気付いたら1時間くらい話し込んでしまうことも

粟野さん「週一回程度、農家さんのもとを訪ねて規格外の野菜を仕入れさせてもらっています。天候が良くて野菜がたくさん採れる時は農家さんもすごく嬉しそうにしているのですが、雨が続くと『これしかないんだけど』『来週は大丈夫かな』としょんぼりしていたり。直接コミュニケーションをするので農家さんの感情の機微までわかるんです。だからこそ『しっかりお客さんに届けますね』と声を掛けたりして。同じ野菜でも直接農家さんから野菜をいただくと、気持ちの入り方も違いますね。」

標高が高く冷涼な気候の蓼科高原。冬は多くの農家さんが農閑期となり、なかなか野菜を入手しにくいといいます。今回募集するシェフとなる方は、そうした中で、自身のクリエイティビティや技術を総動員させてつくり出す必要がありそうです。

また、プラスアルファで期待したいのは、生産者さんとのやりとりも含めて、地域と伴走しながらその土地の魅力を伝える「編集者」としての素養があるかどうか。

ミシュラン1つ星を獲得したオーナーが手掛けるとんかつ店「つかんと」との共同企画で実現した1日限りの「POP UP RESTAURANT」では、諏訪地域の老舗酒造「宮坂酒造」の日本酒「真澄」の酒粕を使った特別メニューが提供された

粟野さん「“フレンチの世界で勉強してきたのでその型しかできません”という人よりも、地域の文脈を読み解きながら、目の前にある食材をうまく料理して全体でバランスを取るようなスタイルを持っている人。そういう意味では年齢は問いません。」

頭でっかちに尖らせたメニューをつくるのではなく、蓼科にしかないいろいろな要素を組み合わせつつ、召し上がったお客さまの記憶に残るようなあたたかい料理を提供すること。それが「TINY GARDEN 蓼科」における「食」という切り口での編集のやり方なのかもしれません。

自身も地域で暮らしながら、この地域に暮らす人たちと好奇心を持って交わり、ここにしかないコンテンツを食を通してつくっていける方。「TINY GARDEN 蓼科」の仲間たちと食という切り口から地域を編んでいける方を、お待ちしています。

文 岩井美咲

※ 撮影のため、取材時はマスクを外していただきました。

募集要項

[ 会社名/屋号 ]

株式会社アーバンリサーチ TINY GARDEN 蓼科

[ 募集職種 ]

①料理人
②その他個別相談ポジション

[ 取り組んでほしい業務 ]

①本館ロッジ 1Fにあるカフェ・レストランでの調理を担当していただきます。 長野の自然を感じながら、今までの調理経験を活かして地域にある食の魅力を開発・発信していただきます。提供するメニューは固定せず、シーズンごとに生産者から仕入れた食材をもとに現地でメニュー開発をし、地域とともにサービスを作り出せる仲間になって頂けることを期待します。

②宿泊機能をはじめ様々なソフト事業を展開していくにあたり、共感や主体性を持って、適したポジションでともに事業成長を担っていただきます。業務内容は個別に相談させて頂きます。

[ 雇用形態 ]

契約社員

[ 給与 ]

月給 25万円以上

◎昇給あり
◎支払い方法:月1回 末日締め、翌月15日払い

[ 勤務地 ]

TINY GARDEN 蓼科
長野県茅野市北山8606-1

[ 勤務時間 ]

◎下記時間帯でシフト制
・週5日以上 、 1日8時間以上
・6:00〜21:00の中で8時間

[ 休日休暇 ]

◎シフトにより決定

[ 昇給・賞与・待遇・福利厚生 ]

■交通費支給(月5万円まで)
■社会保険完備(労災・雇用・健康・厚生年金)
■時間外手当
■社員割引
■定期健康診断
■リゾート施設利用
■車・バイク・自転車通勤可
■食事まかない有
■キャンプ場内の温泉に入浴可
■一部制服支給
■昇給
■有給休暇
■繁忙期手当
■産育休

[ 応募要件・求める人材像 ]

・レストランでの調理経験がある方
・ローカル、アウトドアを活かした食に興味がある方
・新たなことにチャレンジをしたいという方歓迎

[ 選考プロセス ]

書類選考

面接1回(リモート、現地ともに可能)

内定

※選考期間は約3週間程度を想定しています
※取得した個人情報は採用目的以外には使用しません。
※不採用理由についての問い合わせにはお答えできかねます。

[ その他 ]

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■TINY GARDEN 蓼科 公式HP